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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・三部 鎧竜神天 ミエル・シスラ・サエラ・シゼル編
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襲撃をおえて

 城の周りは静寂を取り戻していく。そこに集まっていた天使たちの誰もが、複雑な表情をしていた。それは恐怖か、はたまた混乱か。どちらともが合わさったようにも感じ取られる表情だ。天使たちは、只々ヴァルキューレ達が存在していた方向を見つめ固まっている。未知の敵との遭遇。その混乱を彼らの頭が理解し終えるには、まだ時間がかかりそうだ。


「うっ……」


 その中で、一つの音が聞こえ始めた。それは、悲しみの声だった。ロロが、両目から涙を流している。だが、必死に唇に力を込めて、声を押し殺していた。ロロに、俺は近づいていく。そして、胸元から取り出したハンカチを渡そうとした。だが、俺がかがんだ瞬間に、ロロは俺目掛けて抱きついてきた。その身体は、悲しみに震えていた。


「なんで、なんで……」


 ロロは、俺に抱きついたままそう連呼している。ロロが言っているのは、さっきの出来事のことだろう。あいつらが言うことが正しいのなら、ロロの故郷の族長と呼ばれていた天使は、奴らに記憶を奪われたことになる。その事実が、ロロの中でとてもひどいことのように思えたのだろう。だから、ロロは泣いているのだ。悲しみを、何処かにやることも出来ないまま。


「うっ、ううっ……」


 ロロが泣いているのを見て、他の狩猟天使の子供たちも目に涙をため始めた。年長の狩猟天使の子供が、皆をあやすように抱きしめる。だが、彼もまたその目に涙をためていた。その光景を、ミエル達も黙ってみている。何と声をかければいいのだろう。皆の心情はそうだと思う。どうこの状況に対処していいか、誰もわからないのだ。俺にだってわからない。ただ、俺にだけ言えることがある。


「必ず倒す。絶対だ」

「……」


 俺がそう言うと、子供たちが泣くのをやめた。その目に、力が宿った気がした。数人の子供たちが俺に近づいてきて、俺の手を握る。その手は、言葉にせずとも、お願いしますと俺に語っていた。


「勝って」


 ロロも、そう呟く。そして、ようやく俺から離れた。俺に抱きついている間、俺とロロの間で板挟みになっていたジャルクだけが、忙しそうに息をしていた。大丈夫か、ジャルク。


「一つ、疑問がある」

「疑問ですか、ベイさん?」

「ああ。もしかしたらの話だ。場所を変えよう」


 俺は、ロロに小さく手を振ると、ミエル達を引き連れて城の会議室へと移動した。そんな俺に、ロロは寂しそうに手を振り返していた。


「さて、俺の感じた疑問だが」

「はい」


 俺達は、適当に会議室の椅子に座る。俺達の後を追いかけて、何名かの天使も入ってきたが、俺は気にせず続けた。


「もしかしたら、狩猟天使の魔物たちは生きているのかもしれない」

「!!」

「それは、どうしてですか?」

「奴らが言っていただろう。仕事をして欲しいと。つまり、奴らは生きている魔物・人間。魔力を補充できるものが欲しいんだ。つまり奴隷だな。なら、狩猟天使を活用したほうが効率的じゃないか?」

「なるほど。一理あるはなしっすね」

「でもでも、彼女達は、服従か、死かって」

「それはそうだが、資源として使う分には別じゃないだろうか。生物も、あいつらにとっては必要な資源だ。それを、簡単に壊して回るような真似はしないと思う。何故なら、あいつらは迷宮の心臓部を維持しなければならないからだ。奴らは迷宮第一の縦社会。迷宮のためなら、なんだって優先するだろう。その為の仕事をする資源だ。簡単に壊しているとは、俺には思えない。勿論、楽に仕事をさせているとも思えないけどな」

「つまり、ベイさんはこう言いたいわけっすね。前のうちであったことのように、魔石に魔力をその生物の限界まで吸い取らせて、それを日々繰り返していると」


 シスラが、入ってきた天使に書記をさせながら俺にそういう。それに、俺は頷いた。


「ああ。それに、もう一つこの事を確信させる疑問があった。それは、奴らが狩猟天使の族長の記憶を持っていたことだ」

「それが、どうかしたんすか?」

「この前、俺達は同じような魔力を操る化物と対峙したな」

「そうっすね。だから、私達はそのことにあまり驚いてないんすけど」

「だが、そいつは雷属性だった。聖属性じゃない。そいつは、死者の残った魔力から記憶を拾えたが、果たして奴らにもそれが出来るものなのか?」

「出来ない、とは言い切れないと思うんっすけど」

「そうだな。だが、同じ神魔級クラスが己の特性として得た力だ。それを、同じ神魔級とは言え、忠実に得られているとは俺には思えない。それに、奴らは研究したと言っていた。研究しただけで、そこまでの力を得たとすれば大したものだが、それを手早く行えるほどの超技術があるのなら、全ての迷宮の魔物たちの記憶を読み取ってから行動するほうが安全だ。わざわざ、あんな形で斥候に来る必要もない」

「それもそうっすね」

「以上から、俺はあいつらの記憶の解析はとある条件下でのみ可能だと推測する。つまり、奴らの迷宮だな。そこに、記憶を読み取りたい者を連れて行く必要があるとみた。つまり、狩猟天使の族長はそこにいる。そのはずだ。死体かもしれんがな」


 俺の考えに、ミエル達は押し黙った。そのタイミングで、シゼルが部屋に入ってくる。そして、静かに着席した。


「でもベイさん、あれが斥候とは言えないんじゃないですか。どうも、転移魔法陣を用いた実戦的な先行部隊に思えましたが」

「いや、なら変装をする必要がない」

「それは、そうかもですね……」

「そして、あいつらは俺達がいることを知らなかった。俺の問答にも、俺が相手の感情を読んでいることが分かっていないようだった。あいつらは、俺達の記憶を読めていない。今、この段階では」

「そうみたいっすね。なら、やっぱ敵の本拠地にある何かじゃないと、それは無理の可能性が高いっすね」

「そうね。とすると、ベイさんが言っていたことが現実味を帯びてくる。彼らは資源として生かされている。そして、記憶を奪われた」

「とすると、彼女たちの迷宮をむやみに破壊するわけには……」

「行かないかもしれないな」


 俺は、スッと目線を移動させる。そこには、俺の目線を黙って受け止める、頼もしいニンジャの姿があった。



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