残る不安
「ハハハ、そんななりで、何時までもち堪えられるかな!!」
ヒヨーが、そういい放つと更に音を大きくして発する。だが、その中でカザネは、微動だにせずに構えていた。
「?」
おかしいとヒヨーは思った。この力を試した時、他の生物はこの音の大きさに耐えきれず、体中が振動し、ありとあらゆる穴から血しぶきを上げて絶命した。だが、カザネはそんな音の中でもピクリとも動いていない。なにかおかしいとは思いながらも、ヒヨーは威力が足りないのだろうかと、音の大きさを強めていった。
「……どうした。それだけか?」
「ば、馬鹿な!!何故だ、何故平気でいられるんだ!!」
「理由はこれだ」
カザネは、自身の鎧を指差した。ヒヨーが鎧に注目するが、ヒビが入っている以外におかしなところは特に無い。
「この鎧はな、今音を出している。鎧事態を拡声器に見立てて振動させてな」
「振動だと?止まっているではないか!!」
「そうだ。お前の出した音と、鎧が振動して出している音が相殺しあって音の振動を消している。その反応のせいで鎧にヒビが入ったが、まぁどうということもあるまい。音は音で相殺できる。風魔法は、音を作り出すことも出来るのさ。風魔法が得意な私に、お前の能力は相性が悪かったな」
「馬鹿な、私の能力が効いていないというのか。この、強まった私だけの力が!!」
そう言っているヒヨーに、カザネは一瞬のうちに近づいた。そして、ヒヨーの喉を腕で握る。
「なっ!!」
「そして、お前は喉を使っている。音をだすやつの弱点は、その音を出す部分だ。どんなに強固になっていても、その部位には限界がある。だから、今最大値で音を鳴らしているお前の喉に、私が出している音の振動を加えて増幅すると……」
カザネの腕が、振動してヒヨーの喉に音を流し込んでいく。周囲の音が少しだけでかくなり、そして。
「……ぐはっ!!」
ヒヨーが、大量の赤い血を吐いた。
「このように、破壊することが出来る。お前の音は、もう封じた」
「わ、わだしの、私の喉がぁぁ!!」
血を吐きながら、辛そうにヒヨーは喋っている。そのヒヨーに、カザネは改めて構えた。
「さぁ、次は私の特性に、お前が苦しむ番だ」
「お前の、特性だと……」
「ああ、それは……。速さだ!!アクセル!!」
カザネの足が、緑色の魔力に包まれる。空中を、猛スピードでカザネは疾走し。まるで魔法陣のような緑色の光の線を、ヒヨーの周りに描き出した。
「な、なんだこの速さは!!これは、あいつと同じ!!」
「トドメだ」
カザネの描き出した魔法陣の周りから、カザネの鎧に似たような形の人影が出現する。そいつらは、魔法陣中央のヒヨーに向かって身構えると、順々にヒヨーに向かって高速の飛び蹴りを放ち始めた。
「お、ごっ!!ぐっ、がはっ!!」
7回にも及ぶ、風魔法の人影の蹴りがヒヨーに激突する。そして最後に、ヒヨーの後ろで身構えていたカザネが、高速の飛び蹴りをヒヨー目掛けて放った!!
「ソニック・ミラージュキック!!」
「がはぁぁああああ!!!!」
カザネは、ヒヨーの腹を蹴破って、空中で回転して勢いを殺して止まる。そして、指をパチンと鳴らした。
「お前、遅すぎたな……」
「くっ、私を倒しても、お前を待つのは地獄だ……。あの2羽の前では……。がはあああああああ!!!!」
最後に雄叫びを上げると同時に、ヒヨーはその場で爆発した。風属性の魔力が一瞬飛び散って固まり、また何処かへと飛んでいく。
「2羽。……あと2羽、ということだろうか」
ヒヨーの言葉の意味を考えながら、カザネは明後日の方向に向かって飛び立つと。適当な地面に着地し、転移魔法で我が家へと帰った。
「おかえり、カザネ。何とかなったな」
「はい。主人に色々と、話しを聞いていたおかげです」
「話しておくもんだな。特撮の知識」
ベイは、カザネに時々乞われて、昔得た知識の話をすることがある。その知識を参考に、カザネはいろいろな特性の相手と渡り合うべく、これまで力をつけてきていた。それが、今日この場で生かされたのだ。
「しかし、王国の魔法使いが途中から防御に参加してくれたみたいだったから、音の被害で傷ついている人はいなさそうだけれども」
「けども?」
「街中の、ガラスは全滅だろうな」
「ああ……」
カザネは、割れてしまっているアルフェルト家の窓ガラスを見ながら、納得したようにそう呟いた。
「でも、うちには関係のないことでしょう?」
「そうだな。ミルク」
「はいはい、ぱぱっと直しますからね、ご主人様」
ミルクの魔法によって、割れていたアルフェルト家の窓ガラスは、一瞬で元に戻っていった。その様子を見ながら、カザネはこの程度の被害で済んだことにホッとする。だが、ヒヨーが最後に発した言葉に、少なからず不安をカザネは覚えるのだった。
*****
「さぁ、楽しくなってきたぞ!!」
「……」
「どうしたんだ?私か君。どちらかがウインガルになれるんだぞ。本当の、集めた魔力の順位の高いだけの今の私とは違う。本当のウインガルにだ!!」
「ああ、そうだな」
「わくわくしないのか。見果てぬ力を、この手にできるんだぞ!!」
「……俺は、強いやつと戦えればそれでいい」
そう言うと、寡黙な鳥人間は外に出ていこうとする。
「待て、私が行っても良いんだぞ。なにも君が行くことは」
「……俺の獲物だ。悪いが、邪魔をしないでもらおう」
「……そうか。健闘を祈る」
「……ああ」
その言葉に、寡黙な鳥人間は、特に何も感じはしなかった。ただ、ホロウズ・キージス・ズッグーロ・ヒヨー。これらを倒した相手が、自分を待っている。そう思うと、寡黙な鳥人間は、思わず顔がニヤけるのを抑えられなかった。
「待っていろ強者よ。このオーギが、貴様の息の根を止めてやるぞ!!」
寡黙な鳥人間が、迷宮内に生えた巨大な樹木に向かって拳を突き放つ!! その一撃で、ビルほどもあるような巨大な木が、その中腹部をあっさりと粉砕された。