開戦
取り敢えず、お風呂から上がり、そのまま何事も無く就寝する。途中、寝苦しさを感じて起きたが、俺の腹の上にロロが寝ていた。 ……いつの間に。ロロよ、そこは寝るところではない。起きたついでに、アルティに迷宮の様子を聞いたが、迷宮は平和なようなので俺は再度寝直すことにした。
「……」
朝日が登る。それは、相手にとっての開戦の狼煙であったのか、ミズキは代わり映えしない景色の中に何か妙な違和感を感じとっていた。見た目に変化はない。だが、ミズキは分身体が感じ取ったその僅かな違和感からベイ達を起こし、迷宮へと移動させた。
「始まるのか」
「何も見えませんよ、ミズキ?」
「既にいる」
そのミズキの言葉に、全員が首を傾げていた。だが、数秒後。全員が、その違和感に気づき始めた。地面が、揺れ始めたのだ。まるで、下になにか居るかのように。
「あいつら、ミミズか何かなんですか!!」
ミルクのその発言が終ると同時に、拠点になっている山を囲むように、4つの大穴がその場に姿を表した。そこから湧き出してくるのは、勿論ヴァルキューレたちだ。だが、以前見たヴァルキューレ達とは姿が違う。勿論、完全な同型のヴァルキューレも存在していたが、巨大なパワードスーツのようなヴァルキューレも、その場に存在していた。益々ロボットっぽいな。
「しかし……」
「多いですね……。まるで、蟻のようです」
レムと、ミルクの言う通り。奴らが穴から出てくるのは、まだ終わっていない。山から下の地上部分が、徐々に奴らで埋め尽くされていく。そして、その勢いは未だ、衰える様子が無かった。
「これ、撃ったほうが良いんじゃない?」
「そうかもな。……皆、配置についてくれるか?」
「了解しました」
「暴れるぞ~!!」
「進化した、シデンの力を見せるチャンスです!!」
「……」
「ミエル様」
「……行きましょう」
「うっす!!」
レムの転移で、それぞれが持ち場へと転移する。山の一番下、その最前線に皆が降り立つと、敵の進軍が止まった。
「あ~、あ~。皆さん、お久しぶりです。ヴァルキューレです。予告通り、この迷宮を潰しに参りました。ですが皆さん、どうやら通常の我々では対処できない強さをお持ちのようです。ですので、このような物を用意してきました。もう、皆さんの抵抗は徒労におわります。さっさと降伏してしまったほうが、身のためなのでわ?」
声は、パワードスーツのような物から聞こえる。やはり、あの中に通常のヴァルキューレが乗っているのだろうか?
「言いたいことは、それだけでしょうか?」
ミエルがそう言いながら、鎧を纏う。その手にハルバードを出現させて持ち、ミエルは構えた。同じく、シスラやサエラ、シゼルも続いて戦闘態勢をとる。
「どうやら、話し合いによる平和的解決は、無理そうですね」
「その通りです。貴方がたは、侵略して来た側。私達は、守る側。相容れるはずがありません」
「では」
「どちらが残るかで、勝負を決めるとしましょう」
「ヒュー、ミエル様、やる気っすね!!」
「それでは、押しつぶさせて頂きましょう!!圧倒的な物量で!!」
ミエル達に、ヴァルキューレの軍団が迫る。ミエルに近づくと、パワードスーツは腕を振り上げて、ミエルに殴りかかった。だが、そのパワードスーツの腕部分が、何かに切られたかのようにあっさりと宙を舞う。ミエルが、ハルバードを切り上げて、パワードスーツの腕部分を切り落としたのだ。それも、相手がガード出来ないような速度で。
「戦闘情報、更新。対応速度、アップ」
パワードスーツの切られた腕部分、その破損箇所に、通常のヴァルキューレ達が群がり始めた。そして、あっという間に形を変えてパワードスーツの腕へと混ざりあい、同化していく。吹き飛ばされた腕は、まるで何事もなかったかのように修復していた。
「うげっ!!なんっすか、あれわ!!」
「あのデカブツは、ヴァルキューレ達が寄り集まって出来た、鎧ってことでしょうか?」
「だったら、まとめて吹き飛ばすチャンスじゃない!!クリムゾンランス!!」
アリーが、山の上の拠点から、下の敵めがけて炎の槍を放つ。槍は地面に突き刺さると、周囲を巻き込んで巨大な爆発を起こした。だが、敵が吹き飛んだ穴を即座に埋めるかのように、穴からまた別のヴァルキューレ達が這い出してくる。
「なるほど。私達と、物量勝負をしようってわけね。……クリムゾンランス・レイン!!」
アリーの掛け声とともに、地上に向かって、大量の炎の槍が降り注いでいく。その槍の雨は、この迷宮を埋め尽くすほどの量で一気に天から振ってきたが、その爆発が止むと、また地上には大量のヴァルキューレ達が這い出してきていた。
「殺しそこなった?」
「いえ、また補充されただけかと」
「まじ?」
「マジです」
地面には、先程アリーが吹き飛ばしたヴァルキューレ達の残骸が転がっている。それを、新たに這い出してきたヴァルキューレ達は、その身に吸収していた。
「装甲、更新。ステータス能力、上昇」
「あいつら、さっきから何を言っているんですか?」
「どうやら、仲間の残骸を取り込んで、強くなっているらしい」
「つまり、後から出てくるやつほど、厄介になってくると?」
「かも知れない」
「なら、残骸も残さず、破壊すればいいだけのこと!!」
「その通り!!」
シゼルさんが、光のレーザーを地上に向かって放つ。そのレーザーで、地上にいる大量のヴァルキューレ達が、残骸も残さず消えていった。
「血の魔神!!」
ヒイラの血の魔神が、巨大な姿となって地上に着地する。その大きな手のひらで、ヴァルキューレ達を掴み上げると、血の魔神はそのまま押しつぶした。
「純粋な魔力になるまで、装甲を押しつぶす!!」
ここまで短時間で大量に数が減れば、向こうも焦るだろう。俺はそう思っていた。だが、それは甘い考えだった。
「大型の敵を確認。対応行動、集約」
血の魔神の近くのヴァルキューレ達が、一斉に集まりだし、巨大な山を築いていく。すると、そのままヴァルキューレ達は混ざりあい、新たな姿へと変化していた。それは、血の魔神程もある、巨大なロボットだった。
「げげっ、まだあんなものに!!」
「処理開始」
巨大なロボットが、ヒイラの血の魔神に掴みかかる。血の魔神はその腕を受け止めたが、パワーで負けているのか、相手に押され始めた。
「ぐっ、なんて馬鹿力……」
「負けるなヒイラ!!あんなのに負けるな!!」
「分かってるよ、アリーちゃん。大丈夫。血の魔神は、パワーだけの魔神じゃないからね!!」
血の魔神は、今にも押しつぶされそうになっている。だが、ヒイラがそう言うと、血の魔神はぐにゃっと形を変えてその場から消えた。それは液体。流れる血液へと変化した血の魔神は、そのまま巨大なロボットの背後へと周る。そして、姿を戻すと、その腕を巨大な剣へと変化させて巨大なロボットを貫いた。
「敵の液状化を確認。対応行動、自爆します」
「えっ?」
巨大なロボットが、内側からまばゆい光を放ちだす。そして、周囲を巻き込んで、血の魔神ごと自爆した。後には、血の魔神は残っていない。そして、爆風で飛び散った残骸を、新たに這い出してきていたヴァルキューレ達が吸収していた。




