迷宮 VS 迷宮
ここは、とある聖魔級迷宮。聖属性を主とするこの聖魔級迷宮には、天使と呼ばれる魔物の中でも特殊な魔物が存在していた。それは、竜や、獣にまたがって戦闘を行う天使たち。狩猟天使と呼ばれている。彼ら、彼女らは、豊かな自然の中で別の魔物たちを飼育しながら狩りを行って成長する。この聖魔級迷宮は、そんな豊かな自然が栄えている迷宮であった。
「そう、ですか」
「はい……」
ミエルの前に、傷ついた天使たちが座っている。その傍らには、傷ついた魔物たちも居た。彼らが来たのは、ミエル達が到着した数分後のことである。帰ってきたミエル達を、迷宮の仲間たちは暖かく出迎えてくれた。それこそ、代表代わりに残していた女性が、泣いて抱きついてくるほどである。その直後、彼らが迷宮内にやって来た。今、ミエルは代表として彼らの話を聞いている。勿論、その傍らにはベイ達も同席していた。
「そこに、奴らが現れたのです。全身を、鎧で武装した天使の軍隊。奴らは、私達の迷宮に火を……」
「……」
「私達の仲間たちも、その行動に激怒し、奴らに戦いを挑みました。ですが、私達では全く歯が立たず」
「失礼ですが、どのように歯が立たなかったのですか。狩猟天使と言えば、他の天使に比べて戦闘に特化しているという情報を我々は持っています。その貴方達が、歯が立たなかった理由は何ですか?」
シゼルが、相手の代表の若者に質問をする。若者の狩猟天使は、顔を伏せながら答えた。
「攻撃が、通らなかったのです。武器、魔物、魔法。全てが通らなかった。敵のあの女たちは、我々の魔物よりも、鍛え上げた戦士よりも屈強な肉体をしていた。ヴァルキューレと、自分たちを呼んでいました」
「ヴァルキューレ……」
「純粋に、敵が強かったということか」
「質問なのですが、そちらの方たちは……。天使では、ないようですが」
「えっと……」
「私達の!!」
「夫!!」
「で、ですね……」
……会議室が静まり返る。なんだろう、俺に何かが突き刺さってきている気がする。精神が痛い。
「お兄さん、タラシなの?」
「……」
狩猟天使のロリっ子が、俺に近づいてきてそう言った。違います!! と、言いたいが。全く説得力がない。でも、はい!! とは言いたくない。……どうすれば良いんだ。
「そ、そうなのかな?ごほん、ごほん」
考えた挙句、俺はとぼけることにした。
「天使の、しかも代表の方達の夫ですか。余程、強い魔物の方なのでしょうね」
「いえ、人間っすよ」
「?」
「だから、ベイさんは人間っす」
「またまたご冗談を。人間など、我々の足元にも及ばない様な実力のものしか、居ないではありませんか」
「私達も、ここにいる間はそう思っていましたね」
「世界は広いっす」
「そうね……」
シスラ達が、遠い目をしている。そんな中、先程のロリっ子が相棒と思わしき小さな竜を抱きかかえたまま、椅子に座っている俺の膝の上によじ登ってきて座った。……降ろしたほうが良いんだろうか、これ。
「ああ、すいません。ロロ、降りなさい」
「お兄さん、強いね」
「へー、分かるんですか、ロロちゃん」
「うん。ジャルクが震えてるから」
よく見ると、ロロの相棒の竜。ジャルクは小刻みに震えている。俺と目が合うと、そっと頭を垂れた。
「服従のポーズ」
ロロも、俺から降りて俺に頭を垂れる。それを、そんなことしなくていいからと。俺は、抱き上げて空いている椅子に座らせた。
「すいません、物怖じしない子でして」
「大丈夫です。元気があっていいじゃないですか」
「……そこで、申し訳ないのですが。私達を、ここに置いてはいただけませんか。もう、故郷は……」
ミエルは、若者と、その傍らにいる20人の天使と相棒の魔物を見つめる。その瞳は、優しかった。
「はい。構いませんよ。……ですが、ここも襲撃される可能性があります。そこは、お忘れなく」
「その時は、私も一緒に戦います!!故郷の、敵を討ちたいんです!!」
「お気持ちは嬉しいのですが、私達も、貴方のような若い方を戦わせる訳にはいきません。それに、今は疲れているでしょう。ゆっくり、休んで傷を癒やして下さい」
「こんなの、皆の苦しみに比べれば……」
「いいですか。私達は、勝つための戦いをします。そして、その中で出来れば犠牲を出したくない。苦しみなど、無い方が良いんです。だから、苦しもうとせず、前を向いて下さい。どうやったら勝てるか。どうやったら皆を助けられるか。そう考え下さい。苦しい時だとしても、助け合いましょう。前を向くために」
「……」
「フェーゼ。皆さんを、宿にお連れして」
「かしこまりました、ミエル様」
フェーゼと呼ばれた天使が、若者たちを連れて会議室を出て行く。
「ばいばい」
ロリっ子も、俺に手を振って出ていった。あんな小さな子が、戦争で故郷を失ってしまったのか。人間でも、魔物でも、戦争は酷いものだなと改めて認識した。
「さて、どうしますミエル様?」
「戦うしか、無いと思います」
「ほうほう。しかしっすけどね。恐らく、私達以外の天使は役に立てないっすよ。皆には、悪いっすけど」
「でしょうね。狩猟天使の魔物の攻撃が効かないとなると、通常程度の天使の武装を持つ皆さんでは、ダメージを与えることすら不可能でしょう」
「シスラ、サエラの言うとおりだと思います。そんな状態で、どうやって戦われるおつもりですか?」
「シゼルさん。服従か死か。彼女は、そう言っていました。ここで、服従を私達が皆に強制して、居なくなったとすれば、それは、昔となんら変わりがありません。仲間を見捨て、魔力を貯めていた昔と。そんなの、私はもう嫌です。だから、戦いましょう!!何故なら、私達は、世界を救う人の妻なのだから!!」
「……それもそうっすね」
「そうですね」
「……分かりました。世界を救うんですもの。故郷ぐらい、守れないといけないですよね」
ミエル、シスラ、サエラ、シゼルが微笑み合う。四人は、お互いの目を見つめ合い、示し合わせたかのように立ち上がった。
「シゼルさん、皆さんに戦闘の準備を」
「はい」
「シスラ、サエラ。皆に、戦い方。いえ、地形工作の準備を教えてあげて」
「おうっす!!」
「分かりました」
「では、皆で勝ちましょう」
ミエルがそう言って、ミエルの指示の下、3人が出ていこうとする。
「ちょっと待って下さい」
それを、アルティが呼び止めた。
「どうしました、アルティ?」
「皆さんの中で、属性特化一体化、その主軸になる人物を決めて下さい。皆さんは同じ属性。一人の意識に合わせて以降、誰を主軸にしても属性特化一体化は、その人物の最初の一体化になると思います。ですから、最初の一人、一体化の主軸になる人を決めて下さい。その人の選択が、皆さん四人の一体化を決めます」
その言葉に、4人はその場で固まった。