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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・二部 全妖神狐 シデン編
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狐娘と牛師匠

生きている。この世界に、自分はまだ生きている。その自分を、支えているものは何だ。形成しているものは何だ。


 それは、思い出だ。


 記憶だ。


 何時までも色褪せること無く、頭の中に残っている体験だ。それは、人を繋ぎ止め、人を人として成り立たせている。それがなくなれば、この世に秩序や感情など成り立たない。だから、思い出は尊い物なのだ。彼女にとって、思い出とはそういうものだ。だから、それを汚したものを、許せるはずがなかった。彼女が大切にしている物が、あの人に出会えた思い出であるように。


「……」


 シデンは、目を開ける。彼女は夢を見ていた。それは、遠い日の思い出だ。決して忘れることがない、彼女が救われた日の記憶だ。この人と、共に歩もう。そう、決心した時の記憶だった。


「起きたか、シデン」

「ご主人様」


 ベイ・アルフェルトは、シデンが起きるのを待っていた。ずっと、その手を握りながら。その顔を見て、シデンは己の身体を見回す。そして、恥ずかしそうに身体を、元の小さな姿へと変化させた。


「おはようございます」

「ああ、もう夜だけどな」


 確かに、窓の外の景色は暗い。あれから、何時間寝ていたのだろう。周りには、ミルク達が待ちくたびれたかのように寝ているのが見えた。全員、ベイの外に出て寝ている。シデンの周りで。


「心配、かけてしまいましたか」

「皆、お前のことが大切だからな」

「シデン、修行が足りてな……」


 ミルクが、寝言を呟いている。その言葉に、シデンがクスリと笑った。


「ミルク姉さんには、頭が上がりません」

「シデンのことを、よく考えてくれているんだな、ミルクは」

「ご主人様は、どうですか?」

「勿論、大切だ。まだまだ皆の全てを知っているわけではないけれど、それでも、皆もシデンも大切にしたいと思っている。……お前の怒りを、止めてやれなくてゴメンな」

「いえ、我慢できなかったのは私です。思い出は、大切なものですから」

「そうだな。俺もそう思う。皆といたから、積み重ねてきた時間があるから、俺は今、ここに居るんだ」

「……ありがとうございます、ご主人様。私を助けてくれて、ここまで連れてきてくれて」

「何を言ってるんだよ。俺の方こそ、ありがとう。俺に付き合ってくれて、隣りにいてくれて。そして、まだまだ付いてきてもらうつもりだ。俺が、皆を幸せにするまで」

「はい。どこまででも、貴方と共に……」


 2人は、手を握り合う。そして、ゆっくりとキスをした。


「それにしてもシデン、汗が凄いな。身体を拭くか?」

「え?」


 確かに、言われた通りシデンは汗をかいている。それは、進化を中断した身体を、平常状態に保つために、身体が熱を持って回復した結果なのだが。それを、2人は知る由もない。


「……どうせなら、お風呂に入りませんか、ご主人様」

「えっと、体調は大丈夫なのか?」

「はい。お陰で、全快です」


 そう言うシデンを、ベイは抱き上げる。そして、拠点の風呂場へと連れて行った。


「浴槽が、ないのが残念ですね」

「そうだな。湯を浴びて洗って、すぐ出るタイプのやつだからな」

「私が、ご主人様の背中をお流ししますよ」


 服を脱いで、シデンはベイを座らせる。風呂用の椅子がないので、ベイは床にそのままあぐらをかいて座った。


「それでは、洗いますね」


 シデンが、タオルで石鹸を泡立てて、ベイの背中を洗っていく。そのうちに、ベイはあることに気づいた。シデンの手が、自然な形でベイの肩付近にまで伸びていることに。


「シデン、お前」


 その瞬間、ベイの背中に柔らかい感触が押し付けられる。それは、シデンの胸だった。しかも、少し成長した膨らみのあるシデンの胸だった。その感触が、徐々に縮んで行く。小さな姿にシデンは戻ると、シデンはベイを抱きしめた。


「やっぱり、小さいままのほうが、ご主人様をいっぱい感じられますね。幸せです」

「そうか」

「はい」


 数秒、シデンは抱きついていると、手を離して再び洗い始めた。丁寧に、洗い残しがないように拭いていく。そして、ベイを洗い終えると、ベイのあぐらの上に座り、上目遣いでベイを見た。


「今度は、俺が洗う番だな」


 シデンを乗せたまま、ベイはシデンを洗っていく。小さな体の上をすべらせるように、泡立てたタオルを走らせた。背中を拭き終えたところで、シデンが身体を成長させる。悪戯でもするかのようにシデンは笑うと、背中をベイの胸に押し付け、そのままキスをした。


「その成長する能力を、完璧に使いこなせているみたいだな」

「はい。でも、ちょっとまだ違和感があります。目線が変わるんですから、当然かもしれませんけど。ご主人様、この身体をならすのに、お付き合いいただけませんか?」

「どうするんだ?」

「いつもするみたいに、私の身体を確かめて下さい。優しく撫でて」


 シデンが、ベイを押し倒す。そして、また顔を近づけてキスをした。


「おい。師匠を差し置いてエロ展開とは、やるじゃないですかシデン」


 2人が横を見ると、風呂場の入り口にミルク達がいた。カヤとフィーは、まだ眠そうに目をこすっている。


「旅先での旅行お風呂イベントとか、外せる訳がないでしょう!!容赦なく乱入しますよ!!私は!!」

「ミルク姉さん、流石!!」

「シデン、そこは尊敬の眼差しを向けるところなのか?」

「流石、私の弟子ですね。良く分かっている、この凄さ!!スペシャルさ!!」

「いや、そうなのか。俺には、理解できない」

「何言ってるですか、ご主人様!!アリーさんでさえ間に合わないこの場に、何があっても間に合うこの私の凄さ。分からないとは、言わせませんよ!!」

「むっ、そう言われると、なにかすごい気がしてきた。気がしてきたぞ」

「そうです。凄いんです!!私は、スペシャル!!」

「そして、当然のように、服を脱ぎながらこっちに来るのね」

「当たり前です。間に合ったら、乱入!!せざる終えない!!終われない!!」

「ミルク姉さん、やはり、貴方は私の師匠……」


 シデンが、ミルクを拝んでいる。いや、そこまでなのか。


「それに、シデンには、私達が居るということを覚えといて貰わないといけませんからね。ご主人様だけ、重要視しているから簡単に流されたのです。私達は、仲間ではありますが、お互いに高め合う妻ライバルでもあるのです。安易な獣化による、レース脱落はいいとは思えませんよ、シデン!!」

「は、はい!!申し訳ございません!!」

「よろしい。では、実地訓練と行きましょうか。私達が、どれほど驚異的な存在か、改めて認識しなさい。そして、強く刻みなさい。怒りに身を任せても、己を見失わないように。自分を、仲間を、ご主人様を!!」

「はい!!」


 力強く、シデンが返事をする。そして、翌朝までベイは寝られなかった。シデンが起きるまで待っていたので、ベイは完全徹夜する事になった。それでも、ベイは全員に完全勝利した。その後、流石に寝た。全員を、ベッドに寝かせてから。



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