光鎧神天
レーザーが、壁に沿って拡散していき消える。ノジュカントが、その光景に首を傾げながらも、更にレーザーの威力を強めた。だが、レーザーは目の前の壁を貫通することが出来ない。徐々に壁は大きくなっていき、ついにはノジュカント達を押しのけて、空中に移動させた。その壁の中で、4つの鎧が黄金に輝いている。
「ミエル様、これは……」
「なにも、力を隠していたのは相手だけではありません」
「どういうことっすか?」
「この鎧は、私を中心に出来たものです。皆さんに合わせて生み出したとは言え、この4つの鎧は、私の制御下にあります」
「つまり……」
「力を合わせましょう。私達、4人の力を!!」
ミエルの言葉に反応して、4つの鎧が浮遊する。シスラ、サエラ、シゼルの鎧がそれぞれ分離し、ミエルの鎧の周りに集まった。
「四天合身!!」
鎧竜神天から、光のレーザーが照射される。そのレーザーが、それぞれのパーツを導き、鎧竜神天へと合体していった。シスラの鎧のパーツが足に、サエラの鎧のパーツが腕に、シゼルの鎧のパーツが胸と腰に。それぞれ、鎧でも着込むかのようにして合体していく。それらのパーツに合わせて新たに頭が出現し、鎧竜神天は、一回り大きな姿へと変貌した。
「ぐ、グレートだ……」
「さしずめ、グレート・ミエルモードと言ったところでしょうか」
右腕を胸の前へ突き出し、ミエルは拳を握る。すると、腕の装甲部分から、小さな槍が出てきた。槍というよりも、パイルバンカーのように見える。次に左腕を突き出すと、その装甲が展開し、弓の形状に変化した。最後にのけぞるように胸を張ると、背中の球体部分から、高威力の光魔法のレーザーが照射された。
「くっ!!」
そのレーザーは、外に広がっていた透明な壁を砕き、ノジュカント達へと飛んでいく。そのレーザーだけで、15体のノジュカントが、一瞬にして塵へと変わった。
「危ない。守りに入る選択をしていて、正解でした」
残ったノジュカントは、他のノジュカント一体を盾にしていた。そして、また姿をブレさせて増殖する。今度は増殖速度が上がっており、一気に32体ものノジュカントが、その場に出現した。だが……。
「極光のハルバード」
ミエルが、空中にハルバードを出現させて握る。そのハルバードを、まるで感触を確かめるかのようにミエルが振るうと、その動作で飛んだ光の斬撃で、空中のノジュカント達の大半が光へと消えた。
「フフッ、威力はあるようですが無駄です。我らの成長は始まっている。もう、止められない!!」
残ったノジュカント達が、一つに集合して合体する。少し、見た目が大きくなったようだ。パワーも上がっているんだろう。だが、ミエルに焦りはない。
「これこそが、光を光で消し去るほどの私達の最大の力!!光鎧神天!!さぁ、この星を飲み込まんとする怪物よ。光に返してあげましょう!!」
ミエルが、再びハルバードを振るう。光の斬撃が飛んでいき、ノジュカントへと迫った。
「もう、通じませんよ!!」
ノジュカントは、4本の腕で光の斬撃を挟む。その4本の腕と引き換えに、ノジュカントは光の斬撃を防いだ。
「……先程よりも、パワーがあるようですね」
「パワーだけじゃありません」
そう呟いたノジュカントの眼前に、すでにミエルは存在していた。光の8枚の羽を羽ばたかせて、ミエルは一瞬でノジュカントの眼前へと飛翔したのだ。そのまま、右腕の拳をミエルは、ノジュカントの脇腹へと叩き込む。
「ぐっ!!」
ズドン!!!! と、大気を揺らす振動が走る。先程出た小さい槍ではなく、大きな光の槍が、ノジュカントの脇腹を貫通していた。肩の辺りから槍が突き抜け、その槍が更に光り始める。槍は、内側からノジュカントを塵へと変えていった。
「!!」
ノジュカントの背中から、新たなノジュカントが増殖して出てくる。だが、その数は一体。増殖速度は、元に戻ったようだ。
「やはり、そうですか。貴方達は、確かに成長速度が速いようです。しかし、新たなパワーを持った個体に合体した時、その瞬間のみ貴方達は多くの存在への分裂が出来なくなるようですね。個体のパワーが上がったことにより、分裂にさく魔力が増えるからでしょう」
「だからどうしました。それでも同じこと。貴方は、私達を倒せない!!」
「確かに、時間があればそうかもしれませんね」
ミエルの鎧から、一部のパーツが外れる。腕の槍、腕の弓、背中の球体。それらのパーツは、極光のハルバードへと合体し、さらに巨大なハルバードへと変形した。そのハルバードは発光し、辺り一面に光を振りまいている。そのハルバードを、ミエルは両手で持つと肩に担いで、腰を落として構えた。
「ぞ、増殖を!!」
ノジュカントが、異変を感じて分裂する。無理に分裂しているせいなのか、数が増えるのは速いが、何処か不完全なノジュカントが分裂して出てきた。
「光射」
構えたまま、ミエルがそう言う。するとハルバードから、光の矢が無数に発射された。それらは、不完全なノジュカント全てを、撃ち抜いて破壊していく。
「あ、ああ。嘘。何故、こんな威力が」
ノジュカントが、初めて動揺する。それは、己の死を悟ったからこその動揺。産まれて初めて感じる、恐怖。
「それは、私達4人が、力を合わせたからです」
ハルバードの輝きが増していく。それは広がり続け、ノジュカントを白い光で包み込んだ。
「これが、貴方を滅ぼす光。影さえも存在しない、白光の一撃」
「そんな、不滅であるはずの私達が。お前たちよりも、遥かに早く成長し続けてきた私達が……」
白い光が広がった世界に、ノジュカントと光鎧神天のみが存在している。まるで、別の空間みたいだ。そんな中、ミエルは一瞬でノジュカントへと距離を詰めると、その光の源であるハルバードを振り下ろした。まるで、豆腐でも切るかのように、スッとノジュカントは真っ二つに裂けていく。そして、その中心から、外側に向かってゆっくりと消滅していった。
「優しい光に抱かれて消えなさい、ノジュカント」
ミエルが、再びハルバードを振るう。すると、周りの光が消え、何事もなかったかのように元の景色が戻ってきた。
「ノジュカント。貴方達が、もっと早くあの姿になっていたなら、私達は勝てなかったでしょう。しかし、貴方達はあの姿にならなかった。この星を失うことを、飲み込むことを恐れていた。貴方達も、私達と同じように、この星を愛する生物でした。貴方達とは争うことしか出来ませんでしたが、安らかに眠りなさい」
地上に降りて、ミエルは遠くを見つめる。すると、誰かの声が聞こえてきた。それは、山に居た仲間の天使たちの声だった。その声に、ミエルは頷いて答えると、一歩踏み出して山へと近づいていった。自分たちが、守り抜いた故郷へと。