身体能力
オーギを追って、ライオルは空中を飛行している。だが、サイフェルムに向かうその途中でピタッと止まった。ライオルの目の前を、いつの間にか魔物が飛んでいる。その魔物は、腕組みをしてライオルを見つめていた。
「悪いが、ここで止まってもらおう」
「どこから出てきた?」
「どこからだと?飛んで来たに決まっている。お前が、見えなかっただけだ」
それは、まるで竜のような鳥人間だった。くちばしは硬い装甲で覆われており、首の周りは黒い毛に包まれている。羽は羽先が黒、大部分は白と茶色がかった色で構成された羽に包まれていた。その特徴は、始祖鳥と言われた生物に告示している。
「我が名はウインガルが一鳥・始祖のアーケオ。我が同胞の勝負の、無粋な邪魔はやめてもらえるかな、人間」
「それは、出来ない相談だな」
「話が早くてよろしい。では、我をねじ伏せてから進み給え。勿論、我を視認できなかったお前が、それが出来たらの話だが」
「吠えるな、アーケオ。その減らず口、いつまで喋れるかな?」
「勿論、君が倒れるか、我が同胞の決着が着くまでさ」
ライオルは、体中に気と魔力を走らせる。そして、アーケオに向かって剣を突きつけた。
「試してやるぜ」
「この身体でいるのも、これがどっちにしろ最後だからな。お前の言葉通り、存分に試させてもらうさ。アーケオでいられる、今の自分を!!」
アーケオの姿が、ブレて消える。だがその動きを見切り、ライオルはアーケオの蹴りを剣でガードした。
「ふむ、弱くはないようだな」
「遅すぎて、あくびが出るぜ」
「なるほど。では、望みどおりに上げていくとしよう。我のスピードを」
聖と風の魔力が、空中で激突する。ライオルは、アーケオの望みどおり、その場からサイフェルムに向かうことが出来なくなっていた。
*****
「薄っぺらな壁だ」
オーギは、サイフェルムに張られている結界を見て、そう呟いた。そして、結界に向かって拳を構える。
「ふんっ!!!!」
オーギが拳を突き放つと、サイフェルムに張られていた魔力の結界が音をたてて崩壊した。その崩れ目から、オーギは悠々とサイフェルムの中央広場へと移動して降りていく。
「きゃあああああ!!!!」
「魔物だぁああ!!!!」
広場にいた住民たちが、オーギの出現に慌てて逃げていく。だが、オーギはそれを追わずに、ただ腕を組んで広場中央に佇んでいた。
「いるのは分かっている。我は、小物共になど興味がない。だが、お前が出てこないというのであれば話は別だ。残らず殺し尽くすぞ。さぁ、出てこい。我が同胞を葬った強者よ!!」
一つの建物の上で、強大な風の魔力が渦を巻く。そして、その中から一人の戦士が出現した。
「非道なる鳥人間よ。穏やかに暮らす人々の、平和を踏みにじる悪鳥よ。お前を恐れ、逃げ惑う人の声をが聞こえないのか。この声を聞いて、何も思わないのか?風の音を聞け。この風の音を。そして、己の過ちに気づけ」
「過ちだと?そんなものはない。強者と戦うことこそが我が喜び!!そこに、一片の過ちもない!!さぁ、始めよう。命をかけた戦いを!!」
「欲望を満たすためなら、手段を選ばぬか。ならば、今日ここでお前を止めよう。この私がな」
「ハハハ、待ちに待ったぞ、黒い戦士よ!!我が名は、ウインガル四翼の一羽・豪風のオーギ!!全ての同胞より優れたるこの肉体こそが、この我の武器だ!!さぁ、四羽の我が同胞を倒したその力、我に見せてみろ!!」
オーギが、カザネの乗っている建物の屋根へと向かって、正拳突きを放つ。カザネは、素早く飛んでその攻撃を躱したが、建物の屋根は跡形もなく吹き飛んでいた。
「くっ!!」
「遅いぞ!!」
「なっ!!」
空中に飛んだカザネに、直ぐ様オーギが飛び上がって一瞬で距離を詰める。そして、カザネに向かって拳を放った。わずか一瞬反応が遅れたカザネは、その拳を避けきれない。腕でガードしたが。ものすごい衝撃を身体に受けて、カザネは町の建物の中へと撃ち飛ばされた!!
「ぐぁああ!!!!」
何件もの建物に激突しながらも、風魔法で身体をガードしてカザネは激突の衝撃を防ぐ。そして、その飛ばされているさなかにも体を捻り、内部に伝わったオーギの攻撃の衝撃をカザネはいなしていた。
「ふっ!!」
カザネは、空中である程度衝撃を減らすと、脚を地面に突き立てて着地する。そして、脚に風の魔力を纏わせると、オーギ目掛けて突っ込んでいった!!
「流石だな、あれで倒れぬとわ。面白い!!」
「はぁああ!!!!」
オーギが、またカザネ目掛けて拳を放つ。だが、その拳をカザネは、オーギの目の前で回避した。
「なに!?」
「遅いぞ!!」
今度は、カザネの蹴りがオーギの腹に突き刺さる。だが、オーギは吹き飛ぶどころか、びくともしない。ニヤリとオーギは笑うと、カザネ目掛けて連続の正拳突きを放ってきた。それを、カザネは全て回避する。
「軽い!!攻撃が軽すぎるぞ!!そんなものでは、我にダメージすら与えられんわ!!」
「ちい!!」
オーギの突きのスピードが、どんどん早くなっていく。そして、遂にカザネのスピードに追いついた。
「遅いのは、お前の方のようだな」
「なんだと」
カザネは、自分に完全に当たるオーギの拳の軌道が見えている。カザネは、その拳に合わせて風魔法を纏わせた蹴りを打ち込んだ。2つの風の力が、空中でぶつかり合い強風を巻き起こす。だが、数秒するとカザネがその場から弾かれた。
「圧倒的に、我に劣っているな、黒い戦士よ。力、速さ、体力。どちらも我が上のようだ。さぁ、どうする強者よ?」
休む間もなく、オーギがカザネとの距離を詰めて攻撃する。今度は蹴りも交えて、カザネに対して空中での格闘戦を挑んでいった。カザネは、ギリギリのところでこの攻撃を回避し続け、たまにオーギを殴っている。だが、それが全く効いている気がしない。
「おらっ!!」
「くっ」
オーギの拳が、カザネの肩に当たった。カザネの鎧に衝撃が走り、ヒビが入る。攻撃が当たり、体勢を崩したカザネに対しオーギは追い打ちをかけようとしたが、自分の周りにあるものが出来ていることに気がついた。
「ソニック・ミラージュキック」
それは、風の魔力で出来た魔法陣だった。先程攻撃するのと同時に、カザネは魔力を振りまき、魔法陣を完成させていたのだ。魔法陣から、カザネの鎧の体格に似た人影が出現する。そして、その七体がオーギに対して、高速の飛び蹴りを放った!!
「面白いぞ!!」
オーギは、全ての幻影の攻撃を腕で防いでいく。そして、七体すべての攻撃を完全に受け切り、それでもなお悠然として笑っていた。
「これを受けても、笑っていられるか!!」
体勢を立て直し、脚に風の魔力を漲らせたカザネが、最後の蹴りをオーギ目掛けて放つ!!その蹴りに、オーギは自身の拳に風の魔力を纏わせて、撃ち放ち応戦した!!
「はああああああ!!!!」
「うおおおおおお!!!!」
圧倒的な衝撃が、空中をとおして地上に伝わっていく。2つの技がぶつかり合うことで、空中の空間が一瞬歪み、地上に衝撃波が届いた。2つの技が拮抗し、ぶつかり合っている。だが、その中でオーギは、更に拳に力を込めた。
「うおわあああああああ!!!!」
カザネが、その力に耐え切れず吹き飛ばされる。衝撃で、鎧の全体にヒビが広がっていった。
「ふはは、楽しい。楽しいぞ!!」
「……」
カザネは空中で体勢を立て直すと、笑うオーギに向かって、静かに拳を構え直した。