怪奇事象
「え、ニーナちゃん行くの?いや、確かに故郷が大切なのは分かるんだけど、ちょっと今は、里帰りはやめたほうが……」
「はい。なんとなくですが、分かります。今は、家に帰るべきではない。そう思うんです。だけど、私は、行かなきゃいけない気がするんです。家族のために。故郷の人達のために」
「……ニーナちゃんが行って、何とか出来るとは思えない。確かに、今は穏やかな街だよ。でもね、本当はアリーちゃんを行かせるのも、躊躇うかのような現状なんだ。ベイ君がついて行ってくれて、ギリギリ許せる範囲かな。今は穏やかだけど、いずれあの街は地獄に変わる。ニーナちゃんには悪いんだけど、そんな気がしてならない。だって、あの街は今は、異常としか言えない状況なのだから」
「えっと、それってどういう状況なんですか?」
たまらず、俺は話に割って入った。もうちょっとで、地獄になる。そんな怖い状況のとこに、行きたくないんだけど。
「そうだね。話しておいたほうが良いか。今ね、アウダレイシアでは、幽霊が街を歩いているんだよ。それこそ、死んだ人が生前の記憶を持って、まるで、復活したかのようにね」
「幽霊?」
「そう、半透明で足がなくて、浮いている怪物。知らない、ベイ君?」
「いや、知ってますけど。幽霊……」
「ああ、まぁ、信じられないよね。私も、報告聞いて偵察に出した兵が、寝ながら報告送ってきたのかな?と思ったよ」
「やっぱり、そうなんですね……」
「ああ、ニーナちゃんもそんな感じなのか。私の部下にも、数人そんな反応の子がいてね。アウダレイシアに帰ってくるなって、誰かに囁かれたらしい。それこそ、自分の知っている、今は亡き誰かにね……」
「はい。私も、そんな気がします」
ニーナは、複雑そうな顔をしながらそう答えた。けど。っと、ニーナは覚悟を決めた表情で話を続けた。
「あれは、助けを求めている声でした。誰かに救って欲しい。そう、言っているような声でした」
「……その証言は、初耳だなぁ。どういうこと?」
「私の聞いた声、それは、そのような声色で私に話しかけてきていました。止めて欲しい、救って欲しい。そう、私には汲み取れたんです」
「確証的な話ではない。だが、そう聞こえたと。……確認できるかもしれないなぁ。その証言」
「と言うと?」
「いや、例外なく語りかけてきた人物は、あの街で幽霊になっているみたいだからね。もしかしたら、ニーナちゃんが幽霊に聞けば、何か分かるかもしれない。……行く、ニーナちゃん?」
「はい!!」
「……分かった。じゃあ、そっちの手配だけはしよう。護衛もつけるよ。で、後はアリーちゃんとベイ君がどうするかだね。行かせる準備は、その答えが聞けてからにするよ」
「……少し、時間を下さい」
俺は、勝手に決めるのもまずいと思い、シアにそう答えた。
「そうだよね。急な話だし、よく話し合って。じゃあ、明日また来るから、答えはその時に。それじゃあね」
そう言うと、シアは馬に乗って返ってしまった。何処か急いでいるようにも感じたな。忙しいんだろうな、今の状況だと。
「私、行かなきゃ……」
「ニーナ」
俺は、強張っているニーナの肩に手を置いた。
「大丈夫。きっとなんとかなるさ」
「ベイ君。……そうだといいけど」
「物事には、何かしらの原因がある。それを、見つけて直せばいい。それだけさ。俺達なら、それが出来る」
「ベイ君、それって……」
「まぁ、多分そうなるよ。多分ね」
俺は、ニーナを連れてそう言いながら、家に戻っていった。
「……と言うわけなんだけど」
家に戻り、皆が集まっているので、俺は早速その話題を口にした。すると、ミズキが口を開いた。
「アウダレイシアと言うと……」
「一体化した際に、見て回った街の一つですね。雷の魔力を、感じた地」
「となると、原因は雷属性神魔級迷宮ですか?」
「……シデンの、出番というわけですね」
その言葉に、シデンが立ち上がる。だが、その動きをアリーが止めた。
「……何よ、幽霊って」
「え?」
「アリーさん、幽霊知らないんですか?」
「知ってるわよ。でもね、倒せるの、幽霊?」
「一説では、魔法は有効という話でしたが」
「ああ、倒せるの。なら良いわね。それなら良し」
「ああ、そうだな。倒せないと、行ってもどうしようもないもんな」
「レイスという、幽霊に近い魔物がいるようです。それの一種では無いでしょうか?」
ミズキが、どこからか俺の部屋にあった魔物図鑑を取り出して見ている。そう言えば、そんな魔物いたな。
「でも、話だと人の記憶を持っているのよね?」
「そのようですね」
「倒しづらくない?」
「そうでしょうか?」
「そうだと思いますよ。私達は、あまり気にしませんが。他人ですし」
「まぁ、そうなんだけどね。他人だけどね。人間も、良いやつばっかじゃないし……」
「でも、それが善人だったら。特に、危害を加える必要のない相手だったら……」
深刻そうな顔で、シデンがそういう。
「ほっとけばいいでしょう。善人なら、私達の敵にはならないはずです。気にしなくて、いいじゃないですか」
「そうですね。流石、ミルク先輩。その通りです!!」
「ふふふ、まぁ、それほどのこともありますけどね!!」
「でも、もしも……」
ニーナが、二人の会話を聞いて何か考えている。なんだろう。最悪の事態が、これ以上あるというのだろうか?
「まぁ、神魔級迷宮絡みなら、どっちにしろ行く価値はあるってことよね。行けそう、ベイ?」
「ああ。俺は大丈夫だ」
「そう。なら、幽霊観光と行きますか。シアに、旅費は出させましょう」
「頑張ります!!」
シデンが、気合を入れて跳ねている。そのシデンを、ニーナは少し微笑みながら、アルティは目を細めて興味深そうに見ていた。
「そろそろ、ってところでしょうかね」
アルティが、そう俺のとなりで呟いたのが、やけに大きく聞こえた。