強さの証明
「惜しい……」
「くぁっ!!」
ジャルクをロデから、急いで奪い取る。そして、俺はジャルクを抱えたまま、現状の報告をした。
「また、変なことに巻き込まれているな」
「ニーナさんの街のお悩みをすぐに解決したのに、今度はミエルさん達の故郷を救うんですか。ベイ様、大変ですね」
「愛する嫁のためだから、そんなに苦でもないさ。それに、古代迷宮は叩き潰して回らないといけないようだからな」
ジャルクをナデナデしながら、俺は話す。よしよし、いい子だぞジャルク。そのまま、寝てしまってもいいぞ。
「確かに、今までまともな古代迷宮がないようだな」
「一個ぐらい、まともなとこもあるんじゃないですか?」
「はいはい、期待はしないほうが良いのよ、ロザリオ。どうせ潰すんだし、迷いがない方が良いでしょう。人類の利益優先よ」
「それは、そうだけど」
「一つぐらいまともだと良いんだが、このペースでは無理そうだな。どいつもこいつも、この星を自分たちの物にすることしか考えていない」
「分かりやすくていいと、私は思うなぁ。完全な人類の敵ってわけだし。後腐れがなくて狩りやすい。まぁ、ベイくん達がいなかったらお手上げだったけど」
「そうだな。敵だと、はっきりしているのはいい。だが、ベイ達じゃないと対処できないのはなぁ。ちょっと問題だ」
「どうして?」
「国家の問題を、たった一人。いや、チームに押し付け続けることになるからだ。これは、良いようでいて実際にはひどい。誰も、ベイの代わりを出来ない訳だからな。ベイを失えば、人類は終わりだ」
「そんなの、今更じゃないですか。ねぇ、アリーさん?」
「そうね」
俺がジャルクを撫でていると、レラが撫でたそうにしていたので、寝そうになっていたジャルクを渡した。レラは受け取ると、ジャルクのすべすべした皮膚を撫でて、嬉しそうにしている。ジャルクは、もう眠たそうで、もう好きにしてくれといった感じで目を閉じ始めていた。
「ベイは、この世界の誰にも変わることが出来ない存在。つまり、私の夫!!他の誰かになんて、務まるはずがない!!」
「いや、アリーさん、そこの話をしているのではなくてですね」
「強さも同じよ。私の夫こそ、最強無敵!!代わりになる人材が、いるはずもなし!!」
「まぁ、ご主人様以上の人間は、これ以上いないでしょうね。と言うか、いたらビビります」
「もう、ベイ君人間やめてるんだもんね。そりゃあ、誰も勝てないよ」
「ヒイラ、それは間違いよ。ベイは、そんなことしなくても強かった。それだけよ」
「うーん、まぁ、そうかもね。時間さえあれば、到達するのが遅いか速いかの違いだったかも」
「そうよ。あの街で、あいつと戦っていなければ。……いえ、やめておきましょう。昔の話だもの」
その時、俺の脳内にその場面が蘇った。一撃で殺される自分。守ることも出来ず、遠ざかっていく死という感覚。そして、己の全てをかけての復活戦。所々記憶はないが、俺の脳は覚えているらしい。あの、最悪の感覚を。だが、今の俺はあの時の俺じゃない。俺は、闘志でその恐怖を握りつぶした。次は倒す。俺の心に、その感覚が満ちていった。
「マスターは、凄いです。えらい!!」
「ああ、ありがとうフィー」
俺が、怖い顔でもしていたんだろう。フィーは、そんな俺に笑いかけてくれた。癒やされるなぁ。
「ともかく、国が解決できない案件をこうも解決していてはなぁ。いずれ、国に首が回らないようにされるぞ」
「それは困るわね。やっぱり、国も滅ぼすべきなのかしら?」
「アリー、ストップ。大丈夫。そう一直線に考えなくても、手はあると思うよ」
「例えば?」
「俺達が動く前に、何者かが解決したことにすれば良いんだ。カザネの時のように」
「なるほどね。流石ベイだわ。完璧な作戦ね」
「……出来れば、国で一つの迷宮を討伐したという実績も欲しいですね。私達の、おじいちゃん達とかでいいので」
「私達以外でも、討伐可能って前例が欲しいってこと?」
「そういうことです。英雄クラスの人材を育成すれば届く強さだというのなら、まだ妥協できる範囲でしょう。ですが、アリーさん達程の人材となると……」
「超英雄だからね、私達」
「やっぱり、未来の魔法があると違うね」
天才2人が、揃ってそういう。確かに、この2人の代わりなど、今後生まれてこれるかすら怪しいものだ。しかも、天才な上に可愛い。
「特にベイだな。その力、天井が見えない。そんなやつの代わりなど、いるはずもないが。だからこそ、目立たないようにする必要があるな。その力、眩すぎる」
「気をつけるよ」
「ああ。だが、倒さねばならないみたいだからな。やはり、正体を隠して討伐が打倒なんだろうか」
「主人、ヒーロー家業の手伝いは、おまかせ下さい!!」
「ああ、その時は頼んだぞカザネ」
カザネは、生き生きとしている。やはり、ヒーローは未だにカザネの心の中でくすぶっているんだろうな。皆を守りたいと。
「後は、国の別戦力の強さの証明だが、これはおじいちゃん達に任せるしかないか」
「予定では、ベイが全部潰す予定だけどね。そうじゃないと困るし」
「そうでしたね。……とすると、やはり正体を隠して討伐が一番みたいですね。流石、ベイだな」
「いやぁ、サラサも心配してくれてありがとう」
「最近、お祖父ちゃんが家に帰ってこれてないようだしな。ベイには、そうなって欲しく無かっただけだ。単なる、私のわがままだよ」
ガンドロスも大変だな。手紙か何かでも来ていたんだろうか? それとも、サイフェルムにいた時にシアにでも聞いたんだろうか?
「そうか」
「強いっていうのも考えものよね」
アリーがそう言うと、皆がうんうんと頷いた。