別れの朝食
「……いつまで寝てたんだろうか。まだ明るいが」
「ベイ、おはよう。ご飯できてるわよ」
「あれ、そんな寝れてない」
「何が?」
「いや、なんでもないよ」
「そう」
俺は、むくりとベッドから起きる。よく見ると、腕にミルクとシデンが抱きついていた。寝ているまま、まだ抱きついている。自然な腕力すげー。
「という訳でして……」
「なるほど。まだ、普通のままの霊もいるのね」
「はい。ニーナさんのお爺さんのような、元魔法を使っていた方。しかも、それなりの実力者の方は、まだ大丈夫なようです」
「昨日と、朝早くからの調査お疲れ様。まだ、少し時間はあるみたいね。シデンが言ったように」
「それが、そうとも限らないかもしれないんです」
「どういうこと?」
「ええ。皆さん、今はすでにあらがっている状態でして。身体の魔力操作に集中しなければ、すぐにでも身体が別物になってしまうと、皆さんに言っていまして」
「結構、どん詰まりの場所ってわけ」
「そうみたいです」
「ニーナは?」
「お爺さんを心配して、まだあちらの方に居るみたいです。ですが、お爺さんの集中を乱すわけにもいかず、今は、何も出来ていない状態ですね」
「そう。辛いでしょうね……」
「はい」
その言葉を聞いたせいか、シデンが俺の腕から離れる。起きてたのか。ミルクは、ガチで寝てるっぽいな。
「行きましょう、ご主人様」
「ああ。行ってくるよ、アリー」
「そう、行ってらっしゃい。ご飯が、冷めないうちに帰ってきてね。ヒイラ、もうちょっとかかるわよ」
「はーい」
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
皆を、召喚解除して内に戻す。そして、俺はニーナの家目指して駆け出した。
「おはようございます」
「あ、ベイ君。おはよう……」
ニーナの家に着き、ノックしてドアを開ける。すると、待合室にニーナが落ち込んだ表情で座っていた。
「お邪魔しますね、ニーナさん」
「あ、シデンちゃん、そっちは!!」
そう言うと、シデンは出てきてニーナのお爺さんがいる方へと歩いていく。そして、部屋のドアを開けると、部屋にいるお爺さん目掛けて魔法の鎖を放った。
「うおっ!!なんだいきなり!!」
お爺さんの周りを、魔法の結界が覆う。すると、さっきまで唸っていたお爺さんは、何かがなくなったかのように、辺りを見回し始めた。
「止んだ、だと。どういうことだ」
「貴方も、すでに発動された魔法に過ぎません。外部からの同調操作。それさえ遮断してしまえば、性質が変化することはありません。その結界で、外部からの操作を遮断しているのです。これは、相手と違う魔力の性質の者にしか出来ません。つまり、私なら出来るのです」
「そんなことが、出来るのか!!」
「はい、今の私ならですが」
シデンが、指をくいっと空中に向かって曲げる。すると、ニーナのお爺さんを包んでいた結界が、宙に浮いた。
「これで、ある程度は動き回れるはずです」
「おお、本当だ!!お嬢ちゃん、あんた一体?」
「ニーナさんのお友達です、こん」
そう言うと、シデンは俺の内に戻る。それと同時に、ニーナのお爺さんが部屋から出てきた。なんか、魔石が浮いているみたいに見えるな。
「お爺ちゃん!!……大丈夫なの?」
「ああ、ニーナ。どうやら、大丈夫みたいだ」
「良かった!!」
ニーナが、結界に飛びつく。お爺さんは、嬉しそうな、困ったような表情でニーナを見ていた。
「良かったわ」
お爺さんが居た、隣の部屋からおばあさんが出てきた。どうやら、隣の部屋にずっと居たらしい。側に居たのか。お爺さんが、化け物になるかもしれないのに。
「心配かけたな」
「いえ、心配してないわ。大丈夫って、何だか分かってたの」
2人は、結界越しに目と目で通じ合っている気がする。そんな印象を、俺は感じた。
「ありがとう、シデンちゃん」
ニーナは、俺に向かってそういう。俺の内のシデンは、当然のことをしたまでですと言い、特に反応を示さなかった。
「ベイ君。やっぱり、ベイ君のお嫁さん達は、皆凄いね。町を救ったり、霊まで助けたり。きっと、皆さん特別な人達なんだと思う。私なんか、めじゃないような」
「……」
「きっと、私一人じゃあ、何もこの町を救えなかったと思う。敵を倒すことも、霊の皆を止めることも出来なかった。でもね、助けに来たかったの。私は、皆を助けたかった」
「ニーナ、俺一人でも、そうなっていたかもしれない。シデンや、皆が居てくれたからこそ、今の状況がマシになっているんだ。誰か一人では、皆を救えなかったと思う。俺一人でも、シデン一人でも」
「でも、私、何も出来てない……」
「そんなことはないぞ、ニーナ」
お爺さんが、ニーナに声をかける。その声は、優しい声だった。
「お前が来てくれたから、俺は彼らに話す気になった。それに、お前が居てくれたから、俺はあいつらの操作から、より抗うことが出来たんだ。ありがとう。お前が居てくれて、助かったよ」
「お爺ちゃん……」
「ニーナ。貴方のお爺ちゃんは、この町一番の回復魔法使いよ。その知識が、魔物の手に渡るなんて、とてもじゃないけど最悪の事態だわ。それを、貴方は防いだのよ。それだけで、大手柄だわ」
「お婆ちゃん」
「まぁ、婆さんが居てくれたお陰でもあるけどな」
「そう、ならよかったわ」
嬉しそうに、ニーナのお爺さんと、お婆さんは微笑み合っている。家族っていいなぁ。
「後は、ケリをつけるだけか」
「ベイ君、行くの?」
「……朝ごはんを、食べてからな。お二人も、一緒に食べませんか?」
「お、良いのか?と言っても、俺は食べる必要ないけどな」
「お呼ばれしましょうか。行きましょう、ニーナ」
「うん」
2人を連れて、俺達は拠点へと帰っていく。途中、お爺さんが拠点の結界のせいで入れないというハプニングがあったが、シデンがなんとかして事なきを得た。ニーナのご家族と、楽しくご飯を食べながらニーナの昔話を聞いたりして、楽しく食事する。これが、お爺さんとの最後の会話になる。そう思ったのか、ニーナは最後に涙を流していた。嬉しそうに笑いながらも。