訓練
朝からキス攻めをされすぎてテンションがすごく高くなってしまった。フィーも朝のキスをしようとしたのだが、アリーが。
「ごめんフィー。これ、これ1回したら落ち着くから。チュッ❤……あ、駄目、後1回。チュッ❤」
というのが何回か続いて、ようやくアリーは少し落ち着いた。まだ熱をおびた瞳で俺を見ている気がする。いや、別に一日中でもしてていいけどね。でも、確実に駄目になるからね。俺が。
「ああ、これ自制心が試されるわね。元からベイがすごい好きな分、抑えるのが辛いわ。チュッ❤」
まだ治まるまで時間がかかりそうだ。あまりの可愛さにこっちからキスしそうになるけど、したら多分症状が加速すると思う。ここは我慢だ……。ミルクを迎えに行ったり、ミズキのご飯を取ったりしている間は良かったが、朝ご飯を食べている間アリーはやたらとぷるぷるしていた。カエラとノービスが、大丈夫か? という顔をしていたが。アリーは、ぷるぷるしながら大丈夫ですと答えていた。必死に押さえているらしい。そのせいか、移動して今日の出かける準備をしようとしたら、そのまま押し倒されてまたキス攻めにあったが。アリーに、今後聖魔級回復魔法をかけるときは、これを覚悟しないといけないようだ。ほぼ緊急時以外は、使用禁止だな。あと……。
「(ふ~む、もし私が受けたらどうなるんでしょうか。やはり今は、やめといたほうが良さそうですね)」
このアリーの状況で、ミルクに聖魔級回復魔法をかけた時の心配がまた増えた。いや、絶対やばい気がする。無事で済むといいが。俺が……。レムに、もしもの時は止めてもらおう。……いや、待てよ。ミルクがあと1回進化すると、レムと同じ聖魔級魔物になるはずだ。しかも、ミルクは超がつくパワータイプ。これ、誰も止められないんじゃないか。未来の俺、無事でいてくれよ。とりあえず、水属性上級迷宮に作った洞窟で今日も練習をすることにした。
「よし、強化魔法の練習をするか。アリー、さすがにそろそろ離れてくれないと危ないんだけど」
「あっ、ごめんベイ。無意識に腕組んでたわ。ミズキ、フィー、ちょっと私押さえてて。ふらっとベイの方に行きそうになるから……」
「承知しました」
「分かりました!!」
ミズキが触手をアリーの腹付近に巻きフィーは、アリーに抱かれている。なんだろう、シュールな光景だ。まぁ、いいか。取り敢えず、訓練だ訓練。昨日は慣らしまでだったが今日は、レムを相手にしての試合形式にする。この練習方法だといつもボロボロになるが、相手が聖魔級魔物となるとレムとやりあえるぐらいじゃないといけないだろう。回復魔法をかけながらレムとガンガン練習するしかなさそうだ。
「ふぅ~。よし、問題なく強化は出来るな。じゃあレム、手合わせを頼む」
「分かりました主、では、行きます!!」
レムも安全のため、部分的に鎧と盾を付けている。相変わらず武器は、硬化させた木の棒だ。あの木の棒でも普通の店売りの武器より高い威力の攻撃を出すのだから聖魔級魔物は恐ろしい。
「……アリーさん。身体が殿に向かって動いてます」
「ハッ!!」
……後ろは、大丈夫だろうか。まぁ、ミズキとフィーに任せよう。今は、目の前のレムに集中しないとな。……レムが一歩踏み込むのが分かる。いつもなら、一瞬だけ見える光景が今の俺には長く見ることが出来た。だからといってレムの動きが遅くなったわけではない。いつもなら見えても対処できない一撃だが強化をかけた今の俺なら!! ガキイイイイイイイィィィィィィィィィンン、と音がして俺の剣がレムの木の棒を受け止めている。木の棒が出す音じゃない。だが、これだけでもすごいことだ。いつもの俺なら、この一度の踏み込みで10回は切られている。それに、レムの動きに合わせるなんて今までは確実に出来なかった。やはり、この魔法はすごい効果があるようだ。問題があるとすれば、それをかけた状態でもレムの一撃を受け止めるのが精一杯ということだろうか。
「……お見事です、主。ですが、ここからですよ」
レムが優しく微笑み、剣を再び振りかぶる。何度かレムの素早い剣筋に合わせてギリギリの防御をしていった。俺は今、強化魔法をかけながらレムの動きに合わせて身体を動かさなければならない。魔法を感覚で操る練習をしてきた俺だが常に魔力を動かしながら相手に反応するのは、どうしても動きにタイムラグが出てしまう。つまり、動きがぎこちなくなってしまうのだ。俺は、レムの剣を防ぐだけで精一杯だった。これでは、どうしたって戦いに勝てない。レムの攻撃を受け止めながらまずは、この感覚に慣れる。攻撃に移る練習は、それからになるだろう。攻撃を出来るようにならないと本番の相手に勝てるわけないからな。俺は、レムが振り下ろす一閃一閃に集中して対応していった。
「すごいわね。さすがベイ、私の旦那ね!!キスしたいわ!!」
「……アリーさん、また身体が殿に向かって動いています」
「あ」
……昼になるまでずっと俺は、レムの剣を受けていた。
「主、一旦休憩にしましょう。もうお昼ですから」
とレムに言われるまでは、ずっと気を張っていてそんなに時間が経っていることに気づかなかった。気を抜いて魔力を解くと俺は、全身汗でびしょ濡れだった。……全く気づかなかった。それだけ魔力コントロールと、レムに集中していたということだろう。水を飲まねば。失った水分を取り戻すんだ。
「ベイ。はい、タオル!!」
「ああ、ありがとうアリー」
アリーから受け取ろうとしたが、アリーがそのまま俺を拭きだした。いや、アリーさん。なんと言いますか、ちょっと恥ずかしいといいますか。そのまま、上半身の衣類を脱がされる。汗を拭きおわったアリーは、ずっと俺に抱きついたままお昼ごはんを食べていた。アリーの作った弁当は、本当に美味い。だいぶ動いたから今日は、味も一段格別だ。お茶も牛乳も、一段上の味わいに感じる。それだけ俺が疲労しているということなんだろう。回復魔法を自分にかけて後半戦に備えないといけないな。
「ベイ。はい、あ~ん!!」
「あ、あ~ん……」
「ふふ、美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「嬉しい」
とりあえずまたアリーを回復魔法に巻き込まないようにしてからだな。いや、嬉しいけどね……。そう思いながらご飯を食べ進めた。戦う相手も今は、戦う訓練をしているかもしれない。早く強くならないといけないな。実力差が開き続ける一方じゃいけないからな。
*
赤い彼女は、巨大な岩の前で棒を構えていた。目を見開くと棒先で岩を貫いていく。強烈な棒突きの嵐によって岩は、すぐに突きの衝撃で砂状になり砂煙をあげていった。
「ふぅ。よし、身体を動かしている間は集中出来るわね。これで、あいつのことを考えなくて済むわ」
棒突きで壊れ砂状になっていた岩の砂煙がはれる。岩があった場所には、ベイの特徴を真似たようなデフォルメの効いた小さな岩の人形が出来ていた。
「……ああああああああああああああああああああああああああ!!!!な、なんで!!なんで!!なんで!!なんで!!こ、こんな!!こんな!!!!」
彼女は、すぐに棒を振り下ろして人形を叩き壊そうとする。が、出来ない……。
「……フ、フン」
そのまま彼女は、人形を胸に抱えてしばらく地面を転がっていた。