アウダレイシア
「……なんだ、この町は」
「よっしゃあああああああ!!!!次もってこい!!」
「20杯目だぞ!!化物か!!!!」
「流石に飲みすぎだろ!!ガハハハ!!」
「昔は、そこの広場で焚き火したりしてな」
「そうそう、懐かしいわぁ。お前さんが死んでからは、そんなこともない平和な町になっちまったなぁ」
「良いことじゃないか」
町についた俺達が見たものは、どんちゃん騒ぎをしている村人たちだった。その中に、半透明で足のない人物達もいる。 ……あれが、幽霊なんだろうか。めちゃくちゃ、親しげに町の人と喋っている。害があるように、全く見えない。
「しかし、明るいな。そこらじゅうに照明がついている。ここは、そんな町なのか」
「これは、毎年一回行われるお祭り用の照明です。霊達に自分たちは明るく暮らしている、心配するなという意思を示すためのお祭りのための照明ですね。でも、今はそんな時期ではないはず」
「ニーナさんは、この町の出身の方でしたよね。その通りです。ですから、今幽霊が出てきているのは、町の人々を先祖たちが心配したからでなはいかと言われていまして。それで、幽霊が出てからはこのお祭りを継続してやられているようです」
「なるほど。そうだったんですか」
まるで、昼間のように明るく照らされた道を馬車で進み。俺達は、照明がついていない区画へと進んだ。そこは居住区らしく、ここだけは証明がついていない。チラホラと家の明かりがついて見えるくらいだ。他の住人は、ここで寝ているのだろう。
「私達が泊まるのは、あちらの仮設居住区です。木製で強度はあまりありませんが、設備はしっかりしていますよ」
「え~、宿とかじゃないの?」
「宿は、先程通ってきた明るい地域にありまして。そこは、酒場も兼ねてまして……」
「とても寝られる場所ではないと?」
「その通りです。ですが、ご安心下さい。食事に、寝床。十分なものを用意させていただいております」
「本当かしらね」
「牛車、持ってくる?」
「それで良い気がしてきたわ」
「最悪、それで行こうか」
「着きましたよ」
ローゼットさんが、馬車を止める。その近くに、木造の民家が建っていた。結構、しっかりした家だな。
「では、こちらです」
ローゼットさんが、家の扉に何かカードのようなものを差し込む。すると、扉が薄っすらと開いた。
「なにそれ。カギ?」
「はい。魔法で開ける特別仕様です。どうも幽霊は、普通の鍵を開けることが出来てしまうらしいので、念のためにと」
「壁、すり抜けてくるんでしょ?あんま意味無くない?」
「この鍵の掛かったドアに触れると、魔法の障壁に弾かれますから、多少は効果があると思うのですが」
「へー、城の魔法技術も、知らないとこで進んでるのね」
そう言いながら、俺達は家に入っていく。家の中は、広い大きな空間だった。そこには、壁という概念がない。柱があって、ベッドがあって、暖炉があって厨房がある。辛うじて壁で区切られている部屋があるが、トイレとお風呂だけのようだ。それ以外は、かなり大きな一つの部屋だな。プライバシーも何もありゃしない。
「どうですか、立派なものでしょう」
「センスは悪くないけれど、家っていうより、小屋って感じね」
「ああ、確かに……」
「壁のある狭い部屋で、幽霊に襲撃されては誰も助けられませんので、こんな感じに」
「ああ、なるほど」
「トイレと、お風呂が壁で覆われていますが、そこは流石にないと嫌だと皆どころかシアさんがいうので」
「当たり前よね」
「ですので、あそこの周りには特に強い結界が張られています。籠城する際の、食べ物も置いてありますよ」
「トイレとお風呂に、食べ物」
「トイレとお風呂に籠城……。嫌だよアリーちゃん、私はそんなの」
「ヒイラ、私達は魔法使いよ。幽霊くらい、ぶっ飛ばせるわ」
「そんな状況になったら、私の血の魔神が、この町のゴースト全てを吹っ飛ばすよ!!」
「頼もしいわね」
「ゴーストバスター・ヒイラだな」
血は幽霊に効くんだろうか? という疑問があるが、あれも一応魔法で出来たものだし効くんだろうな。多分。
「……じゃ、じゃあ、私。家に戻るね」
「ニーナ。そう言えば、実家があるのか」
「もう遅いし、明日にしなさい。ご家族も、皆寝てるわよ」
「あっ、そうですね……」
「ニーナさんが帰ってくると、私共もご家族に伝えていませんので、皆さんお休みになっていらっしゃるかと」
「そうですか。……明日にします」
「そうそう、それでいいの。それに、こういう時に離れるとか、危機管理能力がなってないわよニーナ。さっきのあれ、貴方も見たでしょう」
「はい。あの死神のような……」
「こっちには、シデンがいる。ベイがいる。あいつらの動きをいち早く察知したいなら、ここにいるのが得策よ。家族の安全を、知る意味でもね」
「そうですね、アリーさんの言う通りです」
「それに、妻仲間にもしものことがあったら、嫌だしね」
「アリーさん……」
アリーが、そう言いながらニーナの肩に腕を回して引き寄せる。その顔は、とても優しい顔だった。俺の妻は最高だな。優しさの塊だ。
「てなわけで、まずはローゼットさんを落としましょう!!」
「え?」
前言撤回。俺の妻怖いわ。かなり怖いわ。
「アリーちゃん、またそうやって……」
「何よヒイラ。他に、いい案があるの?」
「話せば、わかるんじゃ無いかな?」
「でも、ローゼットさんは城の兵士でしょう?信じられないっていうか~」
「そう言いながら、俺ににじり寄って、ローゼットさん側に引っ張っていこうとするのをやめなさい。我が妻アリーよ」
「えっ?え?」
「ローゼットさんが、混乱しています、アリーさん」
「なるほど。今がチャンスね!!」
「落ち着けアリー、ウエイト。ウエイト」
「くっ、今日は常識人が周りに多いせいか、皆が私に流されない!!ミルク、ヘルプ!!」
「ご主人様、やってしまいましょう!!」
「いや、まじで出てくるなよ」
突如として出てきたミルクが、俺をアリーと一緒に引っ張る。ちくしょう、逃れられねぇ。
「良いですか皆さん。シデンや、カザネモードまで見られた今、簡単にローゼットさんを信頼してはいけないんですよ!!」
「いや、良いと思うんだけど?」
「ヒイラさん、今日はやけに食い下がりますね。ですが、もしもこの情報が漏れた時のリスクを考えて御覧なさい」
「えっと、国の英雄として、祭り上げられる?」
「そう。そこから出世街道という名の縛られた人生の始まり。ご主人様は、仕事に釘付け。創世級を討伐する暇もなく、この世界はタイムアウト。デッドエンド!!これで良いんですか!!」
「……あり得なくは、無いのか」
「そうです。自由だからこそ、今の強さがある。私達も、かまってもらえる。そこに邪魔なんて、この私が、国を潰してもいいぐらいです!!」
「落ち着けミルク!!落ち着け!!どうどう」
「はっ!!落ち着きました!!ご主人様に、頭を撫でられて落ち着きました!!でも、ちょっと落ち着き足りないですね。出来ればもっと、下の方。そう、特に胸あたりを強く撫で回していただければ」
「完全に落ち着いたようだな」
「……ちっ」
舌打ちするなミルク。そんな俺達を眺めて、ローゼットさんは苦笑いを浮かべていた。