豪風
時が過ぎ、一夜が明ける。多くの住民がいつものように朝ごはんを食べ、いつもどおりの朝を過ごした。ベイ達も、それは同様である。一日、敵の襲撃もなく、穏やかに平和に彼等は朝を迎えた。
「へっくしゅ!!しかし、こう強風が吹いている所にいると冷えるね」
「全くだ。火をつけても、すぐに消えちまうしな。しんどいぜ、こりゃあ」
「俺は、なんともないが」
「何時まで、ここにいれば良いんでしょうかね?」
だが、敵の本拠地に泊まり込んでいたシア達は違っていた。さきの取り逃がした魔物を追うべく、二手に別れようとした一行だったが。すぐにその魔物をカザネが倒してしまったがために、再びその場で野営することになった。今も、いつでも戦闘を出来る体勢を取りながら、朝ごはんのパンを片手間に食べている。ライアが、風の冷たさに若干身体を震わせ、火魔法を自分の近くに出して温まり始めた。その時だった。
「?」
「なんだ……」
風の壁の中を、なにか黒い物体が近づいてきているのが見えた。それは、まるで歩いている人間のようなシルエットをしており。ライア達に、ゆっくりと近づいてきている。ライア達は、すぐに武器を構えて戦闘態勢をとった。だが、ライア達に殺気を向けられてなお、その影は何もないかのように悠然と歩んでる。そして、その影が風の壁を抜けた。
「人間か。強者はいるようだが、お目当ての相手ではなさそうだな」
そいつは鳥人間だった。鋭い目つきに白い体毛。羽は黒い毛で覆われており。その大きさは、この場で一番大きなガンドロスよりも屈強で、さらに巨大であった。その出で立ちは、オウギワシと言われている鳥に近い。その屈強な肉体は、鳥本来のものからかけ離れており、まさに怪物という出で立ちであった。
「やっと出てきやがったか!!」
「準備運動くらいにはなるか」
ガンドロスが、気を纏ってオーギに斬りかかる。ジャンプして、上段からオーギ目掛けて剣を全力で振り抜いた!!
「おりゃあああああ!!!!」
「ふっ」
オーギが、軽く息を吐くとガンドロスの剣をその手で掴む。そして、その斬撃と衝撃を完全に止めた。
「ああ?」
「良い重さの攻撃だな。だが、軽い」
オーギは、そのまま振りかぶると、掴んだ剣ごとガンドロスを投げ捨てた。
「ぐおっ!!」
重量級のガンドロスを、軽々とオーギは投げ捨てる。ガンドロスは、空中で体を捻って衝撃を受け流し地面に着地すると、オーギに向かって警戒するように剣を構えた。
「それだけか」
「なっ!!」
瞬時に、オーギがガンドロスの前へと移動する。その動きが、あまりにも早すぎたために、ガンドロスは反応が遅れた。だが、ガードするべく剣を即座に構え直す。オーギの拳が、ガンドロスの剣に当たろうとした。
「おい」
「……」
その瞬間、ジーンがオーギを攻撃する。ジーンが、音もなく移動しガンドロスだけに意識を向けていたオーギの羽を切り裂いた。だが、その羽根には、傷一つついてはいない。まるで、羽ではないかのように、その羽根はジーンの剣をそのまま弾き返した。
「なっ!!」
「見事な動きだ。だが、攻撃が鈍いな」
オーギが、空中に剣を弾かれて浮いたままになっている状態のジーン目掛けて、裏拳を放つ。ジーンは2本の剣でガードしたが、為す術無く吹き飛ばされた。周辺の木々に当たり、その木々を数本砕いたところでやっとジーンは止まる。そして、そのまま血を吐き、力なくその場に倒れた。
「ジーンさん!!」
「風炎魔神!!」
ライアが、火の魔力と風の魔力で出来た魔神を出現させる。その魔神が、オーギに向かって拳を振るった。その体格差は、一見するとオーギが簡単に潰されそうな体格差であったが。
「ふん」
オーギは、魔神の攻撃を、あっさりとその片腕で止めてみせた。
「瞬爪!!」
ライアの叫びとともに、魔神の拳から風の刃がオーギ目掛けて襲いかかる。風の刃が確実にオーギを捉え、辺りの土を大量にえぐり、舞い上げてその威力が強大であることを示した。だが、その中でオーギは無傷のまま佇んでいた。
「そんなバカな!!」
「魔法使いか。小賢しいが、大した威力だ。だが、この程度の風魔法では、我が肉体に傷一つつけられぬ」
オーギが、腕に力を込めると魔神の拳を押し返した。
「だったら、炎刃だ!!」
「ふん!!」
オーギは魔神を押し返すと、即座に拳を構え直し、再度魔神目掛けて拳を撃ち放つ。その攻撃に、ライアは合わせる形で、魔神の拳から炎の刃を放った!! オーギの正拳突きの衝撃と、炎の刃が空中でぶつかる。互いの攻撃が空中で相殺し合ったが、その後すぐにオーギが二発目の正拳突きを撃ち放ち、魔神を粉砕した。あっさりと消滅した魔神を見て、ライアは驚愕の表情を浮かべる。
「はぁああ?何よそれ!!でたらめな威力すぎるでしょ!!」
「これで終わりか?」
オーギが、ライアとシア目掛けて拳を構える。その間に、ガンドロスが割って入って剣を構えたが、それとは別の角度から光の塊がオーギ目掛けて飛んできた。
「ぬっ!!」
その光の塊は、オーギの羽を斬りつける。羽でガードしたオーギだったが、その羽が切られていた。だが、切られた羽は、わずか一枚にすぎない。けれども、オーギは苦悶の表情を浮かべた。
「この状態の我に、傷をつけるとは……」
「……」
光の塊は答えない。ただ、無言で剣を構えてオーギを見ていた。
「ふふっ、胸躍る相手のようだが、今日は先約があるのでな。お前とは今度にしよう」
オーギの周りを、風の魔力が渦巻いていく。その魔力にオーギが包まれると、オーギはその場から消えた。
「……転移、ではなさそうだが。単に猛スピードで移動しただけか。追わねばならんだろうな」
光の塊は、そのまま天へと登ると、サイフェルムの方向へと飛んでいく。その動きを、ライア達は目で追って固まっていた。
「あっ、こんなことしてる場合じゃない。ジーンの治療を!!」
「もう、救護班がやってくれています。後は任せましたよ、おじ様。サイフェルムに連絡を!!」
オーギは、シアとライオルの予想通り、サイフェルムへと向かっていた。そのサイフェルムへと接近するオーギの風の音を、カザネは自宅の庭で聞き取り、静かに立ち上がった。