先の形
「そう言えば、おかしな話ですね。未だに、シデンは中級。流石に、そろそろ進化してもいいと思うのですが」
「その通りです、ミルクさん。私の観察から見ても、すでにシデンさんの身体は安定し、次の段階に移行する準備ができている。そう思うのですが、シデンさんは、未だに進化していません。……何かが、貴方の進化を止めているんじゃないですか?」
「私自身の、何かがですか?」
「そうです、シデンさん。例えば、変わってしまうことを恐れているとか?」
「……それは、あるかもしれません」
「ええ~!!今更、そんなことで悩んでいるんですか!!」
「ミルク姉さん、私にとって、ご主人様に愛される容姿。この今の姿こそが、最良であると思います。これ以上が、思いつかないのです。むしろ、これ以上はご主人様に愛されるか、不安で……」
「シデン、大丈夫だ。俺は、お前を離しはしない」
「ご主人様……」
俺は、シデンを抱き上げて頭を撫でた。シデンは、嬉しそうに俺の手に頭を擦り付けてくる。かわいい。
「容姿なんて、変化させなくて良いんですよ。ただ、強くなった己さえイメージすれば良いんです。私も、これ以上のおっぱいにはなれないと思いますが、強くなる気は満々ですよ!!ただ、これ以上強い私となると、まだイメージが固まらないのですが」
「これ以上強くなった、ミルク姉さんですか?」
「……確かに、想像できませんね。ただでさえ強いミルクさんが、普通の枠に収まるとは思えません。その先がある。これはレムさんや、フィー姉さんよりも想像できませんよ」
「まぁ、私はスペシャルですからね!!」
確かに、ミルクのこれ以上強くなった力とか想像できない。カザネであれなのだ。それほど強くなったミルクとか、パンチ一つでどこまで破壊できるんだ? 想像できない。
「で、どうですシデン。覚悟は、決まりましたか?」
「少し、時間を下さい」
「いいですよ。焦らなくても大丈夫です。どうせ中級でも、貴方なら、あんな骸骨ごときに負けはしない。私は、そう信じていますから」
「ミルク姉さん。……いえ、ミルク師匠」
「まだまだ強くお成りなさい、シデン。ご主人様の為に」
「はい!!」
シデンは、ミルクに元気に返事をする。そして、お互いにサムズアップした。いいコンビだな、この2人も。
「取り敢えず、今日はもう寝ましょう。調査は、明日からね」
「そうだな。おっと、他の皆の様子も見てくるよ」
「そうね。行ってらっしゃい、ベイ」
「ああ、ちょっと行ってくる」
俺は、学校の寮に向かってシデンを下ろすと、転移した。そこで、サラサ達とおやすみの挨拶をする。ロザリオも、こっちに来ているので、あとで送らないといけないな。7日後くらいかな。普通に移動したとして。それぐらいに、ロザリオの学校にまた送ろう。皆と挨拶をし終えると、俺は戻って、アリー達とベッドをくっつけて寝ることにした。こっちで騒ぎがあった時、対応できないといけないからな。こっちで寝ないといけないだろう。そして、あっという間に朝になった。
「清々しい朝ね」
「そうだね」
「町中に、普通に幽霊がいるこの光景以外は」
「そうだね」
俺達は、朝の食料の買い出しがてら、町の商業区に来ていた。そこでは、幽霊の方々が普通に徘徊している。道端で、寝ている幽霊もいた。幽霊も寝るんだな。
「あ、これとこれとこれ下さい。皆さんは、何がほしいですか?」
「え、良いの?」
「ええ、国からお金はもらっていますので、なんでも買って下さい」
「じゃあ、これとこれ」
「私は、これで肉料理を作るわ」
「私は、これでスープを作るよ」
「……」
「ニーナは?」
「あ、えっと……。私は、フルーツでデザートを」
「分かりました。これを、馬車に積んで下さい。あと、それも」
ローゼットさんのお陰で、買い物がスムーズに進むな。しかし、ニーナが不安そうな顔で、町を見回している。まぁ、異様な光景だからな。普通に考えて。町の皆さんは、もう慣れましたという感じで普通に生活していらっしゃるけれど。
「よし、それでは戻りましょうか」
「はい」
一旦、拠点に帰って腹ごしらえをする。その後、ニーナの家へと移動することになった。
「えっと、こっちです」
「近いのね」
「歩いて5分程です」
「本当に近いな」
どうも、拠点のすぐ近くにあったらしい。少し道なりに進み、脇道に入って移動すると、一軒の回復魔法治療院の看板を掲げている家についた。
「えっと……」
ニーナが、家のドアに手をかける。だが、押しても引いてもドアは開かない。
「留守です。帰って下さい。ここから離れろ、ゴーホーム」
「……いるじゃん」
「その声、おじいちゃん!!」
ニーナが、慌ててドアをガチャガチャする。だが、ドアは開かない。
「言っただろ!!早く町をでろ!!なんで、ここまで来たんだ!!」
「なんでって、ここは私の家じゃない!!」
「そうだけど、今は帰ってきちゃ駄目なんだよ!!それぐらい分かれよ!!わしの孫だろ!!」
「家族が、心配なんだもん!!帰ってくるに、決まってるじゃない!!」
「……分かった。事情を話そう。だから、聞いたら逃げろ。お前の両親も、避難させた。残っているのは、ワシと、婆さんだけだ。そら、入れ。聞いたら、そっちの彼氏の家に帰るんだぞ」
「お婆ちゃんはいるの!!なんで、お婆ちゃんは残って!!」
「町の皆を、残していけないんだとさ。最後まで、治療のために残るらしい。まったく、頑固な女だよ。いくつになっても、ワシが惚れたままの女性だ」
家の扉が開く。そこには、立派な髭を蓄えた老人の幽霊がいた。これが、ニーナのお爺ちゃんか。
「まぁ、入りなさい。皆さんにも、ここで起きていることの真実をお話しよう。ただし、他言無用だぞ」
「お邪魔します」
家の中へと、俺達は入っていく。すると、奥から一人の老人が出てきた。彼女が、ニーナのお婆ちゃんか。
「おかえりなさい、ニーナ」
「お婆ちゃん!!」
ニーナは、祖母に抱きつく。その光景を、ニーナのお爺ちゃんは若干嬉しそうに見ていた。
「この光景だけは、生き返って見た価値があるな。いや、生き返ったわけではないか……」
「それは、どういう?」
「まぁ、まずは座りなさい。それから話そう。お茶を持ってくる」
言われるがまま、俺達は、家の待合室と思しき場所の椅子に腰掛けて待つことにした。




