復帰
「……」
なんとなく、目を覚ました。恐らく、もう朝が近い時間だろう。早朝、といったところだろうか。まだ辺りは暗いが、そのはずだ。国王から報酬の書かれた手紙を受け取ったその日、その賞状には多くの金額が書かれており。アリーさん、建設費用が向こうからやってきましたよ!! と、ロデがはしゃいでいたのを覚えている。その後、さしたる用事もなく、その日は新たな家の建設内容を更に話し合っておわった。俺がまともに動けない状態でいたこともあり、昨日は訓練もしていない。
「……っ」
何気なく、腕を動かす。普通に動くようだ。身体に気だるさは、もうない。だが、とても正常とは言える状態ではないと俺は感じた。アリー達に気を使いながら、俺は外に出る。そして、外の景色を眺めた。
「なんだ、これは……」
それは、静止した世界だった。いや、俺自身も遅い。俺自身が早く動いているわけではない。普通の動きのはずだ。だが、遅く感じるのだ。認識する速度が早くなった、といえば良いのだろうか。周りの景色が、止まって感じる。いや、時間は動いているのだから止まっているというのはおかしいのだが。はっきりと、物の動きが、恐ろしく遅く感じるのだ。まるで、カザネと一体化した状態のように。
「……落ち着け」
目を閉じて、身体を魔力で検査する。そして、己の内側に熱く燃えたぎっているかのような動きの魔力を感じた。その魔力を、徐々に俺は感覚で沈めていく。動きが緩やかになり、やがて正常に回り始めた。そして、俺は目を開ける。風の音、草の動き。全てが、正常な速度で感じられるようになっていた。 ……どうやら、治せたようだな。
「……ふぅ」
安心し、俺は息を吐いた。
「次は、これか」
俺は、地面に向かって拳を放った。そして、俺は姿勢を直して移動する。数秒後、地面に俺の拳の後が着いた。ディレイウインド。カザネが一体化した際に使っていた魔法だ。どうやら、今の俺は、この魔法が使えるらしい。身体が、一体化した際の状態に適応したからのようだ。恐らくだが、カザネも一体化せずとも使えるだろう。元から、カザネに合わせて得られた能力だからな。
「さすがマイマスター。すでに、その魔法を会得されていましたか」
「アルティ」
「身体も正常になられたようで、とても嬉しいです」
アルティが、俺の内から姿を現す。白い髪が、闇夜に揺れて幻想的だ。怪しげな魅力を纏っているなと、俺は思った。
「ありがとうございます。マスターに、今後も魅力を振る舞って行こうと思います。さぁ、抱きしめて!!肌で感じて下さい!!この私を!!抱きしめて!!」
「……ちょっと、ミルクに似てきたな、アルティ」
「……今は、ちょっと奥ゆかしく振る舞う場面でしたね。次は、気をつけます」
「ああ」
「ですが。こほん。色々と時間をもらいまして、なんとか先の現象と現状の報告が出来る準備が整いました。マスターも本調子に戻られましたし、そろそろ次に向けて動き出しましょう」
「神魔級進化、出来そうか?」
「……お楽しみ、ということにしておきましょう。皆さんが、起きてからということで」
「そうか」
俺は、日が昇り始めている夜空を眺めながら、アルティにそう呟いた。そして、また意識を集中する。すると、また世界が静止した。
「……もう、普通の人間とは、完全に呼べない体になってしまったな」
そう呟くと、意識を正常に戻し、俺は登る朝日をただ見つめていた。
*****
「えー、では、アルティ報告会。第二回となります」
朝ごはんを食べてすぐ、アルティが報告会を開いた。みんなが集まって、アルティを見つめている。
「今回の報告は、属性特化一体化。その結果と副作用。そして、神魔級進化は可能なのか、についてです」
「お、本題ですね」
「神魔級進化?」
「改めて説明しますが、フィーさん達は魔物で言うところの聖魔級。その段階に位置する個体です。その先の力を得た個体に、身体が変化する。これが、神魔級進化です。ただし、シデンさんのみ未だに中級ですので、この状態にはいませんね」
「……こん」
アルティが、シデンを慰めるように、まぁまぁとジェスチャーして、とある映像を映し出す。それは、カザネモードの一体化した姿だった。
「こちらが、先の戦いで行った、カザネモードの属性特化一体化です。くっっそ強いです。そのデータ、数値で表しきれません。まるで、止まっている時間を縦横無尽に動くかの如きその性能。誰が勝てるのか、というぐらい無茶苦茶な力です。更に、フルアクセル・ブーストでその速度を、更にぶっちぎります!!意味が分かりません!!静止時間を、さらに振り切っているのです!!どう表せば良いんですか?意味が分かりません!!……と、いう性能です」
「静止時間を、振り切る?」
「いや、意味が分からないとは思いますよ。何ていうんですかね。あの状態は、時間を巻き戻して、動いているというか。まるで、動作前にあたかも、その動きをしていたとしたというか……」
「過去に、遡ったとでも言うの?」
「いえ、違います。ですが、そうなるのです。そうだったかのように、動きが反映されるのです。これが、ディレイウインドという魔法の、本当の使い方です」
「……よく分からないけど。思考より前に、動いたかのようなほど、速いってことね」
「まぁ、そんな感じですね。とにかく速いです。とにかく速い」
アルティが、頭を腕で抑えながらそう呟いている。余程速いのだろう。俺でも、そう言うしか無い能力だったと思う。
「まぁ、結果。その力のおかげで、新たな創世級・ウインガルを文字通り、瞬殺。いや、静止時間内でしか戦えなかったんですから、瞬殺なんですけど。まぁ、瞬殺です。瞬殺致しました。……頭が混乱しそうですが、続けます。そしてその結果、私は、風属性魔物の創世級までの情報を手に入れることができました。それらを解析し、皆さんに神魔級進化をしていただこう。それが、今回の戦いの第一目標です。そして、解析致しました結果……」
「結果?」
アルティが、息を呑んで言葉を溜める。その様子を、皆が黙って見守っていた。
「神魔級進化は、出来ます!!」
「「「「おおおおおおおおおおーー!!!!」」」」
皆から、歓声が上がった。ミルクやカヤは、立ち上がって喜んでいる。カザネは、小さくガッツポーズしていた。だが、アルティが手を叩いて、皆の動きを止める。
「ですが、……出来ません!!」
「……は?」
みんなが、一瞬で無言になった。




