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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・一部 幻音神鳥 カザネ編
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ワールドウインド

「己の力の強さだけに驕り高ぶり、目の前にあるものが真実だと思って決着が着いたと決めつけてしまう。確かに、並の相手であったならばそれでよかっただろう。だがしかし、それは相手が、並の相手であったならばの話だ!!」

「ぐっ!!うぶっ!!」


 ウインガルの顔に、腹に、殴られたかのような衝撃が走る。だが、周りには何もいない。カザネ自身も、ウインガルには先程殴った時のまま、止まっているように見えていた。つい先程までは、そうだった。


「なんだ……」


 ウインガルが、殴ってとどめを刺したはずのカザネ。その姿が、魔力の粒子となって消えていく。それは、まるで残像。質量をもちながらにして、その場に存在するカザネの身代わり。それが消えると同時に、ウインガルは辺りを見回したが。やはり、何も自分の周りにいないことが分かっただけだった。


「目に見えない力を、持っているとでも言うのか。ならば」


 ウインガルは、全身から風の魔力を放出する。それらに意識を走らせ、目を閉じ集中した。すると、その中を突っ切って何かがウインガルに近づいてきている。それは、ウインガルの意識には、殴りかかってくるカザネのように見えた。ウインガルは、その攻撃を魔力を頼りに回避する。うまく避け、ウインガルはカウンターの攻撃をカザネに向かって放とうとしたが、カザネは、その場からまるで消えるようにしていなくなってしまった。


「これも、残像か……」

「ようやく気づいたか。ディレイウインド。私は、風に自分の攻撃を乗せて飛ばすことが出来る。その際、着弾時のスピードを、遅延・高速化。どちらにも変えることが出来る。お前は、私の攻撃を見切ることが出来ない」

「ふっ、もう種は割れた。見切ることが不可能だと。笑わせるな!!もう、我には通じんぞ!!」

「言っただろ。高速化出来ると。今までのは、全て遅延だ」


 そのカザネの言葉に、ウインガルは驚愕で目を見開く。だが、すでに遅かった。ウインガルのすぐ真横に、それは突然出現した。今度は隠そうともしていない、風の魔力で作られた質量を持った残像。それが、ウインガルですら避けきれない速度で、拳を放ってきた。


「がはぁああああ!!!!」


 ウインガルの外皮を傷つけ、超高速で放たれた残像の拳が激突する。その威力に、ウインガルは身体をくの字に曲げた。休む間もなく、残像が更に拳を放ってくる。だが、ウインガルは全身から魔力を放ち、これを吹き飛ばした。


「うぉぉぉぉおおおおお!!!!我を、舐めるなー!!!!この程度、効かんわー!!!!」

「そのようだな。ならば、手数を増やそう」


 そうカザネが言うと、また一瞬にしてカザネの残像が2体、ウインガルの近くに出現する。それらは、まるで別々の意思があるかのように、ウインガルを攻撃してきた。だが、ウインガルも速度を更に上げて、この攻撃を避けて反撃する。


「2ではまだ駄目か。次は、5でどうだ。……これでもまだ保つ。では、10だな。次は20。その次は30だ。……面倒だな。100ならば、そろそろ沈むんじゃないか?」


 ウインガルは、必死にカザネの残像の攻撃を避け続けていた。だが、もう避ける隙間すら、残像の圧倒的な数の前に封じられてしまう。遂に、ウインガルは残像の攻撃を、その身に受けてしまった。


「……なんだ。痛みがない」


 ウインガルは、不思議そうに攻撃が当たった全身を眺めようとした。だが、顔が動かなかった。指先一つ、身体のすべての動きが封じられている。そして、いつの間にか、周りにいたカザネの残像たちが消えていた。


「今、お前の体のすべてに私の打撃が当たり、ゆっくりとお前を押さえ込みながら進行している。打撃の進行速度を遅延させて、お前の動きを止めているんだ。今のお前は、お前が私にそうしようとしたように。打撃を受けて、崩壊を待つだけの存在になっている。どうだ、その状況でもまだ、己のほうが強いと錯覚していられるか?」

「こんなもの、我が内側から衝撃を送って、無効化してやれば」

「その通りだ。所詮は打撃。お前を完全に押さえ込んではいるが、その威力を相殺することは出来る。だが、お前はまた一つ勘違いをしている。その打撃を消しても、お前が動く猶予がまだ、残っていると思っているのか?」

「……貴様、どれほどの速度に達している」

「さあな。私にも分からん。だが、今の私からすれば、お前でさえ止まって見える。と、言ったところか」

「……そんな、馬鹿なことがあり得るのか。すべての生物が止まって見えるこの我が、止まって見えるだと」

「ああ。お前をこの場に残して、世界の異変が起きてきている地域を見て回っている余裕すらあった。サイフェルムの住民、一人一人の顔を眺めている暇すらあった。この鎧の力を修行し、試す時間すらあった。残念だが、お前に勝ち目は、はじめから無かったな。何故なら、お前の唯一の長所を、私達が圧倒的なまでに上回っているからだ」

「ばかな!!神魔級迷宮を取り込んだ、我以上の速度を出せる者など、いるはずが!!」


 ウインガルの目の前に、唐突にカザネが出現する。カザネは、特に構えることもなく、ウインガルを見つめていた。


「11の英雄。1つの武器。1人の救世主。迷宮一つが合体した程度のお前では、到達できないほどの天と地の差があるのは当然だ。私でさえ驚愕している。私の仲間は、皆さんは、こんなにも莫大な魔力を抱えていたのかと。そして、今の私は、それを永遠に最高速で使える状態にある。お前に、勝ち目などない」

「永久に、魔力を使い続けられるというのか……」

「ああ。言っただろ。お前は救世主ではない。本当の救世主は、今、ここに居る!!」

 

 そう言って、カザネは己の胸を指差した。


「さて、ここまでだウインガル。決着を着けよう。このまま動きを止め続け崩壊させてやってもいいが、それではお前も辛いだろうからな。最後の一撃をくれてやる」

「……ほざけえええええええ!!!!」


 ウインガルは、全身からかつてないほどの量の魔力を放ち、その体全身を限界まで強化した。創世級、そのなりたてとは言え強靭である肉体に、限界まで施された強化。その余波で、ウインガルは拘束から解き放たれた。


「良いだろう!!見せてやる、我の力のすべてを!!!!」


 ウインガルの姿が変わっていく。魔力がウインガルの全身を包み、その体そのものを風の魔力へと変化させた。高密度の魔力そのものへとウインガルは変化する。その姿形は残したまま、圧倒的に眩く光り輝く緑の神鳥、ウインガルはカザネに向かってゆっくりと構えた。


「来い。今度は、我が貴様の速度を見定めてやる。そして葬ってやろう。この風魔神鳥が!!!!」

「ああ、行くぞ。……フルアクセル・ブースト!!!!」


 カザネが、その言葉と共に、風の魔力を纏っていく。黒と緑の装甲が、その魔力を受けて、外側に開き始めた。それらは、開いた隙間から蒸気のようなものを発して、カザネの全身に力を漲らせている。そしてカザネは、完全にウインガルの視界から、その影すら残さずに消えた。


「ソニックミラージュキック・ブースト、とでも名付けておこうか。威力は、この技名以上にあるだろうがな」


 ウインガルが、最後に聞いた声がそれだった。ウインガルは、捉えることも出来ぬまま、カザネの連続攻撃を受けていた。それは、くらったものにしか、いや、くらったものですら何をされたか分からない連続した残像が繰り出した蹴りだった。なんとか一撃受けた瞬間に、身体を動かそうとしたウインガルだったが、もうその場から動くことは出来なくなっていた。ウインガルは、その攻撃をその身に受ける中で、有りもしない音を聞いた。それは、己が生まれた星の声であったような気がした。その音は、星を周り、生物の声を乗せて飛んでいる。そう、それが風なのだと。ウインガルは死ぬ間際に理解し、風の音とは何かを分かった気がした。


「これが、幻音神鳥か……」

「お前、遅かったな……」


 カザネが、パチンと指を鳴らす。その音を最後に、ウインガルは宇宙で華々しく、風の魔力を振りまきながら爆発した。


「帰りましょうか、主人。皆さん」


 その光景を見届けると、カザネは、自分たちが生まれた星へと帰還していった。



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