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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・二部 全妖神狐 シデン編
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怒りの臨界

 女性を抱き起こして、シデンは椅子に座らせる。


「時間が必要なこともあります。今は、そっとしておきましょう」


 そう言って、酒場をシデンは出ていく。俺達も、その後に続いた。


「今のが、寒くなった原因か?だけど、まだ気温が下がっているような気がするんだが」

「その通りです、ご主人様。まだ、終わっていません」


 すでに、吐く息が完全に白くなってしまっている。外に出ると、町の人達と幽霊たちが、こちらを見ていた。シデンが、辺りを見回す。すると、目を細めて奥歯を強く噛み締めた。


「皆さん、霊の方々から離れて下さい。落ち着いて、距離を取って」

「何を、言っているんだ?」

「お嬢ちゃん、何が起こっているんだ?」

「良いですか、もう一度言います。距離を取って下さい。これ以上、私の話を聞かないのは得策ではありません。皆さんも、分からないのですか?自分の、身体の変化が」

「俺達の、身体の変化」


 シデンの言葉を、取り敢えず聞くことにしたのか、住民たちが幽霊たちと距離を取り始める。幽霊たちも、黙って住民たちと距離を取った。


「あの方たちと仲の良い方、見ないほうが良い。それでも、ここにいるのなら、それ相応の覚悟をなさって下さい」

「いったい、何を言って」

「寒いでしょう。何もなく、ここまで町が寒くなると思いますか?」

「お、おい。身体が」

「え?……身体が、紫に光って」

「俺もか。お前もだ」

「なんだ、これは!!」

「ご主人様、私は、私は。この光景を、許せそうにありません。思い出を、人々の記憶を、あいつは汚している。侮辱している。こんなもの……」


 幽霊たちが、紫色に光っていく。そして、その体から雷を放ち始めた。絶叫を上げて、幽霊達が苦悶の表情を浮かべる。そして、徐々にその体から、肉のように見えていたものが剥がれ落ちていった。


「許せるわけがない!!!!」


 辺りが、紫色の光りに包まれた。シデンが、光を放っている。それと同時に、雷を放っていた幽霊たち全てが、紫の鎖に周りを覆われた。鎖は、透明な紫の壁を形成して、霊をその内部に閉じ込める。すると、霊の変化が止まった。シデンを、包んでいた光がやんでいく。その中に、一人の少女が現れた。長くなった髪、少し成長した背。そして、5本に増えた尻尾。そこに、上級へと進化したシデンが立っていた。


「おい。あのお嬢さんは、何処に行ったんだ?」

「霊達が、岩になっている」

「おい、大丈夫なのか!!」

「……」


 おかしい。住民たちには、シデンの姿が見えていないようだ。数秒おいて、シデンは先程までの姿。少女から、元の幼女へと外見を変化させて戻していく。すると、まるでシデンを今見つけたかのように、住民たちがシデンへと視線を向けた。


「お嬢ちゃん、これはどうなっているんだ!!」

「皆、大丈夫なのか?」

「お静かに。変化を止めただけです。この状態でも、皆さんと話せるはずです」

「本当か?」

「おい、返事をしろ!!」

「……まだ、俺は俺なのか」

「私、まだ生きてる」

「本当だ、生きてるぞ!!」


 それぞれの石に、人々が集まり声をかけていく。その光景を、シデンは悲しそうに見ていた。


「行きましょう、ご主人様。思ったよりも、敵は焦っているようです」

「行くって、何処にだ」

「勿論、大本を潰しにです」

「いけるの、シデン?」

「アリーさん、行ける行けないではありません。殺すのです。確実に」


 シデンは、怒り狂っている。だが、俺達が進むのを止めるように、辺りに黒い布を被った死神達が現れ始めた。それらは、紫の壁に内包された霊達を、殴ろうと鎌を振り上げて近づいてくる。だが、その死神たちの尽くが、紫の鎖にその体を打ち砕かれた。


「ゲス共が……」


 シデンが、死神たちを睨む。その瞬間、俺はシデンの身体が大きな狐に変化していこうとしたのが、見えた気がした。


「まずい、怒りに飲まれています!!」


 空中で、死神達が鎖に焼かれて消えていく。その光景を睨んでいるシデンを、ミルクが抱きしめて止めた。


「ミルク姉さん、どうしたんですか?」

「焦るなシデン!!焦っては駄目です!!怒りに、自分を任せてはいけません!!貴方は、誰と共に居たいんですか!!誰のために、ここにいるんですか!!」

「ミルク姉さん、私は……。ご主人様と……」

「ええ!!そうです。貴方の大切な思い出は、汚されない!!だから、ここで怒りに身を任せては駄目だ!!」

「ミルク姉さん。……はい」


 冷気が、止んでいく。気温が元に戻り、辺りが静寂に包まれた。死神が消え、辺りにはシデンが作った岩だけが残る。シデンが、辺りから敵の気配が消えたのを確認すると、ミルクに体を預けるように倒れ、目を閉じて眠った。


「一度帰りましょう、マスター。シデンさんの為にも」

「ああ、そうだな」


 アルティに言われ、俺はミルクに近づくとシデンを受け取り抱き上げた。そして、急いで拠点へと戻る。拠点に戻ると、俺はシデンをそっとベッドへと寝かせた。


「なるほど、進化を、強制中断させた負担ということでしょうか。このようになるのですね。ですが、間に合ってよかった。ミルクさんのお陰です」

「ほっ、なんともないんですか。なら良かった」

「進化を、中断したのか?」

「のようです。聖魔級への進化、それを、シデンさん自体が途中で拒絶した。だから、途中で進化が止まり、身体に負荷がかかったのでしょう。それ故の睡眠だと思います」

「止める必要が、あったのかしら?」

「見たところ、シデンさんは獣に近くなろうとしていました。本能に身を任せ、敵を殺す方向にです。恐らく、シデンさん自体の意識は消えないでしょうが、より攻撃的な、今のシデンさんとは違ったシデンさんになっていたことでしょう。それが良いとは、私には思えないのです」

「進化も、良いことだけじゃないってことね」

「ええ。おかげで、シデンさんが目覚めるまで時間が掛かるでしょう。待つしかありませんね、私達は」

「シデン……」


 俺は、寝ているシデンの顔を撫でる。すると、幼女の姿から、シデンは少女の姿へと戻った。今は、これが本来の姿だもんな。


「私、町の混乱を見てきます。皆さんは、休んでいて下さい」


 そう言うと、ローゼットさんが町に向かって出ていった。俺は、寝ているシデンの手を握る。寝ているシデンの顔は、何処か悲しそうにその表情を歪めていた。




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