美味しいかもしれない
「よし!!それでは、皆さんには迷宮外。外周の木々を伐採しての、バリケードの設営をお願いするっす!!」
「設営地点は、今までに立案されていたこの山の要塞化計画。その敵の撃退ポイント。下からの攻撃を防ぎ、敵を攻撃することが出来る傾斜地点や、狙撃ポイントのある地点です」
「そしてそして、この山の至る所に狙撃ポイントを見えづらくするカモフラージュ。木々の植え込みも、合わせてお願いするっす。見える角度とか、注意して植え込んでくださいっすね」
「それでは、引率役のミランダさんの指示通りに、後はお願いします!!皆さんの働きに、この迷宮の明日がかかっております!!よろしくお願いします!!」
おー!! と、それなりにやる気があるような声を上げて、兵士たちは引率役の天使に案内されて山を飛び立っていった。何というか壮観だな。この規模の天使の一団が飛び立つのは。2000人位いるのか? いや、もっとかもしれない。数えるのが、めんどくさくなる数だ。
「さて、これで一応下からの備えは良いっすかね」
「後は、シゼルさんの工作班の方たちに任せましょう」
「うん、工作班が別にあるのか?」
「ええ、シゼルさんの指揮する、工作というか戦闘以外担当の部隊なんですけど」
「今は、新しく来た子たちの家を作ってるっす。仮住まいっすね」
「へー、そんな部隊もいるのか」
「他にも偵察、諜報、色々あるんですけど。あまり、活躍の機会は少ないですね。普段は、彼らには迷宮の食料管理部門に着いてもらっています」
「この迷宮、本当に人の住んでる町みたいだな」
仕組みが、それほど人の住んでいる国と変わらない。違いは、魔物か、人かだけ。こんな場所も、あるんだなぁ。
「おっ」
何かが、小走りにこちらに近づいてくる。そして、俺の足に体当りしてきて、抱きついた。
「見っけた」
「……ロロ君じゃないか」
「すみません!!突然、走り出しまして!!」
引率役のフェーゼさんが、他の子達とともに、こちらに向かって走ってきている。ロロ君、集団に左右されない行動力があるなぁ。やんちゃとも言う。
「女子です。ロロちゃんでお願いします」
「……ロロちゃん。何か、俺にようかな?」
「少し、お願いします」
ロロが、俺の足元に相棒の魔物、ジャルク君を転がす。すると、ジャルク君は俺を見て、めっちゃ土下座をし始めた。しかも、かなり怯えているのか、めっちゃ震えてる。可哀想。凄く可哀想。
「ほら見て」
「本当だ。ジャルクが怯えてる」
「族長よりも、凄い震え」
「見たこと無い」
「だから、ここは安心。少なくとも、この人は族長より強い」
「本当かよ」
「槍とか持ってないぞ」
「鎧もないよ」
「魔物、震えるのやばいやつって族長言ってた。族長にもジャルク震えてた。でも、それ以上。凄いやばい」
「俺のケンチャも、めっちゃ震えてる!!」
「私のも!!」
可哀想。凄い可哀想。俺を見て、怖がる魔物の幼体達。恐ろしかろう、怖かろう。……すまない。すまない。そう思いながら、俺は伏せていたジャルクを抱き上げた。
「危害は加えない。怯えなくていいんだよ、ジャルク君」
「メスです。ジャルクちゃんでお願いします」
「……ジャルクちゃん」
ええ~、メスかよ。めっちゃ厳ついぞ。いや、竜だしそんなもんなのか? まぁ、顔だけでオスメスが分かるはずもないか。
「……竜っすか」
「ああ、そう言えばそうね」
シスラと、サエラが何かを閃いたのか、顔を見合わせている。そして、城に視線を移した。
「はい、ジャルクを返すよ」
「ありがとう」
何故だか、俺に抱かれた事によって、ジャルクの震えは止まった。だが、その直後、シスラとサエラに目を向けている間にぐったりしていた。死んだふりかもしれない。取り敢えず、息はあるようなのでロロに返すことにした。
「……食べます?」
「食べないよ」
ドラゴンの肉とか、まずそうではないけれど、人の飼っているものを食べる気にはならない。それに、まだ幼体だし。というか、食べて良いのか? ジャルクちゃん、めっちゃ汗かいてるけど、大丈夫だろうか。
「……美味しいのに、多分」
「多分……」
ジャルクちゃんが、ロロの腕の中でジタバタしている。ブラックジョークのきつい相棒を持っているな、ジャルクちゃん。頑張れ。生きろ。
「皆、負けました。死んだと思います」
「……」
「ここは、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「約束です」
「ああ、約束だ」
「ありがとう」
にこっと笑うと、ロロはフェーゼさん達と城の方へと戻っていった。俺に、度々手を振りながら。
「懐かれてますねぇ、ご主人様」
「そうっすね。ベイさん、子供の扱いもうまいんっすね」
「……いつか、私達の子供が、ああいう風にご主人様と戯れるんですねぇ」
「……なんていうんすか、ミルクさん。私、今、幸せが見えた気がするっす」
「奇遇ですね、私にも見えました。ああ、ご主人様と遊ぶ私の子供達、15人」
「じゅ、じゅうごにん……」
「え、何か問題が?」
「多くないっすか?」
「……これでも、まだ抑えたほうだと思うのですが」
「まじっすか」
……ミルクのみで、15人。それで、抑え気味だと。俺、大丈夫だろうか。生まれてきた子供たちに、押しつぶされるくらいの数が揃ってしまうんじゃないだろうか。不安だ。将来が。当たって砕けるしか無いが。
「そ、それはさておいて、ちょっと確認しに行かないっすか?」
「確認。何をだ?」
「ミエル様の、ここでの能力っすよ」
「ここでの、能力?」
「ああ、ありましたね。そんなの。竜を操れるでしたか?」
「そうっす、そうっす。ミエル様は、現在階位一位。この迷宮のボス。それを操れるはず、何っすけど。実際はどうなんっすかね」
「出来ないかもしれないと?」
「いや、出来るはずっすよ。でも、やったとこ見たことないっすから」
「俺達も、見てないからな。本当に、出来るのか?」
「だから、それを見に行くっすよ。きっとミエル様も、その能力忘れてるっす」
「……だろうな」
俺達は、シスラに続いて能力を確かめに、一回城で働いているミエルのもとに戻ることにした。