幻音神鳥 VS 風魔神鳥
(これが、属性特化一体化・カザネモード……)
今、ここに人々が待ちわびた真の英雄が降臨する。その英雄は風の魔力を纏い、青空の下その黒と緑に光る鎧を装着して今、このサイフェルムに誕生した。その名は、幻音神鳥カザネ・アルフェルト。
「奇蹟だ。奇蹟が起きたんだ!!」
「すごい!!何だあれは!!」
「いいぞ、やっちまえー!!」
風の魔力の球体から現れたカザネを遠目に見た市民たちは、口々にそう言い始めた。だが、これは本来ならばあり得ないことである。カザネが今いる地点と、市民たちがいる地点は常人の視力では正確に捉えようがないほど離れている。だが、サイフェルムの市民たちには、その姿がはっきりと見えた。それは、一体化したカザネの能力なのか。はたまた、その一体化後の隠しようのない強大な力故かはわからない。だが、距離や地形関係を無視して、多くの人の目に一体化したカザネの姿は焼き付いていた。圧倒的な安心感とともに。
「幻音神鳥だと……」
ウインガルにも、今のカザネは見えている。ウインガルは、その姿に何か言い難い不安を覚えていた。だが、カザネはその力を完璧にコントロールしているために身体から漏れ出ている魔力量は少なく、その力は容姿だけでは確認のしようがない。ウインガルは、理由の分からない不安など直ぐに頭から追い出し、カザネに対して少しだけ身構えることにした。創世級になった自分が、身構える必要があるほどの相手が存在するのかと、ウインガルは考えたが。先程までのカザネも、弱いとは言えなかったがために、一応の迎撃態勢をとることにした。
「……行くぞ」
カザネが、ゆっくりと身をかがめる。そして、緑の閃光となってウインガル目掛けて跳躍・飛行した!! その動きは、まさに一瞬。常人が瞬きするほどの間に移動して、カザネは一気にウインガルへと到達する。だが、ウインガルはこのカザネの動きを、正確に捉えていた。カザネが、ウインガル目掛けてパンチを放つ。だが、これを先程と同じようにしてあっさりと、ウインガルは躱した。そう見えた。ウインガルには。
「うぶっ!!」
ウインガルの顔に、衝撃が走る。カザネの攻撃は、完璧に避けた。そうウインガルの目は、身体は認識していた。だがしかし、ウインガルの顔に殴られたかのような衝撃が走った。しかも、それは痛みとなってウインガルに伝わっている。先程、カザネの必殺技を受けてもダメージがなかったウインガルが、痛みを感じているのだ。
「なんだ、これは……」
「どうした」
すかさず、カザネが追撃の拳を放つ。これをまた、ウインガルは避けた。今度は、その顔に衝撃が走らない。だが、カザネは休む間もなく攻撃を続けてくる。ウインガルは、カザネのその攻撃を全て避け続けた。
「疑問だったんだ。何故、風魔神鳥なんて名乗っているのかってな」
「それがどうした」
「創世級であるならば、創の字が入った通り名にするべきだ。だが、お前はまだ神の字を使って名乗っている。お前、本当はそう言う実力なんじゃないか?」
「抜かせ。我は、神魔級迷宮が形をなした姿よ。そう名乗るのが当然だ!!だが、お前の言い分にも一理ある。お前を倒し、この星の力を喰らい尽くしたあかつきには、改めて、その意味で名乗るのも良いだろう」
「残念ながら、永久にその時は来ない。何故なら言っただろう。お前に、私達の風の音を聞かせてやると」
「それがどうした。そんなもの、未だに我が身体には響かんぞ!!」
「本当に、そうかな」
カザネが、攻撃を止めて静止する。ウインガルも動きを止めて、その行動を見守った。が、その直後、ウインガルの身体に謎の衝撃が連続して襲いかかった。まるで、先程までの攻撃を、全てその身に受けたかのような衝撃がウインガルを襲う。あまりの衝撃に、ウインガルは後ろに吹き飛ばされた。
「がぁぁあああああああ!!!!何だ、これはー!!!!」
「考えてみろ」
吹き飛ばされたはずのウインガル。その吹き飛ばされた先に、いつの間にかカザネは存在していた。そして、今度は避ける間もないウインガル目掛けて、カザネはアッパーを放つ。そのまま、カザネは緑の閃光となってウインガルと共に高く上昇し、空を突き抜けて宇宙へと到達した。
「ごふっ!!」
ウインガルは、宇宙へと投げ出される。だが、風属性の魔法を操れる魔物にとって、宇宙という空間はあまり空中と大差がない。空気を作り出すことが彼らには出来るため、ウインガルやカザネは、宇宙でも普通に喋ることが出来、呼吸することが出来た。
「み、見えないだと。この我が……」
「理解したか。お前が今、なにと戦っているのか」
「幻音神鳥……」
幻音神鳥。それは、カザネが一体化した際に、その体にあふれる力を全て把握、その上で己自身を表した通り名である。魔物である彼女は、人間とは違い、一瞬で己の身体に起こった変化、強化を把握することが出来た。その力を感じた時、カザネは自然とこの通り名を思いついた。ちなみにだが、この力を絶賛彼女の中で体感しているベイ・アルフェルトは、あまりのその力の強大さに、驚きを通り越して呆れ果てていた。それこそ、口を閉じるのを忘れるほどである。
「どうやら、少し見くびりすぎていたようだ……」
「気づくのが遅かったな」
「どうかな。お前はまだ、我の本気の速度を知らない」
「ああ、そうだな。風魔神鳥、その力を見せてもらおう」
まるでウインガルを試すかのように、カザネは何もせずに浮いている。ウインガルは、一瞬だけ目を閉じると、勢い良く目を見開いた。次の瞬間、ウインガルの身体から、風の魔力が光を放って放出され始める。その時、ウインガル以外の全ての物の時間が、まるで止まったかのように静止した。いや、実際には止まっているわけではない。それほど、今のウインガルの体感時間は速いのだ。地上でジャンプしている人間、風に舞う木の葉。それらが動き出すよりも速く、今のウインガルは動くことが出来る。まさに、刹那を動くことが出来る、圧倒的な力を持った魔物といえるだろう。
「我の全速は、地上で動けば、星をそのまま移動速度の余波だけで破壊できる程速いのだ。もっとも、今の貴様には聞こえていないだろうがな」
ウインガルは、静止しているカザネへとゆっくりと近づく。そして、そのまま連続して拳をカザネへと叩き込んだ。カザネの鎧に変化はない。だが、時間が経てば、その圧倒的な速度で放たれた拳の衝撃が伝わり、カザネは粉々に砕け散るだろう。
「さらばだ、幻音神鳥」
ウインガルが、カザネへ背を向ける。だが、そのウインガルの頬に、謎の衝撃が走った。
「グッ!!」
それは、まるで何かに殴られたかの様な衝撃だった。ウインガルは、即座に辺りを見回す。だが、近くには、静止したカザネに見える何かが存在しているだけだった。
「笑わせる。慢心が過ぎるな」
「この声は……」
ウインガルが身構える、それは、今さきほどウインガルがとどめを刺したはずの者の声。そう、カザネの声であった。




