価値観
「どうした、ロロちゃん?」
「えっと、一緒に居ても良い?」
そう言いながら、ロロは俺の前によってくる。何故だか、ジャルクもお願いしますとでも言わんばかりに、頭を下げていた。
「受け入れ担当の人が居ただろ。その人じゃ駄目なのか?」
「フェーゼさんはいい人だけど、安心できない。ジャルクが怯えないから」
そう言って、ロロはジャルクを俺に差し出す。ジャルクも、言葉が分かっているのかうんうんと頷いていた。果たして、本当に分かっているからなのか、俺に対して怯えているからなのかは分からないが。
「ジャルク、あげますから。お願い」
「!?」
「今、ジャルクもの凄い勢いでブンブン首を振っているけど大丈夫なのか?」
「ジャルクは、聖属性なんですかね?」
「どうなんだろうか?」
「聖属性のようですね。青い肌をしていますが、間違いなく聖属性でしょう」
「そうなのか」
「どうです、ミエル様?」
「私らの後輩候補っすか!!」
「ありじゃないですかね」
「えっと、でもジャルクちゃんも若そうだし……」
「……」
皆のその言葉に、アルティだけが険しい目でロロ達を見つめていた。その真意は分からないが、何か問題があるようだ。俺としても、まだ若い子を仲間にするのはちょっと躊躇われる。ミルクに教育してもらえそうな期間があるなら、それも完全になしとはいえないのだが、今は戦争中だ。そんな暇もなさそうだからな。今は、やめておいたほうが良いだろう。
「ジャルクは、ロロと一緒にいたいってさ。友達だろ。一緒に居てあげなきゃ」
「そう、かな?」
そのロロの言葉に、ジャルクはぶんぶんと首を振る。まるで、食べられたくないですと必死に語っているようだった。その姿に、ロロは笑みをこぼす。
「仕方ないな」
そう言いながら、ロロはジャルクを抱きしめた。ジャルクが、ホッとしたように動きを止める。良かったな、ジャルク。
「さて、じゃあどうするかな」
「ジャルクが駄目なら、私、いります?」
「……ええ~」
「わお、積極的なお子様ですね!!」
「多分、深く考えてないだけじゃないっすか、ミルクさん」
「いえ、一時とは言え女の子がその身を預けるというのです。これは一大決心ですよ!!そりゃあもう、ご主人様にあれやこれそれやそれで、うっはうはのぽっこぽこ。人生の勝利者たる約束された勝利の栄光をその手に握らんがごときの素晴らしい選択ですよ!!これは、応援せねば!!」
「ミルク、落ち着きなさい。ステイ」
「はい、ご主人様!!」
頭を撫でると、尻尾を振って喜ぶミルク。素直でよろしい。俺も助かる。
「ロロちゃん、そんなこと簡単に言っちゃいけないよ」
「どうして?」
「どうしてって、それはロロちゃんの人生を左右するかもしれない選択だからさ。そんな、簡単に決めて良いことじゃないと思うな」
「じゃあ、ジャルクの尻尾を焼いたものをお出しするしか……」
「いや、それもやめよう。ジャルクめっちゃ暴れてるじゃん。やめてあげようよ」
「すぐ生える。だから、大丈夫」
「ジャルクってトカゲなの?もしかしてトカゲなの?」
ロロが、めっちゃジャルクの尻尾を引っ張っている。けれども尻尾は抜けません。やっぱ、トカゲじゃないんやな。
「おかしい。赤ちゃんの時は、軽く引っ張ったら取れた」
「ジャルク、苦労してんな、お前」
俺の言葉に、ジャルクが薄っすらと目に涙を浮かべる。ジャルクの、俺への好感度が上がった気がした。
「むっ、何も出せない。困った」
「ロロちゃん、何かを無理に出そうとしなくていいんだよ」
「それはおかしい。私は頼んでる。しかも、私の命を守って欲しいと言っている。かなり重い。それ相応の対価でないと行けない。でも、支払えるものがない。手詰まり」
「……狩猟天使って、労働に対する対価意識が、めちゃくちゃ高い種族なんだな」
「仕事には見合った報酬、当たり前。じゃないと成立しない。当たり前では?」
「……そうだな。そうだな」
なんだろう。何故か心に刺さる言葉だ。日本人だからだろうか。
「では、家族になりましょう!!それならOKです」
「家族」
「そうです。同じ夫を持つ仲間。最高の家族です。家族なら、支え合って当然でしょう。それならOK。問題なし!!」
「なるほど、家族。確かに、部族ではまだ幼いからと対価を要求されなかった。同じ種族だから、支え合って生きていかないといけないから。そう言うことか。なら、それなら通る。支払うのでなく、分け合うのなら通る。私が、ここで守ってもらう代わりに、生涯をとして支え合うのなら通る!!」
「その通りです!!頭の回転が速いですね。もしかしたら、ロロちゃんもスペシャルかもしれませんね」
そう言うと、ロロは俺の手を握った。
「……幼妻です」
「展開が早すぎて、ついていけません」
俺は、その場で白目をむいた。ミルク、彼女に任せると階段を落ちるより早く理論が飛んで行く。何故こうなるのか。しかも、それがホールインワンする。恐ろしい。恐ろしい。
「ロロちゃん、だからそう重要な選択をさらりとするのはだねぇ」
「私だけじゃない。私と家族なら、私の部族、皆と家族。皆守って。お願い」
「……ロロちゃん」
その目には、少しも影が落ちていなかった。ただ、純粋な心のみが写り輝いていた。それほどまでに、彼女は欲しているのだ。確定された救い。彼女の家族を救う奇蹟。その力を。
「分かった。でも、俺は言っただろ。必ず倒す、絶対だ。その言葉に嘘はない。だから、ロロちゃんは、待ってるだけでいいんだ。何も、支払う必要なんてないんだよ。俺が、俺のしたいことをするだけだ。だから、ロロちゃんは安心していればいい。もう一回約束するよ。君達を守り、あいつらを倒す。絶対だ」
「……おかしな人。対価を要求しない、おかしい」
「いや、戦うことで一応目的は果たせるから。まぁ、一応利益はあるんだ」
「強いやつと戦う。それも財産。わかる。でも、私達守るのは別。それでもいい?」
「ああ、俺達は強いからな。それぐらい、やってのけるさ」
「分かった」
そう言うと、ロロは俺の手を離した。そして、ミエルの方へと向き直る。
「お姉さんは家族。だから、この人は守ってくれる。この迷宮を。だから、その迷宮にいる私達もついでに守ってくれる。お姉さん達は、この人と家族だから」
「え、えっと……」
「ついででも嬉しい。皆、安心できる。でも、それはついでにすぎない。お姉さん達みたいに、確固たる絆で結ばれているわけじゃない」
「う、うん」
「そこが私はモヤッとする。何故だか分からないけど、心がモヤッとする。スッキリしない」
「ロロちゃんって、変わった子っすね」
「よく言われる。だから、私も私のために選択をする。私の利益になるから、私の心がスッキリするから。OK?」
「え、ええっと。OK,なんでしょうか?」
「いいんじゃないっすか?ちゃんと考えているみたいっすし」
「了解」
シスラにそう言われ、ロロは会議室から出ていく、そして、その場から駆け出した。そして、外に向かって大声で叫びながら走り抜けていく。
「幼妻です!!幼妻になりましたー!!!!」
「ロロちゃあああああああああああん!!!!」
俺は、ロロのその言葉を止めるために、会議室から一直線にロロに向かって駆け出した。