体の変化
「どういうことだ、アルティ。出来るのに、出来ないとわ?」
全員が、俺の発言に頷きながらアルティを見ている。すると、アルティは映像をデフォルメされたカザネと、一体化したカザネモードの状態を並べた映像を映し出した。
「まず、最初にご説明いたしましょう。前回のカザネモード使用時のカザネさんの変化です。一体化時、皆さんの魔力が集められ、一気にカザネさんに雪崩込みます。その際、カザネさんの肉体が強制的に強化・変化し、パワーアップを起こしました。ですが、問題はこれからです」
デフォルメされたカザネの下に、俺達のデフォルメが出てくる。それぞれが線で繋がっており、カザネと、その他の皆のグループが、俺を中心にして繋がっていた。
「その際、なんと一体化したことによって、皆さんの肉体にも同等の変化が起こりました。簡単に申しますと、擬似的な進化ですね。それも、風属性方向にです。はっきり申しますと、これはミルクさんにとって致命的とも言える事態でしたが、流石我らがマスター。全員分の変化をコントロールし、見事、属性変更をさせずの強化を成功させました。これによって、全体的な合計能力が大幅アップ。結果、あれほどの力になったのだと思います」
「なるほど。全員、更に力が上がっていたのだな。それは、あれほどになるはずだ」
「ええ。ただし、その御蔭で、マスターと私がてんやわんやしていたわけですが。カザネモードでしたので、その事態も外の時間だと一瞬の出来事だったでしょう」
「あれって、そういうことだったのか。なんとなく逆流してる力を皆に合わせていたが、そんな状態だったとわ……」
「感覚だけでなんとかしてしまう辺り、流石としか言いようがございません。ですが、皆さんも御存知の通り、その莫大な変化によってマスターのみならず、皆さんまで動くことが出来ないほどの疲労を一気にその身に受けることになったのです」
「ちょっと待って」
アリーが手を上げて、説明を遮る。
「なんで全員が、擬似的にパワーアップするの?通常時の一体化では、この現象は起きないのよね。属性特化させただけで、こんな現象が起きるのはおかしいんじゃない?」
「そうですね。アリーさんの言いたいことは分かります。その回答ですが、主軸がマスターか、カザネさんかの違いのせいですね。マスター中心の場合、全ての力を満遍なく調和させ、均衡を保ちます。ですがカザネさんは、雪崩込んでくる魔力に身を任せて強制強化されます。その際、一体化したことにより、皆さん全ても自分の肉体・能力の一部として捉え、拡散的に強制強化されて増幅された力と言いますか、魔力が伝わります。これを、まずマスターがキャチ・変換。皆さんに流すことで強化がされました」
「要は、現象的に作り出された強化魔法が、かかったせいってこと?」
「そうですね。そういうことです」
「なるほどね。それ、一体化しなくても使える?」
「無理ですね。カザネさん一個体の力を、無理やり引き出して発生した強化魔法です。変換はできましたが、単体での発動となると、マスターですら現段階で出来るか怪しいですね」
「そこまでの、複雑な現象なのね」
「はい。私自身も、先の合体時間だけでは制御のみで手一杯で、解析すら出来ていません。……よろしいでしょうか?では、次に参ります」
アルティの問いかけに、アリーが考えながらも無言で頷く。アルティは、次にデファルメした俺の絵を、画面に映し出した。
「皆さんには、一連の疲労の結果は、猛烈な修行をしたのと同じ効果として体に出ています。しかし、マスターだけが違います。属性特化一体化時の特性、その一部を身体が引き継ぐように変化しています」
「……は?」
アリーが、目を見開いて立ち上がった。そして、短くそう呟く。
「今回、マスターに現れた変化は、空間把握能力の超強化です。全てが止まて見えるほどの、恐ろしいほどの空間把握能力。それを、マスターは獲得するに至りました。その結果、一体化時の特殊魔法・ディレイウインドも扱える様になっています」
「いや、ちょっと待って。それって、大丈夫?ベイには、今も時間の進みが遅く感じるの?」
「それは大丈夫です。マスターは、すでにその能力を制御しています。今は、普通のはずですよ」
「そうなの、ベイ?」
「ああ、大丈夫だよ」
「そう。ならよかった」
アリーが落ち着き、安心した笑みを浮かべて座り直す。心配してくれてありがとう、アリー。大好きです。
「で、この結果から分かることなのですが。マスターは、属性特化一体化をする度に、その力が強化されていく可能性があります。つまり、現状のマスターの力から、大幅に変化してしまうということです」
「そうだな」
「ここで、進化の話の戻るのですが。カザネさんが倒した敵たちには、それぞれ共通項がありました」
「共通項?」
「記憶を司る部分。脳が無かったのです。ですが、彼らは記憶を持って行動していました。そして、一羽だけ、脳を持っていた例外が存在します」
「ウインガル、か……」
「その通りです。奴だけは、脳に当たる部分の魔力的器官がありました。これは、どういうことか。お分かりになりますか?」
「どうって?」
「何故、神魔級である他の魔物たちは、脳を持っておらず行動出来たのか。何故、ウインガルは脳を持っていたのか。その答えは、これです」
アルティが、ウインガル達が拠点にしていた山の映像を映し出した。
「これは?」
「迷宮です。要は、迷宮こそが、奴らの記憶の保管庫。脳だったのです。そして、それを取り込んだウインガルには、脳があった。つまり、そういうことです」
「となると、私達が進化するには、迷宮を取り込む必要があるというのか?」
「はっきりと申しますが、無理です。ウインガルは、元々そのために生み出された魔物のようですが、皆さんはすでに独自進化した存在。その方法は、不可能でしょう。いや、時間をかければ出来るかもしれませんが、現実的ではないですね」
「だから、無理だということか」
「いえ、始めに申しました通り、出来ます。準備さえ整えば」
「準備?」
「迷宮とは、魔物に魔力を与え、生活させる母体のような存在。魔物たちと魔力的に繋がっており、その力を把握、存在を生み出しているものです。皆さんにもいらっしゃるでしょう。かけがえのない、その様な存在が。勿論、私にもですが」
「アルティ、まさか……」
「それって……」
アルティが、映していた映像を消す。そして、目を閉じて沈黙して、溜めを作った。
「その通りです。我らにとっての迷宮。心の在り処となりうる存在。それは、私達と契約している人物。我らがマスター。ベイ・アルフェルトを置いて他にいません。つまり、皆さんが進化するには、マスターと繋がらなくてはならないのです。それもより深く、今まで以上に!!」
そう言いながら、アルティは、力強く俺を指差した。