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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・二部 全妖神狐 シデン編
380/632

現象

「さて、何が起こってるのかしらね」

「間違いなく、魔物絡みだろうけどな」

「察しが早くて助かる。どうぞ、お茶だ。淹れたてだから、熱いぞ。気をつけてな」

「ありがとうございます」


 俺達は、空中に浮いているカップを手に取る。普通に、サイコキネシス使ってるんだけど。まぁ、そこはあまり気にしなくていいか。幽霊だもんな。これぐらい普通だろう。幽霊がいる事自体、普通ではないが。


「よし、では話そうか。おっと、お茶菓子はあったかな、婆さん?」

「買ってきましょうか?」

「いえ、お構いなく」

「すまないな。まぁ、話そう。事の起こりは、巨大な魔力で出来た生命体がこの地上に再び出現したこと。それが理由だ。そのおかげで、眠っていた者が目を覚ました」

「眠っていた者?」

「察しはついているだろうが、迷宮だ。この迷宮は、長い間意図的に外界との接触を遮断していた。沈黙を保ち、自分が力をつけられる段階になるまで身を潜めていたんだ。余計な魔力を、消費しないように。蓄えることに専念してな」

「迷宮が、意図的に?」

「そうとしか考えられない。そして、このタイミングで目覚めた。地上に出てきて人類と再び接触してきたのは、創世級を倒すために力をつける為だ」

「迷宮が、意思を持って、創世級を打倒するために現れたと?」

「そういう事だ」


 迷宮自体が、そんなことを……。 ありえるのか。そんな迷宮が。


「でも、何故ここに?力をつけるって、どうやって?」

「ここに、存在していたのが偶然か、意図的にかは分からん。だが、ここは奴の力を蓄えるのには絶好の場所だ。俺達が、迷宮に良いように誘導されちまってたのかもな」

「迷宮が、そこまで考えているなんて。初めて聞く考察だわ」

「特殊な迷宮だ。他と同じだと、思わないほうが良い。で、この町の霊園に存在している迷宮。奴の力の蓄え方だが……」

「霊園に、迷宮」

「しかも、それが意図的に誘導された場所だとするのなら……」

「そう。奴は、生物の死体。それに残っている微量の魔力をかき集めて力を大きく増やしている。そう、この町で死んだ住人、動物。その殆どの死後の魔力が、あの迷宮には入っているのさ。それは、しかもただの魔力じゃない。この俺のように、記憶を持っている。生前の記憶、習慣、行動、技術。その全てを、あいつは吸収しようとしている。今、俺達がこうしている理由は、昔の感覚を思い出させようとしているのさ。断片的な力としてでなく、より完璧な状態で再度取り込むためにな。今のこの状態は、その為の準備段階だ」


 ニーナのお爺さんの言葉に、ニーナは拳をギュッと握る。


「今の俺は、復活した俺なんかじゃない。町の幽霊たちもそうだ。皆、迷宮の魔力にすぎない。それぞれが記憶、技術、それらを取り戻し、再度吸収される。その為に、自分である振りをしている。記憶をコピーされただけの、偽物だ」

「でも、お爺ちゃんはここにいるじゃない!!」

「これのどこが俺だ!!惑わされるな!!俺は、俺の記憶の残滓に過ぎない!!この肉体は、見ての通り、すでに人じゃないんだぞ!!そして、更に言っておかなければならないことがある」

「……」

「言っただろ。奴は、死体の魔力を蓄えて強くなる。なら、次は何をするのか、分かるよな?」

「生物を、殺す」

「その通りだ。いずれ、この町は地獄に変わる。全てが吸い尽くされるまで、この惨劇は終わらないだろう。そして、迷宮は場所を変えて同じことをする。創世級を、倒せる力をつけるまで」

「……何よそれ。最悪」


 アリーの言うとおり、最悪な迷宮だ。今すぐにでも、破壊しなくてはいけないだろう。俺は、スッと立ち上がった。


「待て、早まるな。まだ、話すことがある」


 真剣に、ニーナのお爺さんは俺を見ていた。だから、俺はもう一度椅子に座った。


「ありがとう。残念だが、奴を破壊することは不可能に近い」

「それは、なんでですか?」

「奴は、記憶という極めて特殊な魔力を扱っている。奴は、記憶から蘇り、再生するんだ。それは、周囲の魔力、この土地そのものに芽吹いている。この辺り周辺、どこまでか分からない領域を一撃で吹き飛ばしでもしなければ、奴は倒せないだろう。いや、それでも倒せないかもしれない。つまり、奴はほぼ不死身なんだ。まるで、今の俺達のようにな」

「えっと、我々が退治した、幽霊の方もいらっしゃるのですが?」

「そいつらも、死んじゃいない。ただ、記憶は損傷しただろうからな。恐らく、奴の手下にでもなってるだろうよ。鎌を持ち、黒い布を被ってな」

「まさか、あいつらは……」


 俺達が、町に入る前に倒した敵。あれも、この町の住民の、魔力の名残だったのか。


「一ついい。なんで、そんなことを貴方は知っているの?他の幽霊たちは、知っているの?」

「俺が、何の魔力で出来ていると思う。見えるんだよ。奴の思惑が。そして、他の連中も同様に知っている。ただ、目を背けているんだ。酒を飲み、ダラダラと生活していれば吸収されることもない。そう思ってな。まぁ、魔力を生前に扱ったことのない連中には、分かってないかもしれんが」

「そんなの、ひどい……」

「ああ、酷いな。俺達は、あの死神になるために生かされているんだ。いや、死んではいるか。最も、安らかに眠っていたいような、最悪な状況ではあるが」

「よく、私達にその事実を話せるわね。口止めとか、されないのかしら?」

「これも、生前の記憶と技術というか、それを思い出す過程だと思っているらしくてな。殆どのことに制限はない。ただ、一定期間以上は、この場から離れられないようだ。それでも、だいぶ遠くまで動けるがな」

「どうして、今まで我々に誰も言ってくださらなかったんですか?」

「優しさだ。言ったところで、君たちの死体がこの町に積み重なるだけだ。なら、出来るだけ事を隠し、時間稼ぎをする他あるまい。だから、迷宮には攻撃するな。それをすると、奴が動き出すからな。手がつけられなくなるぞ。同様に、町から人が不自然にいなくなっても、奴は動き出す。住民を全て避難させても、惨劇は加速する」

「でも、誰かが対処しなくてわ!!」

「そうだな……」


 ニーナのお爺さんは、そう言うと顔を下に向けて黙ってしまう。その顔に、元気はなかった。


「心当たりがない。そういう顔ね」

「その通りだ。はっきりというが、あんな化物を俺は知らない。いや、知らなかった。不死身の怪物を殺せる相手なんて、見当もつかない。まさにお手上げだよ。兵隊のお嬢さん、悪いが、無理だとしか言えない。悪いな」


 ニーナのお爺さんが、頭を抱える。それを見て俺は、再び席から立ち上がった。


「ベイ、どうする?」

「迷宮を、破壊する」

「お、おい!!聞いてたのか!!町が、大惨事になるぞ!!」

「安心して下さい。確実に、殺せる時になったら行きます。だから、その前に様子見をするつもりです」

「じゃあ、行きましょうか」

「そうだね」

「あんたら、勝算はあるのか!!町の住民の、命がかかってるんだぞ!!」

「勿論、ありますよ」


 俺達は、席を立って家を出て行く。だが、その前にニーナのお爺さんが立ち塞がった。


「なら、見せてみてくれ!!今ここで!!出来ないのなら、やめてもらおう!!」

「……」


 俺は、何も言わずにお爺さんの横を通り過ぎる。俺を止めようとお爺さんが動こうとしたが、その身体は、何かに縛られたように動かなかった。


「な、なんだ!!」


 それは、電の魔力で出来た鎖だった。その鎖を、お爺さんは触ることも、振りほどくことも出来ない。その鎖を、お爺さんは驚愕した目で見ていた。


「これは、俺の身体を、完全に捕らえて……。なんだ、この魔力は」


 俺達は、玄関から出ていく。ニーナが2人にお辞儀をして、俺達の後を追ってきた。その後ろに、小さな狐耳を生やした少女の影を、ニーナのお爺さんは見た気がした。


「あの子なら、大丈夫な気がするわ」

「……そうか、婆さん」

「ええ。ニーナが、あんなに信頼しているんですもの」

「そうかもな」


 2人が見守るなか、ゆっくりと玄関の扉がしまった。



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