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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・一部 幻音神鳥 カザネ編
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神鳥の鼓動

「正真正銘の化物だ……」


 ライアが、怯みながらも杖を構える。その身体はわずかに震えていたが、ライアが歯を食いしばるとその震えは止まった。


「ちっ、笑えない相手だぜ」

「動けるのは、俺達だけか」

「お前はダメージがまだ残ってるんだ。無理はするなよ」

「無理せず、済む相手なら良いが……」

「それは、ないね。残念だけど」


 シアは、ウインガルに向かって構えている3人を見て驚いていた。自分でさえ今すぐここから逃げ出したいと思っている相手なのに、この3人はその相手に挑もうというのだ。そして、上空からも一つの光の塊がシアの前に着陸する。シアの目の前に降り立ったライオルは、ウインガル目掛けて剣を構えると、シアに目配せをした。シアは、その表情から部下たちを少しでも逃がすべく、その場から後退した。


「ほう、人間にもここまでの強さに至った我を見て、逃げない奴らがいるのか。やるものだな、人間も」

「……」


 ウインガルが、ゆっくりと歩いて近づくにつれ、ライア達の肌にビリビリとした嫌な感覚が走っていく。それは、勝てない、勝つ方法が思い浮かばない、逃げたいと言った細胞全体が悲鳴を上げている感覚だった。その感覚によって肌が震え始める。だが、ライア達はその感覚を、己の感情でねじ伏せた。ライア達の瞳には闘志が宿っている。逆に言えば、それがなければこの場で正気を保っていられない。そんな場で、ライア達はウインガルを睨みつけていた。


「丁度いい練習相手、と言いたい所だが。最初に倒す相手は決めているのでね。この力も、まだ制御すら難しい。この場は、我がひこう。次に合う時は楽しませてくれたまえ、人間諸君」

「逃げるのかよ」

「ふっ、先程我の攻撃を受けるのがやっとだったやつが吠えるではないか。だが、今はその通りだ。この次は、その口が開く前にねじ伏せるとしよう。目当ての相手を倒した後でな」

「逃がすか!!」


 ライオルが、全魔力と力を乗せた最大の一撃を叩き込む!! だが、ウインガルはその場を動かずに、ただ立っていた。そう、見えた。だが、ライオルの剣はウインガルをすり抜けた。


「なっ!!」

「無理なのだよ。人間が、今の我を認識することすらな。ふはははは!!」


 ウインガルの残像が、斬撃の衝撃で消える。辺りを見回したが、ウインガルはもうその場にいないようだった。肌のビリビリとする感覚も消えている。ライア達は、ホッと息を吐いた。


「あんなのが、サイフェルムに来たら……」

「最悪の惨劇が待っている」

「どうするんだ、ええ?」

「取り敢えず、城に戻りましょう。おじ様も」

「いや、俺は周囲を警戒する。じゃあな。そっちは任せたぞ」

「……はい」


 そう言うと、ライオルはすぐに上空へと飛び立ち、何処かへと飛んで行ってしまった。


「誰だ、あれは?嬢ちゃんの親族か?」

「ええ、我が家の英雄です」

「……こんな状況じゃなければ、一度手合わせしたい所だが」

「彼のことは、ご内密に」

「分かってるよ。英雄が未だに生きている国・サイフェルムなんて、他の国にどう思われるか分からねぇ。それぐらい、俺でも分かるぜ」

「その通りです。助かります」


 その会話のさなか、気絶していた兵士たちが目を覚まし始めた。シアが、戦士の一人に撤退を促すと、即座に他の兵士たちも準備を始める。その光景を見ながら、ガンドロスとジーンは、未だに持ったままでいた剣をしまった。


「しかし、あんなのに勝てるのか。国一つが。いや、人間が」

「逃げたほうが、良いのかもしれんな」

「いえ、それは得策ではないでしょう。恐らく、奴はその行動を察した段階で攻撃を仕掛けてくるはず。奴の目当ての相手が、そこにいると確定している間に」

「逃げも出来ないと……」

「そういうことです」

「勝算はあるのかよ、嬢ちゃん?」

「……心あたりが、ないこともないです」

「まじかよ!!」

「そんな何かが、サイフェルムに……」

「ええ……」


 シアの表情を見て、ライアが複雑な表情を浮かべている。恐らく、2人が思い浮かべている答えは同一のものだろう。ライオルでさえ見きれない相手を倒せるとしたら、ライオルを倒した人物にしか可能性はない。そう、ベイ・アルフェルトしかウインガルに勝つ見込みはないと、この時2人は思っていた。


*****


 カザネが、ゆっくりと大地に降りて着地する。そして、変身を解除し、片膝をついて座り込んだ。


「くっ……」


 カザネの口の端から、血が流れ出ている。ペッとカザネがつばを吐くと、そのつばは真っ赤に染まっていた。カザネは、そのつばの色を確認すると、口元を手で拭う。


「カザネ!!」

「主人……」


 ベイの声が聞こえた瞬間、カザネはスッと姿勢を正して立ち上がった。そして、出来るだけ自然体を装ってベイを迎える。


「大丈夫か!!」

「はい、問題ありません」

「……う~ん?」


 ミルクが、カザネの身体を凝視している。そして、ちょんとカザネの肩を押した。


「いっ!!」

「い?」

「い、いえ、なんでもありません!!」

「ちょっと待て」


 今度は、ミズキがカザネの腹に手を当てた。そして、首を横に振る。


「カザネ、酷くダメージを受けているな」

「い、いえ、そんなことは……」

「これでもか」

「痛い!!」


 ミズキが、強めにカザネの腹を押さえている。だが、明らかにそれは普通であれば大丈夫だろう程度だ。だが、カザネは痛いと呟いた。


「無理はするな。痛いなら痛いと言え。殿との子を宿す大事な身体だぞ。無理をしすぎて、壊れたらどうする」

「は、はい。すみません」

「殿を心配させたくないのは分かるがな。だからと言って、言わないほうが殿は苦しむぞ。お前を、大切に思っているのだからな」

「……はい」

「カザネ、私達は仲間なんだから。だから、素直に言って良いんだよ」

「はい、フィー姉さん。ありがとうございます」


 シゼルが、カザネに回復魔法をかけている。俺も、威力を抑えてカザネに回復魔法をかけた。


「頑張ったな……」

「主人、ありがとうございます……」


 しかし、カザネをここまで傷つける相手が出てくるとは。正直に言えば、予想していなかった。やはり、あの迷宮は何かが違うということだろうか?


「だが、これでカザネが聞いた情報が確かなら、後は迷宮にボスを残すのみのはずだ。落ち着いたら、皆で行くとしよう」

「……違う気がします」

「どういうことだ?」

「風が、変わりました。酷く嫌な風が漂っています。それは、一つの所に留まっていません。ただ、楽しんでいる。己の力を」

「ボスが、迷宮を離れて行動しているっていうのか?」

「いえ、ボスではありません。この感覚、どちらかと言えば迷宮そのもの」

「迷宮そのもの?」

「アルティ、その時が近づいている気がします」

「準備はできていますよ、カザネさん。ね、マスター」

「あ、ああ。一応は、ある程度まで魔力吸収が出来るようになっているぞ。大丈夫なはずだ」

「では、カザネさん。そろそろ考えますか」

「ああ、そうだな」

「うん、なにをだ?」


 そういう俺に対して、カザネとアルティが目を輝かせて言う。


「何ってマスター」

「新しい変身と言えば」

「「変身時の決めポーズですよ!!」」

「……」


 ミルク達は、何をいきなりいいだしているんだという、訳がわからないと言った顔をしていた(フィーだけは、優しい笑顔で見守ってくれている)。俺は、その2人の言葉を聞いて、あっ、すごい大事なやつじゃんと思い、深く深く2回ぐらい頷いた。




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