全妖神狐、シデン・アルフェルト!!
「さて、行くか」
「ベイ君、待って」
朝食を食べ終え、俺は、皆と目で合図をしあった。全員、もう最終決戦の準備は出来ているらしい。ご飯を食べ終え、洗い物を手伝い終えると、俺達は外に出た。そこで、ニーナが声をかけてきた。
「私ね」
「うん」
「皆さんみたいに、凄くないかもしれない」
「……」
「でもね、それでもベイ君達に、故郷を救ってもらえて嬉しかった。何か、そんなベイ君達の役に立ちたいって、そう思ったの」
「うん」
「だから私、もっと頑張る。アリーさん達に、追いつけるような魔法使いになる。そして、いつかベイ君に、恩返しがしたい。この、ありがとうって気持ちを伝えたい。その為に、頑張るよ。だから」
「……」
「だから、アリーさん、弟子にして下さい!!」
「え?」
家の入口で、アリーがそう来ると思っていなかったという声をあげた。ヒイラが、やれやれと言った感じで首を横に振っている。
「ちょ、なんで私!!」
「私が知っている中で、一番参考になりそうな魔法使いはアリーさんなんです!!ベイ君の力は特殊だし、ちょっと真似できません。だからアリーさんに、魔法の基礎発展を教えていただきたいんです!!」
「良かったねアリーちゃん、弟子が出来て」
「いや、何言ってんのよヒイラ!!あんたも、私と似たようなもんでしょ!!」
「いや、空間を完全に時間停止させるような魔法使いと同じとか言われると、困るんだけど」
「アリーさんお願いします!!ベイ君の役に立ちたいんです!!主に回復魔法で!!」
「ええ~!!回復魔法は、ベイのほうが得意なんだけど……」
「あれも、何か真似出来ない作用が出ている気がしますので!!」
「ああ~、それはそうね」
その言葉は、俺に刺さる。やめてくれ。
「まぁ、教えるだけなら。でも、最終的な魔法開発は、自分でやるのよ」
「はい!!」
「若いって良いわね」
「そうだな」
ニーナを、お爺さんとお婆さんが嬉しそうな目で見ている。お二人とも、良い孫をお持ちになられましたね。
「ふぅ、それじゃあ、行ってくるよ。ケリを付けてくる」
「うん、行ってらっしゃいベイ君」
「あいつ、ぶっ飛ばしてきてベイ」
「お昼ごはん、作って待ってるよ」
「行ってらっしゃいませ!!」
ローゼットさんが、姿勢を正して送り出してくれる。何か荷物を担いでいる辺り、これからまた出かけて仕事をするのかもしれない。大変だなぁ。
「ああ、行ってくる」
そう言うと俺は、霊園の前まで皆と転移した。
「さて、どう進むかな」
目の前には、例の霧がある。結界でも張って、進めば安全かな。
「ご主人様、行きましょう」
そう考えていると、シデンが紫色の結界を張った。その中で、俺はシデン以外の皆を内に戻す。俺とシデンは、その結界を移動させながら霧の中を進んだ。結界に、雷の当たる音がする。だが、俺達には影響がないようだ。
「ここは、霊園のはずだが。墓石一つ見当たらないな」
霧の中を見回すが、墓石一つない。それどころか、木も、草さえも生えていない。只々、地面と霧が見えるだけだった。
「作り変えたのでしょう。自分の都合のいいように」
「迷宮がか?」
「恐らく」
暫く歩くと、川の流れているような水の音が聞こえる。そこで、何やら人影のようなものが石を積んでいるのが見えた。だが、俺達はそれらに気づかれること無く、その場を通り過ぎた。
「気づかれなかった?いや、気づかれなくしたのか」
「その通りです。進化しましたので」
今のシデンは、相手に存在を感知させなくすることが出来るのか。凄いな。
「見えてきましたね」
そこに存在していたのは、石で出来たアーチだった。何個ものアーチが連なり、一個の円形の空間を作っている。そこには、無造作に何かが壊されたかのような、大きな石が転がっていた。もしかしてこれ、墓石か。
「罰当たりな」
そう言いながら、俺達は進んでいく。しばらくすると、馬に乗った人影が見えてきた。丁度、この空間の中心部分だろうか。そこで、微動だにせずに人影が佇んでいる。
「殺しに来ましたよ、雷属性古代神魔級迷宮」
結界を解除し、シデンがそう言い放った。それと同時に、人影の目が赤く光る。そして、地面から大量の骨が出てきた。それらは、骸骨の馬と、死神に覆いかぶさるように纏わりついていく。そして、一体の巨大な骨の化け物となった。足は、馬の骨のような骨格で出来ている。だが、その首上から人間の上半身の骨がついていた。まるで鎧を纏うように無数の骨をその身に纏って、その化物は、出現させた巨大な鎌をその手に握る。
「その姿、死を司る死神にでもなったつもりか。生命は、記憶は、お前のおもちゃではない!!」
シデンがそう言い放つと、死神は鎌を振り上げた。そして、俺達目掛けて振り下ろす。その攻撃を、俺とシデンは同じ方向に飛んで避けた。
「今こそ見せましょう、ミルク姉さん!!私の、私の本当の進化を!!」
そう言うとシデンは、身体から光を放ち始めた!!やはり、進化する準備はとっくに出来ていたのだ。後は、シデンの覚悟だけだった、それが今、この場で実を結ぶ。
「これが私の、聖魔級進化だ!!!!」
シデンの身体から、無数の鎖が射出された。それは、雷属性の魔法で出来たシデンの鎖。それは、死神を縛り、拘束し、その動きを止める。その中で、光の中から、尻尾を9本までに増やし、高校生ぐらいにまで年齢を成長させたシデンが出てきた。手を合わせ、シデンが開くと、御札のようなものが、束となって出現する。それらは、死神に飛んでいって張り付き、強烈な電撃を相手に向かって放出した。
「ガ、ガガガガガガ」
骨がきしみ、音がなる。まるで、喋っているかのように。だが、お構いなしに死神は、こちらに攻撃を仕掛けてきた。その体にある、無数の骨を雨のように飛ばして。
「アルティ!!」
「ええ、行きましょうシデンさん!!マスター!!」
俺を内包し、アルティが形状を変化させる。無数に降り注ぐ骨の雨を、アルティは全て振り払った。その形状は鎖。すべての属性を纏う、シデンの鎖と同じ姿の形態だ。その鎖を、シデンは手に取った。
「貴様に、引導を渡す!!この私達が!!」
「スタンバイ!!属性特化一体化・雷属性・シデンモード!!」
「これが私達の、全力だあああああああああああ!!!!神雷・転身!!」
雷属性の魔力で出来た鎖が、アルティから無数に伸びていく。それらはシデンを包み、その体に、新たな鎧を纏わせていった。その形状は、女性の身体のラインに近い。胸部の装甲にも胸のような膨らみがあり、その中央には紫に輝く宝石がついている。まるでキツネのお面をかぶった、女性の様なフルフェイスの兜。鎖を意識したかのような、そのお尻に着いた10本の尻尾。更に空中に出現した羽織を纏い、シデンは周囲に漂っている鎖の空間を振り払った。
(チェンジ完了。属性特化一体化・雷属性・シデンモード。ここに完成!!)
「魔を払い、悪を撃つ!!この星を救うものの妻、その一人。全妖神狐、シデン・アルフェルト!!さぁ、貴方の魂を浄化してあげましょう。この私達が」
シデンは、雷属性の魔力で出来た扇子。その扇子を出現させると、その扇子で口元を隠しながらそう言った。