猿姫
「ひにゃぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁ❤❤❤❤!!!!」
彼女を襲った衝撃は、完全に予想外の方向の感覚だっただろう。金色の光りに包まれた彼女の身体は、一瞬で細かい痙攣を引き起こし顔が赤くなり表情はとろけ足は内股になり全身に力が入らない状態になった。だが彼女は、光が収まった後、持っていた棒で足を震わせながらもなんとか身体を支えている。
「(な、なんと!!!!)」
「へ、へへ、た、耐えた……。これで、あたしの……、か、ち……」
そう言い終えると、ゆっくりと前のめりに彼女は倒れた。俺は、倒れた彼女を受け止める。う~ん、起きる気配がない。
「(ふむ、あそこまで耐えるとは……。敵ながらあっぱれですね。ですが、ご主人様の勝利です!!)」
ミルクの勝利宣言で皆が拍手をくれた。……これでいいんだろうか。とりあえず、彼女が気づくまで俺が抱きかかえておいた方が良いという話になった。俺は、寝かせようとしたのだが。
「(石の上に寝かせるわけには、いかないですからね。しかも、起きた時にご主人様を見れば……。ふふふ……)」
という、ミルクの黒い笑みを含んだ発言があった為そうすることにした。皆も何故か頷いていたので、そうすることにしよう。なぜかは分からんが。
「むぅ~、あんなの耐えられるかしら。いえ、ベイの全てを受け止める、それが私の覚悟よ!!」
アリーは、一人で熱くなっていた。ありがとう? で、いいんだろうか。そのまま5分後、赤い彼女は目を覚ました。
「ハッ!!……ふええっ!!!!」
起きると俺の顔を見て一瞬止まり慌てて俺から飛び退いた。う~ん、さっきより顔が赤いなぁ。
「(お、気が付きましたかね……)」
彼女は、周りを見渡してまた俺の顔を見て俯いてぷるぷる震えている。いや、なんというか、申し訳ない。
「む。む、む、む、無効!!これは、無効!!!!」
「(おやおや、負けを認めないなんて。見苦しいですよ)」
「ち、違う!!だってこれ、攻撃じゃ無いじゃない!!!!」
確かに、彼女の言う通りだ。これは回復魔法だ。ダメージを与えるためのものじゃない。言ってくれてありがとう。
「(貴方も分かっているでしょう?貴方は、気絶してたんです。その間にとどめを刺されれば、どうしたって貴方の負けでしょう?気絶した時点で勝負はついているんです)」
「むむっ……。ち、違う!!実際にあたしは、ピンピンしてるし!!こんなので納得出来る訳がない!!!!」
「(むぅ。では、もう一度やってみますか?貴方がまた気絶して無事でいられるかどうか?)」
「ひやぃぃぃいいいいい!!」
変な声を出して彼女は、俺から距離を取った。……なんか、本当に申し訳ない。
「な、無し!!これは無しよ!!あんなの反則よ!!戦いに関係ないわ!!」
「(往生際が悪いですね。ご主人様、もう1発回復魔法を……)」
「ま、待って、待ちなさい!!無し!!無しで戦ってくれないと絶対にあたしは、仲間にならないから!!!!」
「(むむぅ……)」
ちらっとミルクは、俺とレムを見る。まぁ、そうなったらそれしかないよな。
「(分かりました。では、無しでやりましょう。ご主人様)」
「ああ。フィー、レム、ミルク頼む。ミズキは、アリーを頼む」
「はい、マスター!!」
「む、承知いたしました。ですが、何をなさるおつもりで?」
「まぁ、見てるといい。ミズキもいずれ、主とすることだ……」
「(む、その言い方なんかエロいですね)」
最後のミルクの発言は、ほっておこう。とりあえずフィー、レム、ミルクの召喚を解除する。すると即座にレムが一体化を開始した。レムの鎧が俺を包んでいく。ミルクの力を取り込みガントレットがより強く、フィーの力を取り込み胸のアーマーがより強くなっていく。背中に噴射口が形成され、全体的に少し大きめにパワーアップした。フルフェイスの頭は、角が付きそれらのパーツに合わせて周りの鎧も変化して全体的により凶悪なデザインに変化していく。
「こ、こんな力が!!」
「ベイ。これ、なんて強大な……」
「う、嘘おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
赤い彼女が驚くのも無理は無い。今の俺なら、充分彼女に勝てる力があるだろう。一歩進んだだけで周りに強風が巻き起こる。3人の力を加えて変形した剣と盾を出し、彼女に向かって構えた。
「じゃあ、やろうか」
「いやいやいや、これもおかしいでしょ!!なんというか、1対1では無いというか……」
「これは、私達がご主人様の武器になっているだけですからね。別に問題無いのでは?」
「いやいや、明らかに放たれてる力が違うんだけど!!完全に別人なんだけど!!」
「いやいや、これがご主人様本来の力ですから。本当なら、そこにいるミズキもいる分まだ全力じゃないんですよ?」
「えっ!!で、でも、やっぱりおかしいよ!!!!無し!!これも無し!!!!」
「やれやれ、アレも無し、これも無し。戦う気があるんですか?」
「う、うぬぬ……。わ、分かったわ。じゃあ待ってあげる!!1人で、ちゃんと戦えるようになるまで!!……い、いつでもいいわ。そ、それまで勝負はお預けってことで!!」
彼女は、後ろに飛んで下がってしまう。
「いや、そんなこと言われましても……」
「と、とにかく、そう言うことだから!!じ、じゃあ、また!!」
そのまま彼女は、飛んで行って火山に逃げてしまった。
「どうしますご主人様?追って捕まえますか?」
「いや、相手の機嫌を損ねたら契約出来ない。今回は、諦めよう」
俺達は、一体化を解除した。う~ん、強すぎるのも考えものか。
「(しかし、どうしますかねぇ……)」
「俺が強くなるしか無いだろうな」
しかし、彼女に勝てるほど強くなるって、どれだけ時間がかかるんだ。すぐには、無理そうだな。
「じゃあベイ、私の技を教えましょうか?聖魔級回復魔法がある貴方なら、彼女に勝てるかもしれない」
「えっ、本当アリー?」
「ええ、まぁ。でも、難しいけどね」
どこに聖魔級回復魔法が必要な要素があるんだろうか? とりあえず、一旦荷物を置きに家に帰ることにした。
*****
「もう、なにあいつ!!なにあいつ!!」
火山に帰ってきてから彼女はうろたえ続けていた。顔を真っ赤に染めて腕で顔を抱えている。
「そ、そんな、確かにあたしが受けるとは言ったけど。あ、あんな、あんな……」
思い出しただけでも赤面する。一瞬、何が起こったのか分からなかった。そして、次に目覚めるとあいつの顔が……。
「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!違う!!違う!!違う!!あいつのことなんてなんとも思ってない!!!!思ってない!!!!」
腕をわたわたさせて記憶を振り払う。それにしても変な奴だったと彼女は思った。周りのやつに、ご主人様とか呼ばれていて。
「あ、あたしは、ご、ご主人様とか呼ぶ柄じゃないよね……。よ、呼ぶなら、だ、ダーリン、とか……。ああああああああああああああああああああああああああ!!!!ち、違う!!違う!!!!そんな意味じゃないから!!!!そんなこと思ってないからああああ!!!!」
顔を腕で隠して地面を転げまわる。その後、数時間彼女は転げまわっていた。