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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・一部 幻音神鳥 カザネ編
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つかの間の平和

 カザネは、風魔法で障壁を作り、大気圏突入を果たして地上へと帰還した。サイフェルムの街に、風の魔力を纏った英雄がゆっくりと降りていく。そして、カザネはサイフェルムの上空で手を高々と上げると、そのままゆっくりと魔力を撒き散らして消えていった。それは、カザネが敵を倒したということを、サイフェルムの町の人々に伝える為に残した残像だった。だが、それを見たサイフェルムの人々は、カザネがまるで幻想の中の神か、おとぎ話に出てくるような英雄にしか見えなかったと言う。


「帰ってきた!!」


 アルフェルト家。その庭で、ベイの帰りを待っていたアリー達は、見えもしないスピードで一瞬のうちに目の前に現れた鎧を見て、その近くへと駆け出した。アリー達が近づいていくと、すぐに鎧が緑色の光りに包まれて発光し、一体化が解除されていく。そして……。


「ぶはぁあああああ!!!!」


 その場に、ベイ・アルフェルトを含む全ての一体化をしていた仲間たちが倒れ伏した。アリーだけが、何とか反応してベイのみを支える。だが、誰一人としてその後、その場から動こうとしない。あれほど強いフィー達が、誰も何も言わずに倒れ伏したまま動けないでいた。


「し、神魔級回復魔法……」


 辛うじて、ベイが魔力を操作して、ピンポイントで仲間たちと自分に回復魔法をかけていく。回復魔法が数秒フィー達の身体を癒すと、やっとフィー達はその場から起き上がった。


「何、これ……」

「身体が、まるで動かなかった」

「こんな疲労、今まで感じたことが……。いや、ご主人様にあれとかされた時は、こんな感じになりますけど」

「あれとは別だろ。身体に力が入らなかった。まるで、限界まで身体を酷使した後の様な疲労感だった」

「そうそう。全力のその先を出し切って、更に身体に無理させたって感じよね」

「うっぷ。回復したはずなのに、まだ身体が……」

「辛いっすね。吐きそう」

「神魔級回復魔法で、こんな……」

「私も、回復魔法を使います」

「でも、何とか起き上がれて……」

「これが、力の代償か……」

「まさか、武器であるこの私が、動けなくなるとわ。いや、本来ならその通りなんですけど」


 全員が、何とか起き上がる。だが、ベイ・アルフェルトだけは、まだ生まれたての赤ん坊の様にうまく体に力を入れられないでいた。崩れそうになる体を、必死にアリー達が支えている。


「なんだ、これは……」


 ベイは、自分の体を魔力で確認した。外傷も、内面的な損傷も見られない。だが、身体が思うように動かなくなっていた。


「……」


 そのベイを、アルティが見つめている。その目は、ベイの中で動いている何かを見ていた。


「マイマスター、ご心配なく。一時的なもののようです」

「そう、なのか?」

「ええ。マスターの中の機能が、今はせわしなく動いています。もしかしたら、丸一日はそのままかもしれませんね」

「俺の中の機能?」

「……恐らくですが、風属性特化一体化をした際に、マスターの魔力を吸収する機能をフルで使ってしまった結果。それに今後対応するべく、身体の機能そのものが強化され始めているのでしょう。生身の肉体では、まずありえない速度ですが、今のマスターは魔力体。ありえぬ話ではありません」

「身体が強化されているから、動かないっていうのか?」

「はい。かなり大掛かりな変化のようです。肉体的な変化はないので分かりづらいかもしれませんが、マスターの根底部分が変わっているのです。それは、そうもなるでしょう」

「そうか。……取り敢えず、どうしよう」

「取り敢えず、ベッドに運びましょう」

「えっ?」

「こういう時は、ゆっくり体を休めないとね。皆で介護するから、心配しなくていいわよベイ」


 そう言うと、サラサの背中に乗せられてベイが運ばれていく。その後を、回復魔法をシゼルにかけられたフィー達が、ゆっくりと歩いてついて行った。


*****


「おっはようございまーす!!」


 一日が明けて、アルフェルト家の前に一人の女性が来ていた。その声の主を、アリーは嫌そうな顔で出迎えた。


「何よ、シア」

「いやー、お待たせ致しました。それじゃあ、城に行きましょうか」

「……何も聞いていないんだけど」

「いやぁ~、本当は、リングルスターから帰ってからやる予定だったんだけど。ほら、色々あったでしょ。だから、今日やります!!はい、皆さん乗って下さい。馬車は手配していますので!!」

「だから、何およ?」

「何って、そりゃあ国王からの表彰式ですよ。アリーちゃん達、お手柄ですから」

「……ああ~、なるほど。そう言えば、そんなのが……」

「えっ?」

「……いかなきゃ駄目か。ちょっと待ってなさい。今、皆を呼んでくるから」


 そう言って、アリーは家の中へと入っていく。暫くして、アリー達に支えられた状態で、ベイ・アルフェルトがやってきた。


「あれ。ベイ君、まだ治ってないんですか?」

「見れば分かるでしょ。療養中よ」

「あはは、どうも……」

「……おかしい」

「なにが?」

「あれ、ベイ君でしょ?」

「あれって?」

「あれ、おかしいなぁ?」

「意味がわからないのはこっちよ。ともかく、城に行くんでしょ。ベイはこんな状態だけど、それでも良いのよね」

「ええ、それは勿論!!……でも、おかしい。いや、吹っ飛ばされてたしそれでかな?いや、でも……」

「私も、付き添います」

「ああ、カエラさんも。ええ、それは大丈夫ですよ。息子さんを支えてあげて下さい。……まぁ、行きましょうか」


 ベイ達全員が、予め正装に着替えてから馬車に乗り込んだ。フィー達は、他に用があったのですでに帰ったとされ、今はベイの中で休んでいる。城に着き、真正面の門からサイフェルム城へと入ったベイ達は、城の中央。特別に大きく作られた広間へと通された。その中に、両脇には役職の偉そうな人物から、兵士、魔法研究者まで、多種多様な人々が並んでいる。その中央を通って、ベイ達は真正面に立っている人の元へと歩いていった。


「よくぞ参った。勇者たちよ」


 真正面に立っていたその人物。その人こそ、サイフェルム王国・国王、フェールズ・サイフェルムであった。その顔は、髭を蓄えた紳士的な顔立ちをしているが、肉体を鍛えているのがその正装した姿からもはっきりと見ることが出来た。物腰柔らかながら、只者ではないとベイ達の誰もが思っていた。


「まず始めに、急に呼びたてた非礼を詫びよう。今、サイフェルムは多くの問題に直面している。その為に、このような形で君たちへの礼を行うことになった。急ぎで申し訳ないが、許して欲しい。……君たちの活躍は聞かせてもらった。若いながらも、世界の崩壊を防いだと聞いている。これは、サイフェルムのみでなく、他の隣国まで救った偉大なる功績だ。とてもではないが、その功績に見合う報酬など用意できそうにない。だが、それでも君たちの活躍に、我が国が出せるだけの報酬を出させてもらおうと思う。受け取ってくれ」


 国王が、ベイに近づいて封書を渡す。その封書を、ベイはアリーとカエラに支えられながらも、お辞儀をして受け取った。


「この子達だけではない。我が国の兵士、研究者、そして協力者である英雄の末裔の人々の協力あってこそ、今日の平和がある。そしてもう一人、この場に呼ぶことはできなかったが、この国を救ってくれた黒い戦士に礼を述べよう。そして、我々にはまだ新たなる解決するべき問題が出てきている。それらに一致団結して望み、国の平和を守って行かなければならない!!困難かもしれないが、君たちならば出来る。共に、この国の未来を守り、この星に平和を取り戻そう。以上で、今回は解散とする。来てくれてありがとう。では……」


 そう言うと、国王はベイ達が入ってきた入り口の、反対側のドアから出ていった。その姿は、何やら急いでいる様に見えた。


「ベイ、新たな問題ってやっぱり……」

「ああ、神魔級迷宮だろう。他にも、出てき始めている迷宮がある」


 多くの人々が広間から出ていく中で、ニーナは明後日の方向に目を向けていた。その方向はニーナの故郷、アウダレイシアのある方向だった。その街では今、不思議な現象が起きている。死んだはずの人々が霊となって蘇り、町の人々と暮らしているというのだ。果たしてそれは、神の奇跡か、それとも偽りの平和なのか。今は誰にもわからない。



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