決着
「やっぱり、レムは強いな」
特訓4日目。レムとまともに斬り合うことが出来るようにはなったが、そう簡単には勝てない。全体的な剣術のレベルは、レムが確実に上なので仕方ないといえば仕方ないことなのだが。やっぱ悔しいな。
「いえ、主の成長は目覚ましいものです。これなら、もうあの魔物とも戦えるかもしれませんね」
「それは嬉しいが、勝てるだろうか……」
俺自信の魔力での強化は、だいたい10分ほどしか保たない。つまり、その間に決着を付けなければ俺の負けだ。ただ斬り合っているだけでは、ほぼ確実に俺の負けになると思っていい。なにか、もう一つ決め手になるようものがあればなぁ。
「ふむ……」
「主、どうかされましたか?」
「いや、もしかしたらもう勝てるかもしれない方法を思いついてな」
「それは、いったいどのような?」
「やってみないと出来るかどうかも分からないからな。とりあえずレム……」
「はい」
「俺と一体化してくれ」
「?」
*****
お昼を過ぎてから俺達は、火属性上級迷宮まで来ていた。普通に戦える程度にはなったのだし、あとは技術と魔法の勝負になるだろう。技術は、一朝一夕で身につくものではない。なので戦うなら今だ。と、俺は判断したのでさっさと勝負しにやってきたわけだ。
「聖魔級迷宮まで行かなきゃならないのかな?」
「……どうやら、その必要はなさそうですね。主」
聖魔級迷宮からそれは、すぐに飛んできた。空中に炎の蹴り後をつけながら、俺達の近くに着陸し土煙を上げる。
「……遅かったじゃない」
うん? なにか顔色が赤くないか? しかも、何かもじもじしているように見える。
「(ほほう、ふむふむ……。何だ、もう落ちてるじゃないですか。流石、ご主人様ですね!!)」
え、嘘だろ。俺、まだ何もしてないんだけど。そ、そんなはずは……。でも、顔赤いしなぁ。さっきから俺をチラチラ見ているし。
「あ、あんまり遅いもんだから、怖気づいたのかと思ったわ……」
「あ、ああ、悪い。ちょっと時間がかかってな。でも、そのおかげで君には勝てそうだ」
「フ、フン、言うじゃない。なら、かかって来るといいわ!!」
彼女は、ゆっくり棒を構えた。俺もショートソードを抜いて構える。戦闘にあまり時間はかけられない。こっちから仕掛ける!! 俺は、聖魔級強化魔法を纏うとすぐに彼女目掛けて突っ込んだ。突っ込んだ俺に、彼女の棒突きが迫る。が、それを剣でいなし剣の間合い目指して強引に突っ込んでいった。いなされた棒を彼女は、引き戻し横薙ぎに俺目掛けて棒を振り下ろす。何度も前進しながら横薙ぎで俺を襲う棒を剣で防いでいった。前進し続ける俺を見て後ろに体重を移動し彼女は、間合いを取ろうとする。が、それはさせない。決して引かずに横薙ぎの攻撃を受け前進を続ける。相手が下がれば、こちらもそれをチャンスと見て合わせて無理矢理にでも距離を縮めるべく突っ込んでいった。
「ちっ……」
彼女は、間合いを詰められるのが面白く無いんだろう。近寄れば、長さの短い俺の剣が有利になるからだ。それが分かっているから、どうしても近づけたくないはずだ。次の瞬間、彼女の棒に火の魔力が宿った。棒が激しい炎で覆われそのまま俺目掛けて振り下ろされる。予想していた攻撃動作だが、正直この攻撃は辛い。後ろに下がりたいが俺には、時間がない。かと言って、並みの魔力で防いでも彼女の聖魔級の魔力で強化された攻撃を防ぎきるのは無理だろう。となれば躱すか、ダメージ覚悟で攻撃を受けるしかないが。
「な!!」
彼女は、俺に炎の棒を振り下ろす。だが俺は、その場からいなくなっていた。
「ちっ!!」
すぐに反応して後ろを振り向きながら棒で俺の攻撃を彼女はガードする。そう俺は、転移魔法で移動したのだ。レムとの一体化でレムの転移魔法を使う感覚を覚え、実戦でここぞという時に使用する。それが俺の作戦だった。先ほどの彼女の炎の棒は、確実に俺を下がらせる気だったのだろう。僅かだが大ぶりになっていた。事実、普通なら後ろに飛ぶか防ぐかしか出来ない攻撃だった。だがこれは、俺が無理矢理に攻めたおかげで彼女から引き出した攻撃でもある。つまり、これが俺の反撃のチャンスだ。一気に距離を詰められた彼女は、後ろに飛んで間合いを取ろうとする。だが、そうはさせない。転移魔法も使って更に残りの魔力量は少ない。ここで追い詰めないと俺は、負けてしまうだろう。だから……。
「ここで決める!!!」
彼女が間合いを取るため重心を後ろ足にずらし棒で攻撃して隙を作ろうとする。が、そこに俺は防ぐためでは無く、彼女の攻撃を弾き飛ばすための真正面からの強攻撃を合わせた。後ろに下がることに意識の向いた彼女の攻撃が、少しでも軽くなっているこの一撃にかける。俺の全力の一撃が、彼女の一撃とぶつかった。軽くなっていると言っても生半可な攻撃力ではない。だが俺には、聖魔級強化がある。なんとか彼女の攻撃の威力を上回り武器を跳ね上げた。彼女の驚きの表情が見える。重心を後ろにおいたため、再度力を込めて俺の攻撃を防ぐことも無理だったはずだ。俺は、そのまま間合いを詰め彼女の首前に剣を突きつけた。
「……俺の勝ち、でいいよな」
「……負けかぁ」
なんとか俺は、魔力切れを起こす前に勝利することが出来た。
「マスター!!格好いい!!」
「お見事です、主!!」
「(キャ~~!!ご主人様!!)」
「流石、殿ですね」
「流石、私の旦那ね!!」
皆が声援をくれる。うん、今回はあってるな。ふぅ……、なんとかなったな。結構ギリギリだった。そう思いながら俺は、剣をしまう。
「うん……」
そうしていると顔を赤らめながら握手の手を差し伸べてくる彼女。
「し、仕方ないから仲間になってあげる。よ、よろしくね」
「……ああ、よろしく」
そのまま握手をした。彼女の顔がより一層赤くなった気がする。一旦、手を離して魔石を取り出した。
「今日から君の名前は、カヤだ。改めてよろしく、カヤ」
「カヤ。うん、分かったわ。よろしく、そ、その、ダ、じゃなくて。主様……」
カヤが魔石に触れて流した魔力で魔石は、赤色に染まった。
*****
「おい、あの黒甲冑野郎結局いなくなっちまってたぜ!!たく、どこ行ったんだあの野郎。さんざん不死身だとか、ここは我が守るとか勝手ぬかしやがって。このザマかよ!!」
「ベイルがあの場所を動くとも思えんな。やはり、何かあったと見るべきだろう。理由はなんであれ我々の障害になるなら排除せねばな」
闇属性聖魔級迷宮。その一つの部屋に彼らはいた。気の荒そうな男は、蝙蝠のような大きな羽が背中に生えており、身体は筋肉が多く青い肌をしていた。思慮深そうな男は、身体が大きく太く、まるで巨大な岩のような存在感を放っていた。
「で、どうするんだ?あの野郎がいなくなったせいで、50体もの魔物も一緒にいなくなっちまった!!だからって、これ以上待つなんてのは勘弁だぜ。そろそろ俺は、暴れたいんでな」
「そうだな、いつまでもこうしている訳にもいくまい。ベイルがいないのが残念だが、そろそろ侵攻を始めるとするか。それが我らの魔王様の望みだからな」
2人が部屋を出るとそこには、途方も無い数の闇属性魔物が存在していた。慌ただしく騒いでいる者、規律を守り黙っている者、性格もその種類も多種多様だった。中級から上級が多く、聖魔級も少なからずだが存在している。その数は、合わせて1万ほどであった。
「結構、集まったもんだな」
「100年掛かったにしては少ないさ。苦労した」
「で、どこから攻めるんだ?」
「そうだな、近い国はサイフェルム王国とリダウム王国だったか。どちらから攻めるかな……」
近づく戦いの予感に魔物達は、雄叫びをあげていた。