戦時下
「後で調べに行くか。明日辺りでいいかな」
もし後方に軍を転移させるなら、十分こちらの主力を引きつけてから行うだろう。すぐ動くこともないはずだ。とりあえず、荷物を置いてから買い物に出よう。欲しい物もあるからな。そんな訳でアリーと町に出かけることにした。
「で、ベイ。何が欲しいの?」
「ああ、ミズキ用の武器を買おうと思ってね。おっと、ここだ」
「(私用の武器ですか。殿、ありがとうございます)」
「いやぁ、ミズキはニンジャって言ってるのに、それ用の装備を買って無かったからな。まぁ、俺のわがままみたいなとこもあるから、気にしないでくれ」
「(いえ、殿にニンジャの知識を聞いてから私も1段強くなれました。殿のためこのミズキ、誠心誠意ニンジャとして頑張ろうと思います)」
「ありがとう、ミズキ」
とりあえず、武器屋で素材の良さそうな剣を2本買った。魔物軍が攻めてきているせいか、武器屋の商品は品薄だった。あと6本は欲しかったんだがな。そのまま買った剣を持って練習場に移動することにした。
「フィー、レム、ミルク、ミズキ、カヤ。魔力コントロールの手伝いを頼む」
俺は、さっきほど買った剣に魔力を込めて打ち直し形を変えていく。イメージは、魔石をはめる穴が2つ開いた日本刀だ。皆の魔力コントロールのお陰であっさり刀は完成した。魔石をはめる穴には、土属性の魔石と雷属性の魔石を入れ込む。これで土属性の硬化をかけて強度を上げながら、雷属性を纏わせた刀が完成した。もう1本は、短刀にして同じように2つ穴を開け硬化をかけた闇属性の短刀にした。あとは、土魔法で鞘と柄を作って外観も完全に日本刀にし、それをミズキに持たせてみる。……うむ、しっくりくるな。
「ふむ……」
ミズキは、完成した刀を振り回して試している。触手で持ったり片手で持ったりヒョイヒョイと刀を自由自在に振り回していた。本当は、今作れる攻撃属性全ての刀を持たせてロマン溢れる攻撃をして欲しかったのだが。それはまた次の機会にしよう。
「レムさん、ちょっと相手をして頂いていいですか?軽く戦闘時の扱いを考えたいので……」
「分かった。相手をしよう」
お互いに剣を構えてミズキとレムが打ち合う。流石にレムが強い。だがミズキは、レムの動きを見てしっかり2本の刀でガードしていた。……ミズキ、滅茶苦茶強いんじゃないか? あの時は、何もさせずになんとか出来たけど、まともにやりあったらきつかったかもしれない。と言うか、俺がニンジャのことを教えたから更に今は強くなっているのか。正直、ここまで強いとは思わなかった。
「ふむ、殿。このカタナ?でしたか。かなりいいですね。ありがとうございます。……レムさん、もう少しお付き合い頂けますか?」
「ああ」
再度打ち合うレムとミズキだが、今度はミズキもレムに攻撃をし始めた。2人の打ち合いがすごい速さで行われていく。強化魔法を使った俺よりも強いんじゃないかミズキ? 俺も、負けていられないな。2人の練習を横目に俺は、アリーに聖魔級魔法を習うことにした。一通り教えてもらい終えると、ミズキもレムも十分打ち合ったようだ。今日は、そのまま帰って晩御飯を食べることにした。
「ベイ、アリーちゃんと一緒に降りてきてくれ!!」
晩御飯を食べおえて部屋でゆっくりしているとノービスに呼ばれた。なんだろうかと思いながら下に2人揃って降りていく。部屋に行くとノービスとカエラが椅子に座っているので、俺達も向かい側の椅子に座った。
「アリーちゃん、実はな。君の家の、その、あいつらがな……。危ないから君を迎えに行くって聞かなくてな。持ち場を離れようとして困っているんだ。実力だけはあるから、残ってもらわないといざという時国を危険にさらしてしまう。まぁ、君のことで今は前が見えてないがな。……というわけで、早めに帰ってきたってことで家に報告をしてくれないだろうか。本当に、本当にすまないんだが」
アリーは、眉間を指で押さえて険しい顔をしている。何やってんだあいつらは、という感じの表情をしていた。
「ふぅ~~、分かりました。一旦、家に戻ります」
「……すまない」
アリーは、本当に深く息を吐いた。ノービスもなんだか悲しそうだ。隣にいるカエラも、ちょっと気を落としている。誰だ、我が家にこんな雰囲気をもたらした奴!! 許せん!! と思っていると、アリーに腕を掴まれた。そのまま俺の部屋に行き、荷物の整理をして帰る準備をするアリー。スッと準備をおえて、そのまま玄関まで行き皆でアリーを見送ることにした。
「アリーちゃん、本当にすまない。……ま、またいつでも来てくれていい。君の家だと思って」
「そうね。もうアリーちゃんは、うちの子だわ。いつでも来てね」
う~ん、なんだか湿っぽい雰囲気だな。俺も、アリーがいなくなるのは寂しい。ずっと一緒にいて下さい。
「ベイ」
「ああアリー、すぐにまた……。ううん!!」
俺が挨拶をしようとしたが、その前にアリーの唇で口を塞がれた。
「「!!!!」」
う、うちの親が見ている!! ガン見だ。だがアリーのキスは、そのままおわらない。口をつけたまま舌を……。親に見られているのに、我を忘れそうなほど情熱的で深いキスだった。どれだけそうしていただろう。短い? 長い? とにかくすごいキスだった。しばらくして、名残惜しそうにアリーの口が離れていく。お互いの口の間に細い糸が引いた。
「ふぅ……。よし!!ではベイ、お義父さん、お義母さん。一旦、実家に帰ります。ではまた!!」
そう言うとアリーは、また俺に軽いキスをして風魔法で飛んでいった。しばらく俺は、その場から動けずにいた。
「……いい嫁さんをもらったな。ベイ」
「そうね。私達の娘でもあるわ。家族が増えるって、いいものね」
そう言って2人は、俺に寄り添ってくれた。アリーの嫁入りが、完全に決定した瞬間だった。
「(はぁ~、アリーさんもやるもんですね。私達が、口を出す暇もありませんでしたよ。レムにも、見習って欲しいものです)」
「(むぅ……)」
と、とりあえずアリーは、帰ってしまったが気になることもある。明日に備えて、部屋で装備の点検をしようと思い、のぼせた頭を揺り動かして部屋に上がり皆で装備の点検を済ませた。明日は、風属性中級迷宮に行くことにしよう。やはり、不安材料は取り除いておきたい。何よりあそこは、ここから近すぎる。あそこに敵軍が出現すれば、アリーや俺の家族も戦闘に巻き込まれるのは確実だろう。なら、俺達が敵を倒したほうが早いし、被害も少ない気がする。転移魔法陣があるかだけでも見て、あったら破壊しとこう。敵に会った倒そう。そういう方針で明日は行くことにした。
「よし、じゃあ寝るか」
「ちょっと待って下さい、主」
「うん、どうしたレム?」
「フィー姉さん」
レムは、何故かフィーの顔を見て頷いている。フィーも頷き返した。フィーが俺の腕を取って自分の胸に乗せる。
「え?」
反射的に、少し揉んでしまった。
「あっ」
フィーの可愛い声が出た。……可愛い。というか、なんでこんなことになっているんだ。いや、嬉しいけども!! 嬉しいけども!! フィーは、そのまま潤んだ瞳で俺を見つめてきた。それを見てフィーが愛おしくなった俺は、そのままフィーを抱き寄せてキスをする。浅く、深く。胸においた手からフィーの体温が伝わってきた。ぎゅっと抱きしめて数分間かけてキスをする。口を離してフィーが離れると、レムが言った。
「あ、主!!わ、私も、ききき、キスをして頂きたいのですが!!」
いつものレムからは、考えられ無いほどその顔は真っ赤だった。