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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・一部 幻音神鳥 カザネ編
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決戦、風魔神鳥

 ばたばたと準備を進める国の魔法使い、兵士たち。それらの行動は、静かに密やかに行われていたが、やはり町の人達の目から完全に逃れることは不可能のようで、町には不穏な噂話が溢れかえり始めた。だが、ブラックアクセルがいるからと、町の人達は不安を抱えながらも、辛うじてそれらの行動を小さなことだと笑い飛ばせた。


「ふぅ……」


 シアがアルフェルト家へと訪れ、軽くベイにも手伝って欲しいと言って慌ただしく城に帰還した後。カザネは変身ポーズチェックと練習を終えて、アルティに身体を見てもらっていた。見ると言っても、体内の魔力を探り損傷を調べる程度で、五分ほどで済んだ。何処にも異常がないことがわかると、軽く運動をし、落ち着いた表情でカザネは、いつもどおりに寝床へと移動した。


「落ち着いてるな、カザネ」

「いえ、あれはそわそわしてるように見えるわね。私は」

「ああ~、確かに。言われてみれば」

「でしょう。きっと、いつも通りのことをすることで、気持ちを落ち着けているのよ」

「カザネ、大丈夫でしょうか?」

「フィー、心配はいらないさ。相手がどんなやつでも、俺達が負けるはずがないだろ?死んだって、死なないような俺もいるからな。大丈夫だ」

「……はい」


 ベイ達の会話を、カザネは寝たふりをしながら聞いていた。不安がないと言えば、カザネの中では嘘になるだろう。だが、それ以上にワクワクが大きいとカザネは感じていた。最後の敵だ。弱いはずがないだろう。それを、自分専用に特化した一体化で相手にするのだ。弱ければむしろ困る。強すぎても困るが、それなりに強くないと困る。何故なら、主人と自分と皆の力を合わせた、最高で最強の形態になるはずなのだから。そう考えると、カザネはワクワクして眠れなかったが、ベイの近くにいるとやはり気持ちが安らいでいく。そして数分後、カザネは静かに眠りに落ちた。


 日が昇り、新しい朝が始まる。その日は、いつもより空気が澄んでいた。何もなく、穏やかな一日が始まる。そう感じた、町の人間もいただろう。だが、それは嵐の前の静けさに過ぎないであることを、城の人間とベイ達は知っていた。


「今日は、早めの朝ごはんだな」

「絶対来るわね。確実に」

「同感だな」


 そう言って、俺は朝ごはんを食べる。カザネも、起きるなりキリッとした表情で水を浴びて軽く運動すると、いつもどおりにご飯を食べて、今は俺達を待つかのように庭先で仁王立ちしている。まるで、早く来いといっているかのように、カザネは空を見上げて動かなかった。


「……近い」


 平穏な朝の空気は、突如として切り裂かれる。サイフェルム城の周辺に張り巡らされていた結界。その結界が、まるで全方位から切りつけられたかのように、僅かな音をたてて崩れ始めた。その破片が、更に空中で細切れにされていく。なにが起こっているのか、カザネですら認識できていない。ただ、敵が現れたことだけが、カザネにははっきりと分かった。


「準備運度は、こんなものでいいか……」


 何かが、サイフェルムの町の中央の空に静止している。その身体は、太陽に照らされて薄緑色に光り輝いていた。その美しさに、その姿を見た町の人々は目を奪われる。だが、それが魔物だとわかると、声を上げて逃げ始めた。


「ふむ、周囲に魔力を漏らさずにするようには出来ているようだが。こううるさいとかなわんな。やはり、少し振りまいて気絶してもらうべきだろうか」


 ウインガルは、ゆっくりと街の中央へと着地する。そして、周囲の建物に向かって腕を向けると、指を弾いた。パチンと指がなった瞬間、指先の建物が何かに切られたかの様に崩れ落ちていく。その行為を、三度ほどウインガルは行うと、腕を組んであたりを見回した。


「さて、目的の相手は何処にいるのやら……」


 ウインガルがそうして待ち構えていると、ドタドタと足音が聞こえてくる。その方向をウインガルが見ると、それはサイフェルム城の兵士たちであった。彼らは、ウインガルと距離を取りながら、円を描くようにウインガルを取り囲む。だがそれを、ウインガルは何もいないかのように無視した。


「構え!!」


 声と共に、兵士たちが剣を構える。ウインガルに向かって何故か突き出すように剣を構えると、兵士たちはその場で固まった。


「?」


 流石におかしいとウインガルは思ったが、気にするほどでもないかと、適当にまた周りを見渡し始めた。すると、周囲の剣士の剣が、光を放ち始める。


「……魔法陣か」


 気だるそうに、ウインガルが言い放つ。そして、ゆっくりと上空に舞い上がり始めた。


「もう遅い!!」

「……ふっ」


 ウインガルの周りに、薄い壁のようなものが形成されていく。それらは、まるで檻の様にウインガルを捉えると、空中に逃げ場をなくした。


「こんな薄いもので、なにが出来るというのだ」


 ウインガルは、まだ余裕の表情を浮かべていた。しかし、ウインガルは見た。サイフェルム城に、巨大な魔力の塊が出来ていくのを。


「撃てー!!」


 サイフェルム城。その正面に出現した巨大魔法陣。その中央に出来た巨大な魔力の塊が、今、超高威力の攻撃となってウインガル目掛けて放たれた。その魔砲は、空気を振動させ、辺りに熱を撒き散らしながらウインガル目掛けて飛んでいく。その光景を、ウインガルは興味なさそうに見ており、そしてそのままその身で受けた。


「当たった?」

「本当に慢心しておったな、敵は」

「町の周囲の結界を改良して、檻と魔砲発射の際の町への結界を張れるようにした私のおかげだね。あー、ライアさん天才!!」

「一晩で、よくやったものだ。だが、上手く捉えられるか心配だったが、こうもうまくいくとわな」

「正直、兵士たちが気絶してる確率のほうが高いと思ったんだけどね。用意はしとくもんだ」

「貴様の家の家訓だったか。馬鹿にできないものだな」


 ウインガルに着弾した魔力の塊が、ゆっくりと収まっていく。だが、様子がおかしい。まるで、何かが中でうごめいているかのように、不自然に魔力の塊は変形していた。


「ふっ……」


 突如として、魔力の塊が切り裂かれ、中から何かが姿を現した。それはウインガルだった。その体には、傷一つも入っておらず、また焼け焦げた後もない。ただ何もなかったかのように、ウインガルは空中に静止していた。


「巨大な魔力の塊全てを捌くというのは、中々に面白い体験だな。だが、単純作業だ。大したことはないな」


 その言葉の意味を、聞こえたとして理解できたものがこの場にいるのだろうか。ウインガルは、こう言っているのだ。大きな魔力の塊を構成していた、小さな魔力。それらを尽くバラし、自分の体に着くまでの間に、ウインガルは全て解体していなしていたのだ。それを、あの短い僅かな間で。恐らく、それを理解できるものはこの場にはいないだろう。無傷で現れたウインガルに対し、ガーノは言葉を失って固まったが、ライアは次弾の準備に取り掛かるように、静かに兵士に促した。


「茶番にしかならん。いるんだろう、この町に」


 穏やかに、風が吹き始める。それらはウインガル、ガーノ達、全てを優しく包み込むように吹き始めた。その穏やかな風とともに、緑色の風の魔力が吹き上がる。街の中央、その近くに黒き鎧の戦士が出現した。


「……間違いない。お前だな」

「そうだ」


 交わした言葉は少ない。だが、お互いが敵であると、探していた敵であるとカザネとウインガルは共に認識した。そして、空中と地上で、ゆっくりと2人は構えた。




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