影響
「なかなか辛いな……」
昼ごはんを食べて午後の訓練を開始したのだが。無理に攻撃をしようとすると、どうしても隙が出来てしまう。その間にレムに切り込まれては、意味が無い。慣れるには、まだまだ時間がかかりそうだ。とりあえず、少しでも動きに慣れるために出来るだけ動くようにすることにした。間合いをとったり、牽制程度に剣を振ったり。結局今日は、夜近くまでそんな感じの訓練を続けた。
「ハァハァ……」
「主、焦っておられますね」
「やっぱり、分かるか」
訓練をおえて、アリーに身体を拭かれミズキにお茶をもらいフィーに替えの服を貰いながら俺は答えた。……皆、ありがとう。
「(ぐぬぬ。私も何かご主人様にしてあげたいのに。この巨体が、この巨体が!!!!)」
「ミルク、ありがとう。気持ちだけでも十分嬉しいよ……」
あとそんなに自分を責めないでくれ。後で、俺にそのストレスの矛先が向かうと思うと怖い。
「この訓練を続けていっても、いったいいつになればあの魔物と渡り合えるようになるのかと思ってな」
「主、あまり焦ってはいけません。今は、その魔法にも完全に慣れてはいないご様子。まずは、そこを超えないことには」
「ああ、そうだな。出来ることを、やっていくしかないか」
弱い自分に悔しさを覚えながらも、レムに言われた通り地道に頑張らねばと俺は考え直した。うん? アリーが上級回復魔法をかけてくれている。訓練の疲れがスッと引いていくのを感じた。ありがたい。……フィーが、アリーの回復魔法の光に手を入れたり出したりしてみている。ああ、なんだか懐かしいな。出会った時も、フィーはこんな動作をしていた。
「う~ん、マスターと違うね」
「やっぱり?私の回復魔法とベイの回復魔法、何が違うのかしら。まぁ、ベイがすごいのよね!!」
「ちょっと失礼。……本当ですね。やはり、殿だけが特殊なのでしょうか」
「そうね。私が知るかぎりでベイほどの回復魔法使いは、誰も居ないわね」
「……」
やはり、俺は特殊なのか。いや、分かっていたことだけれども軽くショックだな。皆には、気に入ってもらえているようだけど。……とりあえず、疲れもとれたから家に帰って晩御飯を食べよう。アリーも落ち着いてきたみたいだし、問題なさそうだ。着替えをおえてちょっと休憩してから家に帰ってその日は、何事も無く就寝した。
「う~ん?」
訓練3日目、昨日は手を出すのにすら手こずっていた俺だったが、今日は普通に攻撃を行えるようにまでなっていた。我ながら、ちょっと成長早すぎじゃないか?
「昨日の今日と言うのにベイの動きが別人みたいね。流石ベイ!!」
「マスター、すごいです!!」
「(きゃ~~!!ご主人様、素敵!!!!)」
「いや。これは、ちょっと異常じゃないですか。殿とは言え」
ミズキは冷静だな。やはり何かおかしい。なんだろう? 超強化のせいだろうか。理由は分からないが、今の俺にはありがたい。レムとの訓練に集中してもっと強くなろう。俺は、今日も訓練に没頭した。
「……」
レムは何故か、俺の成長の話になると複雑そうな顔をしていたような気がする。気のせいだろうか? 聞いてみたがレムは、曖昧な答えを返すだけだった。その日は、いい感じに訓練が出来た気がする。もう、だいぶ戦えるようになってきているからだ。この調子でいけば、近いうちに再戦しにいけるかもしれない。明日もこの調子で頑張ろうと思い、その日は眠りについた。
*****
「(で、何か心あたりがあるんでしょう、レム?)」
いつものようにミルクとレムは、夜の訓練をしていた。そこでミルクは、今日のベイの成長のことを話題としてレムに振る。するとレムは、少し沈黙した後口を開いた。
「恐らく主の成長速度が高いのは、一体化のせいだ」
「(一体化の?それはまた、なんでそう思うんですか?)」
「ミルク、思い出してみてくれ。この水属性上級迷宮でのことを。私がいなかった時、主とフィー姉さんだけで戦っていた時があるだろ。正直に言うが、その時から主の成長速度は速い。フィー姉さんが強い、という理由もあるだろう。だが、お前の話だと主1人でも問題なく対応出来ていた。今まで主は、中級迷宮で訓練をしていた。とはいえここは、上級迷宮だ。ミルクほどではないにしろ、それなりに強い敵が多い。中級での慣れがあるとしてもそれなりに手こずるはずなんだ。それに、一体化してからの主の魔力量の伸びも高いしな……」
「(ふむ、なるほど。でも、考え込む必要はないんじゃないですか?その御蔭で、ご主人様が強くなっているんですから)」
「いや、恐らくだが、この前あの赤い魔物と対峙した時に一体化しただろう。そのせいで、より成長率が上がっている気がするんだ」
「(む、なるほど。このまま一体化をし続けると、ご主人様に変な影響が出るかもしれないとそう考えているんですね?)」
「ああ、大丈夫だとは思うがな……。多分だが、一体化することで主も私達からの影響を受けているんだろう。それが、成長につながっていると考えているんだが。まぁ、大きな変化はないはずだ」
「(う~ん、なんにしてもレム、貴方がご主人様ために得た力です。きっと、大丈夫に決まってますよ。さぁさぁ、訓練を再開しましょう。私も、ご主人様に負けていられませんからね!!早く人化しないと!!)」
「ああ、そうだな。私の力だ、私が疑ってはいけないな。全て主のためになる、そのための力のはずだからな」
「(もちろん、私達全員の力がですね)」
「ああ、そうだな」
2人は、頷き合うと訓練を再開した。
*****
赤い魔物の彼女は、寝そべりながら暗くなった夜空を見ていた。腕には、ベイの人形を抱えている。
「……来ないなぁ」
今日もあいつは来なかった。自分があれも駄目、これも駄目だと言ったせいなんだろう。きっと、あいつはそれ以外で強くなる方法を探しているはずだ。そうすぐ来るなんてことはないだろう。でも、気になってしまう。そう、彼女は考えていた。
「いつ来るかなぁ……」
人形を見つめても、答えてはくれない。ベイが来るまでは、退屈な毎日を過ごしていた彼女だが、彼が来てからは顔を赤くしたり地面を転げまわったり。そしていつの間にか、彼の存在が頭から離れなくなっていた。彼女の退屈な毎日は、ベイを待ち焦がれる毎日に変わりつつあった。
「う~ん、早くこないかなぁ……」
もし勝っても仲間になってあげてもいいかなぁ。そう思いながら彼女は、眠りについた。