次なる目的地
「なるほど」
「いや、何故服を脱ぎ始めるんだ、ミルク」
自然に、ミルクが服を脱ぎ始めた。封印されていた、その胸のビッグバンが多少解き放たれる。存在感が凄い。今、上着を脱いだだけなのに、さらしで抑えているはずなのに、揺れたな。やはり侮れない。
「いや、だってそういう話でしょう。ご主人様」
「なるほど」
「いや、皆も脱ぎ始めなくて良いから」
何故こうも、ミルクの言動にあっさりとみんなは納得してしまうのか。いや、確かにそう聞こえる会話だったかもしれないけども。
「残念ながら、そういう意味での繋がりではございません」
「う、嘘でしょ……」
「いや、残念がりすぎだろ、ミルク」
取り敢えず、ミルクに上着を着せ直す。ビッグバンが解き放たれていると、会話に集中出来ないからな。
「正確に申しますと、今は皆さんと契約という魔力で繋がっている状況ですが、それでは不十分です。マスターならば。マスター相手ならば、より高度な魔力的結びつきの契約が可能なはずです。それこそ、まさに一個体となるような、融合するかの如き契約が」
「えっとつまり、それってどういうこと?」
「フィー姉さん、つまりですね。私達自身が、マスターの魔力と同化すると言っているんですよ。そうすることで、マスターを擬似的な迷宮として契約することが可能になります。そうすると、皆さんは神魔級進化が可能となるのですよ」
「主人の魔力と」
「同化するだと」
「それって、危険はないの?」
「……まぁ、多少わ。ただ、先も申しました通り、準備が足りていないと私は判断します。それがなんとかなれば、かなり楽になるでしょう」
「その、準備というのは?」
その言葉に、アルティが再び俺の映像を映し出す。
「先の属性特化一体化で、マスターはカザネさんの更なる力。その力を制御する力を身につけられました。そして、その力は前にも申しました通り、擬似的に神魔級進化した後の力に近いはずです。つまり、皆さんが今、マスターと強行して魔力的融合を果たしてしまうと……」
「マスターの身体に、ものすごい量の負担がかかる?」
「その通りです、フィー姉さん!!今までの皆さんの進化では、このようなことはありませんでした。しかし、魔力的融合を果たしてしまうと、マスター自身にも皆さんが進化した時の魔力が伝わってしまうでしょう。それが全員分となると、マスターが処理しきれるか、かなり怪しいと思われます。最悪、一ヶ月寝たきりの可能性も……」
「それはいけませんね!!ご主人様が寝たきりになってしまったら、誰が私のミルクを作るんですか!!」
「いや、ミルク。ちょっと座ってなさい。ちょっとでいいから」
俺のその言葉に、立ち上がっていたミルクは、素直に椅子に座り直した。
「つまりですね、準備というのは属性特化一体化。その副作用を、マスターがすべて受け入れることです。これで、皆さんが一気に神魔級進化されても、動くことが出来るでしょう。……そのはずです。あと、勿論、他の迷宮の神魔級魔物たちの情報も欲しいですね。属性によって、迷宮との結びつき方が違うかもしれませんので」
「それで、全ての準備が整うというわけか」
「はい。そして、その先に更なる一体化が……」
「うん?」
「まぁ、これはまだ可能性の話ですから、置いておきましょう。理論上、可能なことはすでに証明されているといえますが、出来るかは別問題ですからね」
「?」
取り敢えず、神魔級進化は目処がたったか。これで、創世級に対抗出来るようになるといいのだが。 ……しかし、あれだな。ウインガルも創世級だったが、全然、創世級迷宮ほどの脅威は感じなかったな。いや、確実に単体では勝てない相手ではあったが、恐怖を感じなかった。あれか、俺の感覚が麻痺しているのか。それとも、奴と、創世級迷宮の創世級では、格が違いすぎるのか……。
「取り敢えず、私からの報告は以上です。これからも、神魔級迷宮探索を続けましょう。そして、属性特化一体化をしましょう。そういうことです」
「なるほどねぇ。一応は、理解したわ」
アリー達、知能派が何か考えながら頷いている中。サラサ達、戦士組はちょっと分からんみたいな顔をしていた。レラだけは、まぁ分かったかな、みたいな顔をしている。
「うん、ニーナ?」
「……えっ?」
その中で、ニーナだけは外を見つめていた。心、ここにあらずといった感じだ。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。大丈夫だよ……」
「……とてもそうは見えないが」
「あはは、本当だよ。大丈夫だよ。大丈夫……」
そう言うと、ニーナはまた外を見つめた。どうしたんだろうな、ニーナ。
「ごめんくださーい!!」
「……この声、シアね」
玄関から、元気な声が聞こえてきた。その声の主に、家にいたカエラが返事をして向かっていく。その状況を、俺達は若干ドアを開けて覗き見ることにした。
「あ、お邪魔いたします。ベイ君、そろそろ治りましたか?」
「え、あの、一応は。ですが、まだ回復したてですし、休ませたいのですが」
「そうですよねぇ……。でも、申し訳ないのですが国家の危機的状況ですので、彼とお話だけでもさせていただけないでしょうか?」
「……わかりました。でも、無理にはやめて下さいね」
「はい。誓って」
「……ベイー!!」
「……行くしかないか」
俺は、ドアを開けて玄関に向かった。
「どうも」
「お、歩けるようになったんだね。良かったね、ベイ君。あ、これ、お見舞いの手土産」
「あ、どうも」
俺は、シアからフルーツの入ったかごを受け取った。
「うん、力も戻ってるみたいだね。結構、本調子に近いんじゃない?」
「あまり、無理はしたくないですけどね」
「……実はね、個人的にではあるんだけど、国家的な頼み事をしてもいいかな?」
「……なんですか」
「正直ね、アリーちゃんの力が必要なんだ。彼女くらいの、天才の力がね。だから、アリーちゃんと一緒に、とある場所に行ってくれないかなって」
「とある場所?」
「うん。魂の眠る地・アウダレイシア。そこでね、今ちょっと変わったことが起きててさ。国家の魔法技術力を持ってしても、現状お手上げな案件なのよ。だからさ、安全らしい今のうちに、アリーちゃんに調べてもらえないかなって思って」
「アウダレイシア!!」
シアの言ったその単語に、ニーナが慌てて出てきた。
「おお、そう言えば、ニーナちゃんの故郷だっけ?」
「はい。……やっぱり私、行きます!!」
何やら、覚悟を決めた様子で、ニーナはそう言った。