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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・一部 幻音神鳥 カザネ編
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幻音神鳥、カザネ・アルフェルト!!

「参ったな。どうなってやがんだ」


 ライオルは、カザネとウインガルの戦いを遠くから眺めていた。市民たちに被害が及ばないように、飛んできた瓦礫を片付けながら、町の家の上に陣取っている。ライオルには、ウインガルの動きどころか、カザネの動きすら見えていなかった。だから、むやみにライオルは戦いに介入することが出来なくなっていた。自分めがけて相手が飛んでくるのなら問題ないのだが、共闘、それも知らない相手となると話が変わってくる。恐らく、自分が相手にとって邪魔になるだろうと、そう思いライオル戦いを見守ることしか出来なくなっていた。


「おじ様!!避難は、ほぼ終わりました!!」

「そうか、シア。そのまま、ジーンと一緒に市民と下がれ。あれは、並の人の手に追える相手ではない」

「ですが!!」

「お前の妹も、一緒にいるのだろう。お前が守ってやれ」

「……はい」


 そう言うと、シアは迷いなく町の外へと向かっていた。ライオルは、只々カザネとウインガルの戦いを見守っている。次に、自分が戦う事になった時の参考にするために。


「しかし、両方共只者ではないな。誰だ、あの黒い鎧の戦士は」


 ライオルは、必死にウインガルに攻撃を行っているカザネを見ながら、そう呟いた。


「ストームロッド・フルアクセル!!」


 風の魔力を纏い、カザネの杖が大きな手裏剣のように回転を始める。その杖を、カザネはウインガル目掛けて投げ放った。ウインガルは、これを易易と回避する。だが、回避したその瞬間、杖が無数の小さな風の手裏剣へと変化した。


「ほう……」


 小さな風の手裏剣が、次々とウインガル目掛けて降り注ぐ。だがそれを、全てウインガルは腕で弾き飛ばした。


「うわああああああ!!!!」


 間髪入れず、カザネが咆哮を発してウインガルに飛びかかる。三発ほどパンチを放ったが、全てウインガルに避けられた。そして、ウインガルにアッパーをもらい、腹を殴られ、またもカザネは空中へと投げ出されてしまう。


「今度こそ、終わりにしてやろう」


 ウインガルが、カザネにとどめを刺すべく空中へと舞い上がり、カザネの真上からかかと落としを放とうとした。だが、カザネは風魔法で強引に体勢を変えて、これを避ける。


「……しぶとい」

「まだだ!!」


 カザネは、そのままウインガルに向かって連続で蹴りを放つ。その全てを回避していくウインガルであったが、全てを同じ速度で回避していたところ、徐々に攻撃がウインガルの身体にかすり始めた。


「もっと速く!!もっと速く!!!!」


 カザネの鎧がひび割れ、中から風の魔力が溢れ出している。限界を超えてカザネは、己の身体を強化していた。そんなカザネをみて、ウインガルは微笑む。


「嬉しいぞ、お前は真の強者だ。戦いの中で、更に己の強さを引き出している。そんなお前を倒せること、嬉しく思うぞ」


 ウインガルが、更に動きの速度を上げる。さっきまでかすっていたカザネの攻撃は、微塵も当たらなくなり、反対にウインガルの蹴りがカザネの腹に直撃した!!


「がああああああああ!!!!」


 カザネは、勢いを殺すことも出来ずに、後方へと吹っ飛ばされてしまう。そして、町の建物の屋根を突き破り、地上へと落ちた。そう、ライオルの目には見えた。


「……今、何かいたな」


 だが、ウインガルには、そうは見えていなかった。


「……あっ」

「そろそろ、いいんじゃないか?」


 屋根が壊れた家の中に、光が差し込んでその人物を照らし出している。彼は、飛んでくるカザネを受け止めて、ウインガルの蹴りの威力を殺し、その建物の2階でカザネを抱きとめていた。その人物を、カザネはよく知っている。


「主人……」

「ああ」


 ベイ・アルフェルト。彼は、カザネを抱き起こすと、その身体に回復魔法をかけた。


「無茶しすぎじゃないか。すぐに合体しても、良かったと思うが」

「いえ、相手の強さも知らずに合体など。それこそ、合体時の力の強さが実感できませんよ。いてて……」


 カザネは、ベイが近くにいることで気を抜いてしまい。その結果、纏っていた鎧が魔力となって消えてしまった。本当を言うと、もう鎧を維持していることさえ、カザネには限界であった。だが、一体化していなくとも、無様な戦いは仲間には見せられないと、その一心で、カザネは今までウインガルと戦っていた。


「じゃあ、そろそろ行くか」

「……はい。……うっ」


 カザネは、痛みに身を曲げて座り込んでしまう。その体を、ベイが支えた。


「まだ、回復しきらないか。だったら、神魔級回復魔法で」

「いえ、大丈夫です。行きましょう……」


 カザネは、身体に力を入れて立ち上がった。


「おい、あれを見ろ!!」


 それは、避難していた民衆の一人が叫んだセリフであった。カザネが、ウインガルに蹴り飛ばされた光景を、その声で避難していた民衆達は目撃した。動きこそ見えていなかったが、家の屋根が壊れた衝撃で物凄い音と、破片が飛んでいたために、民衆たちはその事実に気づくことが出来た。


「ブラックアクセルが!!」

「もう、おしまいだ……」


 民衆は、落胆し始めた。自分たちがあれほど信じてやまなかったカザネ。ブラックアクセルが、圧倒的に負けている。その事実に、避難していた民衆たちは震え、恐怖した。だが、その中で一人の少女だけは、そう考えていなかった。


「頑張ってー!!負けないでー!!」


 落胆している大人たちをよそに、少女はそう叫んだ。その声を聞いて、周りの大人達も落胆とは違う気持ちを心に浮かべ始めた。ブラックアクセルは、一人で戦っている。自分たちのために、たった一人で。そんな彼になにが出来るだろう。なにがしてやれるだろう。非力な自分たちに。そう考えた時、その心の思いが、全ての民衆たちの口から声となって外に溢れ出し始めた。


「そうだ、負けるなー!!!!」

「あんたにかけてんだー!!」

「俺達の街を、そんな魔物に壊させないでくれー!!」

「勝てー!!勝ってくれー、ブラックアクセル!!」


 その声は、次第に人数が増え、やがて大きな振動となり風を揺らし始めた。その声は、ライオル、ウインガル、そして風に乗ってカザネの耳へと運ばれていく。そしてその時、サイフェルムの街に大きな風が吹き始めた。


「なんだ、この風は……」


 ウインガルは、苦悶の表情を浮かべる。それは、なんとも優しい強風であった。それらはまるで、意思があるかのようにカザネを中心として、円を描くように渦巻いている。サイフェルムに漂っていた魔力、それが民衆の声に反応し、カザネへと声と魔力を届けていた。


「……いい街ですね、主人」

「ああ、俺の故郷だ」

「では、守らないといけませんね」

「ああ、俺達でな」

(そうだよ、カザネ)

(先輩を頼っていんだぞ)

(栄えある一番目の特化一体化、譲ってあげましょう)

(倒すぞ)

(あいつ、なんかむかつくしね)

(行きましょう、カザネ)

(全力で、叩きのめすっすよ!!)

(私達が、力になります)

(存分に)

(ぶっちめてやりましょう!!)

「それではマスター、カザネさん、参りましょうか」

「ああ、アルティ」


 風の魔力を受けて、カザネは穏やかな顔をしている。その顔に、痛みなどは見受けられない。ただ優しく微笑むとカザネは、ベイ・アルフェルトの頬へとキスをした。


「……カザネ」

「見てて下さい、主人。私の、いえ、皆さんと私の愛を!!」

「マイマスター、それでは行きます!!」

「え、おわ!!」


 ベイが、光の粒子に包まれると、アルティの中へと吸い込まれていく。そして、アルティが緑色の粒子に変化すると、カザネの中へと吸い込まれていった。

 

「……いい風の音だ」


 穏やかに風が吹いている。カザネは、その中で静かに腕を前に出すと、その腕の前にでてきた緑色の宝玉がはめ込まれたペンダントを、その腕に握った。


「ふぅ……」


 カザネの周りに、高密度の風の魔力が渦巻いていく。それは辺り一面に広がり、カザネを覆い尽くす球体状の空間となった。


「なんだ、あれは……」


 ウインガルは、その光景を驚愕の表情で見ている。その緑色の魔力の球体の中で、カザネは胸の前にペンダントを構えると、そっと、もう片方の腕をペンダントの宝玉へと乗せた。


「神風・変身……」


 カザネが、ゆっくりと緑の宝玉を押す。すると、風の魔力の球体の中に、風の魔力で出来た木の葉が舞い始めた。それは、光の帯となってカザネの両脇に2つの漢字を浮かび上がらせていく。それは、風と音という漢字だった。その文字が光りとなって分解され、カザネの体の周りへと集まっていく。その粒子が、空中で鎧の装甲となり、内側から順にくっつくようにしてカザネへと装着されていった。


「これが、私の一体化……」


 その姿は、まさにパワーアップしたと言えるカザネの鎧だった。黒い鎧に、緑色の蛍光線がはしっているデザインコンセプトはそのままに、全体的に大きく、更に力強くなっている。その力を、拳を握ることでカザネは確かめた。そして、その場で蹴りを放ち、周囲の魔力空間を消滅させる。


「あれは……」

「風が私を呼んでいる。正義を守れと、私達を導いている。聞こえるか、この風の音が!!」


 サイフェルムに、穏やかで力強い風が渦巻いている。それは、そこに現れた戦士を祝福するように、周囲を漂っていた。


(チェンジ完了。属性特化一体化・風属性・カザネモード。ここに完成!!)

「私は、この星を救うものの妻、その一人。幻音神鳥、カザネ・アルフェルト!!さぁ、聞かせてやろう。特別に、私達の風の音を!!」


 魔力を操作し、ウインガルにのみ聞こえるように、カザネはそう言い放った。そして、ウインガル目掛けて腕を伸ばすと、指をパチンと鳴らした。



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