おはようございます
「ベイー!!起きたわよー!!起きた!!」
「うん、母さん?」
「起きた?……まさか!!」
「ニーナか!!」
俺とカザネは、ニーナの元へと駆けて行く。家に入り、ニーナを寝かせていた部屋に入ると。窓の外を眺めながら、涙を流しているニーナが目に入った。
「ニーナ!!」
「……あ、ベイ君」
「大丈夫か?何処か、痛いのか?」
「えっ、……あっ、違うの。ちょっと、誰かに呼ばれた気がして」
そういいながら、ニーナは涙を手で拭う。そして、ベッドから起き上がり、立とうとした。だが、突如としてニーナはバランスを崩してしまう。それを、俺は抱きとめた。
「大丈夫か?」
「う、うん。ちょっと、身体が寝ぼけてるのかな」
「……そうか。良かった。良かった」
「ベイ君、ありがとう……。私、なんとなくだけど覚えてるよ。ベイ君が、助けてくれたんだよね?」
「俺だけじゃない、皆が、ニーナを救ったんだ」
「うん、ありがとうベイ君、カザネさん。……後で、アリーさん達にも言わなきゃ」
「ああ、皆喜ぶよ」
「うん」
ニーナは、力を抜くように俺に抱きついて目を閉じている。まるで、噛みしめるかのように俺の胸に顔を預けていた。
「私、生きてるんだね」
「ああ」
「病気、とかじゃなくて、多分魔法だよね。私が、こうなってしまったの」
「……ああ」
「ベイ君、ありがとう……」
何故だろう。ニーナには、前の時の記憶はないはずだ。だが、まるで記憶があるかのようだ。ニーナは、力を入れて更に俺に抱きついている。俺は、ニーナを撫でながら彼女の心が落ち着くのを待った。
「ニーナが、起きたって!!」
「ひゃっ!!アリーさん!!」
ニーナが、勢い良く俺から飛び退く。そして、アリーが部屋に入ってきて、ニーナを観察し始めた。
「うん、問題ないわね」
「は、はい!!」
「良かった、良かった!!」
「は、はい!!」
アリーが、ニーナを抱きしめている。やっと、救えたんだもんな。良かった、良かった。
「よし、ご飯よ!!快気祝いよ!!」
「やりますか、アリーさん!!」
「やるわよ、ミルク!!ヒイラ、サラサ!!」
「うん!!」
「力が、戻るものを作るか」
そう言って、アリー達がニーナを引っ張って台所に移動していく。ニーナも困惑していたが、嬉しそうだ。良かった、本当に良かった。
「ははは……」
「……」
「……どうした、シデン?」
「ご主人様、あれ」
「うん?」
窓の外に、一瞬だが紫色の稲妻の様なものが見えた。なんだ、晴れているのに稲妻だと? 魔法か?
「敵、かな?」
「いえ、あれは悪いものではありません」
「そ、そうか?」
「はい、行きましょう。ご主人様」
「お、おう」
なんだろう、身体が急に冷えてきた気がする。俺は、一回部屋の中を振り返ると、台所に移動することにした。
「じゃんじゃん、作るわよ!!」
「「「おおー!!」」」
凄い鍋さばきで、嫁達が料理を作っていく。サラサが、全力で包丁を振るっているので、あっという間に食材の準備ができ。それを、アリーとヒイラが、調理器具にぶち込んで料理していた。まるで、客が多い飲食店の修羅場みたいだ。
「カヤ、火力アップ!!」
「がってん!!」
調理の火が、強くなっていく。それでも、全く焦がすことなく、アリー達は瞬時に料理を作っていった。
「おし、これで完成だー!!」
朝とは思えないほどの、豪華料理がテーブルに運ばれていく。ニーナが俺の横に座らされ、目の前の料理を見て目を輝かせていた。
「よし、ニーナ快気祝いよ!!頂きましょう!!」
「「「「「「「いただきまーす!!」」」」」」」
「いただきます……」
ニーナが、次々に美味しそうに料理を食べている。その顔を見て、皆、微笑んでいた。皆優しいなぁ。そう思いながら、俺も朝から食べきれるか心配な量の料理に、口をつけることにした。
「うちは安泰だな、母さん!!」
「そうねあなた!!」
うちの両親は、二重の意味で喜んでいるようだった。めっちゃ食べてる。
*****
「さて、食べ終わってすぐだけど。解説講座を開こうと思います」
「おおー」
「待ってました!!」
カヤとミルクが、声をかけて盛り上げる。食べすぎて動けなくなった両親を、俺は居間に移動させて、椅子に座り直した。
「さて、今日の議題はこの石です」
「創世級を、召喚しようとした魔法使いが、使っていた石だね」
「その通り。で、これなんだけど。これを解説するには、まず、別のことを話さなければ駄目でしょうね」
そう言って、アリーは大陸の地図を広げる。
「この世界。まぁ、国によって呼び方が統一されていないからこの世界と言うけど。この世界には実は、とんでもないものを封印するための魔法陣が、未だに全ての大陸に設置されています」
「全ての大陸に」
「魔法陣?」
「ええ。それも、ただの魔法陣じゃない。国に出生登録をしたものたち、空気中、土の中。あらゆる場所から微妙に魔力を集めて、とある魔法を行使するために、その魔法陣は今も稼働しているわ」
「その、魔法陣って?」
「それは……」
アリーは大陸地図の中央。その部分に指をさす。
「ここ、創世級迷宮の維持をしている魔法陣なのよ」
「創世級迷宮の維持を……」
「魔法陣で!!」
「そう。創世級迷宮は、人間が作った檻。この大陸だけでなく、この星そのものの周りにも張り巡らされた、巨大な魔法陣から魔力を供給して出来ている」
「まじか」
「まじよ」
アリーは、大陸地図の中央に例の石を置く。
「で、これなんだけど。その魔法陣から魔力を、ちょっと拝借することが出来る。いわば、小さな魔力転送装置みたいなものなのよね。でも、その威力が強大なのは、皆見たわね」
「う、うん」
「このサイズであれって、実際にはどれ程の魔力を集めて?」
「分からないわ。でも、創世級全てを閉じ込めておけるだけと考えると、その莫大な量が容易に想像できるでしょう」
「そうだな」
「ということは、それがあれば魔法を撃ち放題?」
「これを使って、並の魔法を撃ってご覧なさい。自分ごと巻き込んで、爆発するわよ」
「やめときます!!」
ロデが、立ち上がっていたが椅子に座り直した。
「要は扱いが難しい、激やばい石なのよ。ちなみに、普通に壊しただけでも、石に残っている魔力が爆発する」
「最悪じゃん」
「という訳で、保管するしか今はないわけ」
そう言って、アリーが石をしまう。なんで、そんなものがあるんだろう?