大天使シスラ
では、俺の全力のロロ捕獲劇をお見せしよう。
「幼妻に!!」
まず、風魔法での加速ブーストからの神魔級強化による全体筋力の強化。これにより、完璧なスタートダッシュをなす。
「なり!!」
続けて、カザネモード時のディレイウインドを発動。これにより、俺の身体は魔法の効果によって超加速。すでにその場にいたかのように身体が移動し、その場に出現する。だが、本気で発動すると身体がオシャカになるので、劣化版発動だ。お陰で少しのタイムラグが有る。だが、俺はロロの背後にいきなり現れたかのように出現した。これでも劣化版なんだよなぁ。
「まし!!」
すかさず俺は、ロロの口を手のひらで塞ぐ。この時、鼻も間違って塞がないように位置に注意して口を塞いだ。そして、素早く小脇にロロを抱きかかえる。
「むぐっ!!」
そして、俺はロロを捕獲すると会議室へと戻っていった。どうやら、まだロロちゃんとは話し合いが必要らしい。
「ただいま」
「おかえりなさいっす」
「むぐぐぐ!!」
「ただいまだって」
「ロロちゃんも、おかえりなさいっす」
俺は、ロロを下ろした。ただし、肩をがっちり掴んだまま。
「ロロちゃん、いきなりあれは酷いんじゃないかな?」
「なんで?」
「なんでって、俺の同意がないじゃん。大切なところだよ、そこ」
「周知することが大切だって、部族では言ってた」
「……それは、ちょっとおかしいね」
「家族になるのは素晴らしいことだから、皆に言って回らないと行けない。誤解じゃないですよ。夫婦ですって」
「そ、そうかもしれないね。でもね、俺の同意がないじゃない。そこがないと、まだ言っちゃいけないと思うなぁ」
「言ってれば、事実は後からついてくるって」
「ゴリ推しすぎるだろ!!」
俺のツッコミも虚しく、ロロは頭をかしげている。しかし、何とか考えを改めてもらわねばなるまい。こんな子が、幼妻だと言って回るんだぞ。こんな子がだ。やばいって。
「そんなに、私もそこの子達と変わらない」
「はい」
「えっと、今は元の姿というか。变化してるだけというか」
「私は武器ですから」
そう言って、ロロはフィーとシデン、アルティを指差す。シデンも幼女モードだからな。そう見えるのも仕方ないかもしれない。だが、根本的に違う。それは、種族的な価値観。恐らくだから分からないが、天使の年齢的価値観は、人間のそれに近い。つまり、ロロが周りに幼妻ですというのは、人間的に言うそういう意味になるのではないか? それが、俺は嫌なのだ。突き刺さる視線にさらされるのが!! だいたい、なんでそんなに決断が早いんだ!! 俺とアリーみたいに、もうちょっと関係を育んでからにしようよ!! そういうの、階段を飛ばして、飛行機で登っていくのやめようよ!!
「あの3人はね、外見は年をとっても変わらないんだよ。2人とも、ロロちゃんよりお姉さんなんだ」
「はい、皆のお姉さんです!!」
「よっ、フィー姉さん!!」
「多分そうですね。多分」
「私は武器なので」
そう言えば、ミルクは含まれないんだな。 ……まぁ、あの最強兵器があるのでは、同列には見えないよな。
「なるほど。では、私もそういう感じで」
「いやいやいや、感じとかでOKにならないから!!どうしようもないから!!」
「いえ、事前契約。これなら通る!!」
「ゴリ押すね、ロロちゃん!!」
強い。この幼女、メンタルが強い。本当に幼女か?
「大自然の中では、いつ死ぬか分からない。ビビッときたら即決断。常識」
「幼女になんて理論教えてるんだ、狩猟天使は」
「では、幼妻(仮)ということで」
「逃れられないの!!決定事項なの!!」
「イエス!!」
「アリーさん、何とかなりませんか?」
「私も許す!!」
「アリーーーー!!!!」
全ての退路が絶たれた。俺の見栄を、守ってくれる嫁はいない。俺は、ひとり静かに膝を床についた。
「まぁまぁ、ロロちゃん、仮なんっすからあまり言いふらしちゃ駄目っすよ」
「何故。私はすでに予約済み。周知するべき」
「いいっすか。私ら、全員この人の嫁なんっすよ。それで、ロロちゃんまでも嫁になるといい出したら、どうなると思うっすか?」
「どうなる?」
「この迷宮、全ての女性が押し寄せてくるっすね。私も嫁にしてくれって」
「何故?」
「私ら、この迷宮出身なんっすけど、ベイさんについて行ってから凄く強くなったんっすよ。それを、羨ましがらない天使がいると思うんっすか?」
「……強い力、憧れる。欲しい、当然」
「そういうことっす。私ら、これでも迷宮で地位が高いっすからね。一応、それなら強くても普通じゃないっすか。でも、ロロちゃんがいきなり強くなったらどうっすか?」
「私が、強く……。そんなの、ずるい。力、皆欲しい」
「そういうことっす。ロロちゃんが今言って回る。そして強くなる。これを、皆うらやましがるんっす。そして、全ての女性がベイさんに殺到する。力を求めて」
「それ、危ない。夫、捌ききれない」
「いや、ベイさんなら楽勝なような……」
ロロが、首をかしげる。その表情に、シスラはいやいやと頭を振って表情を濁した。
「そ、そうっすね。ベイさんでも危ういかなぁ……。危ういかもしれないっすね」
恐ろしく棒読みだ。
「ともかく、それを防ぎたいんすよ。だから、今言って回るのは無しで」
「……分かった」
グッジョブ、シスラ!! ナイス!! 愛してる!!
「では、私が族長になったら言う」
「えっ?」
「生き残ってるの、若いのだけ。私、強くなる。族長、強いの当然。問題ない」
「あ、そうっすね。それならいいのかなぁ……」
「了解、族長選定は年始。だけど、今は族長不在。代理のみ。今のうちに鍛える」
シュッシュッとジャルクを抱えながら、ロロはパンチを繰り出す。やる気だなぁ。
「ジャルクパンチ。ジャルクキック。ジャルク・ウルトラストロングメテオパンチ」
全くジャルクを使ってないけど、技名にジャルクが入るようだ。イメージでは、ジャルクも一緒に戦っているんだろうか。
「ふぅ、でも取り敢えず、なんとかなったな。ありがとう、シスラ」
「いえいえ、愛する夫の為っすからね」
マジ天使かよ、シスラ。ああ、シスラの後ろから後光さえ見えてきた。これが天使。ありがたや、ありがたや。そう内心で思いながら、俺はそっとシスラの手を握り頷いていた。ありがとう。そう思いながら。