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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・二部 全妖神狐 シデン編
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死の巣食う町

 それから数時間、特に問題なく旅は進行していった。お昼も途中の町で食べ、晩御飯も特に時間のずれもなくとることが出来た。しかし、やはり座っているだけというのは退屈だな。いや、皆と喋っているから退屈というわけではないか。単に、動きたいだけだな。身体が運動を欲しがっている。あとで、アルティでも振るか。


「そろそろ着くんじゃない」

「そうだな。最初に言われた時間だと、そろそろだろうか」

「あ、見えてきましたね」


 ローゼットさんにそう言われ、俺は窓から外を覗く。すると、道の先に明かりが見えてきた。あの町か。


「私の故郷……」

(……少し、止めていただけますか)

「……ローゼットさん、少しストップで」

「え、あ、はい」


 シデンにそう言われ、俺は馬車を止めてもらう。そして、俺が馬車を降りると同時に、シデンが出てきた。


「あれ、乗られてましたっけ?」

「しっ、お静かに」


 ローゼットさんの疑問を遮り、シデンが目を閉じる。そして、胸の前で腕の指を交差させて開くと、2本の雷の鎖を両腕に出現させた。


「シデン、どうした?」

「見てて下さい、ご主人様」


 シデンが雷の鎖を振るう。すると、微弱な雷の魔力が衝撃とともに空間に広がっていき、辺りを紫色に光らせた。だが、俺はその中でおかしなものを見た。何かが、その光にぶつかって消えていったように見えたのだ。まるで、風船のようなものが空中に浮いていて、今なくなったかのように。その光景は、透明な空間に複数見て取れた。


「シデン、今のは?」

「偵察用幽霊、とでも言えばいいのでしょうか。微弱な魔力の塊です。恐らく、人なら気にしないレベルの魔力の塊でしょう。ですが、ここにあったということは、何かを見ていたのだと思います。この町に来るものを」

「俺達の敵は、そいつらの主か」

「恐らく」


 シデンが、2本の鎖を交差させる。そして、その2本がお互いに絡みつくように巻き付き合うと、シデンは鎖を離した。2本の鎖が空中に浮き上がり、勢い良くお互いから離れ回転する。その衝撃で、町の周囲に微弱な雷の魔力が広がっていった。その魔力は、生きている人間などには害はない。だが、目に見えない謎の幽霊を、その光は次々に破壊していった。


「空中に、あんなに……」

「普通じゃない……。この町には、一体何が?」

「……」


 肉眼で確認できただけで、三桁にも登る数の幽霊が消えたと思う。やはり、ここはおかしい。何者かに監視されているのだ。この町は。


「このぐらいなら、町の中にいる幽霊には影響しないでしょう。シデンでも、出来ることで良かったです」

「ありがとな、シデン」

「いえ、周りの魔力に敏感なだけです。ですが、お役に立てたのなら良かった」


 そう言って、シデンは笑みをこぼす。だが、次の瞬間シデンは、目を見開いて後ろを振り返った。


「……来る」

「何?」


 俺も、後ろを向く。馬車の後ろに立ち、近づいてきているという何かに備えた。すると、薄っすらと道の先が、霧のようなものに包まれていくのが見えた。その霧は段々と濃くなり、夜だというのに道の先を白く染め上げる。そして、その霧の中から、馬の足音のような音が聞こえてきていた。


「……なんだ、この悪寒は」

「周りの熱を消費して、霧を作り上げているのです。それも、雷の魔力で」

「雷属性の魔力で?そんなことが出来るのか」

「そう見えます。そして、あれは」

「雷属性の、神魔級魔物」


 いつの間にか、出てきたアルティがそう言う。それは、霧の中から骨だけで出来ている馬に乗って、こちらに近づいて来ていた。黒い布をかぶった人間のようにそれは見える。だが、その布の中で、怪しげに赤い光がまるで目のように光っていた。


「まるで、死神だな」

「いえ、恐らく例えや、比喩で言われていると思うのですが。恐らくあれは、それに限りなく近い……」


 シデンの言葉を遮って、死神はその骨でできた腕に、巨大な鎌を出現させて掴んだ。それと同時に、周りの空間に同じような布をかぶった集団が現れる。それは、全員が同じ鎌を持ち、こちらに向かってきていた。


「これは、ちょっと多すぎるな」

「カザネ、お願いできますか。この数を無傷でさばくには、それしか無いと思います」

「了解した」


 出てきたカザネと、俺達が一体化してカザネは構える。それと同時に、黒い布の集団がふわりと空に浮かんで、こちらに向かって飛んできた。


「神風・変身!!」


 それは一瞬。まさに、止まった時間のようにも思える僅かな時間。その一瞬で、全てのその幽霊たちは消し飛んだ。骨でできている馬にまたがっていた死神も同様だ。だが、時が動き始め、死神が消えていくのを一体化した俺体は見たが、その顔は、骸骨だが笑っているように見えた。


「……倒せていない」


 そう呟いたシデンの声が、消えていく霧の中に響き渡っていった。俺達は、一体化を解除して全員を戻し、馬車に近づいていく。だが、そんな俺をローゼットさんは、慌てた顔で見ていた。


「み、見ました!!今の、ブラック・アクセ!!」

「はい、ストップ!!それ以上喋らない!!命の恩人に失礼でしょう。ねぇ、ベイ?」

「あ、ああ」


 やべ。緊急事態だったから普通に使ったけど、見られてはいけない人に見られていた。


「というわけで、この口を封じないといけないと私は思うなぁ。思うなぁ」

「アリーちゃん……」

「アリーさん……」

「む、むー」


 アリーに口元を抑えられ、ローゼットさんが声にならない声を漏らしている。そんな中で、アリーだけが俺にウインクしていた。うちの妻、怖い。


「取り敢えず、町まで行きましょう。話はそれから。良いわね、ローゼットさん?」

「は、はい!!」


 ローゼットさんもアリーの言葉で分かってくれたようなので、俺も馬車に乗り込んだ。そして、馬車は町を目指して進んでいく。ここはアウダレイシア。死神が巣食う町。募る不安を抱えたまま、俺達はその町へと到着した。




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