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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第三章・一部 幻音神鳥 カザネ編
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一夜明けて

 その後、俺とミズキは空中に散らばった毒を一生懸命に浄化した。多分、もう何処にもないだろう。あまりに頑張りすぎて、街の周りが光りまくっていたが、まぁそれは仕方ない。そして、俺達は寝直すべく布団に潜り直した。


「……ふぁぁああ。おはよう……、って、皆まだ寝てるか」


 いつもの時間に早起きしてしまった俺は、辺りを見回すが誰も起きていない。皆、気持ちよさそうに寝息をたてている。そんな中、少し身体でも動かそうと俺は外に出ることにした。


「うーん、いい空気だ。毒なんて使ってくるやつがいたから、今朝はただの空気がありがたく感じるなぁ。普通が一番だ」


 そう言いながら、俺は身体を軽く動かす。数回手足をぶらぶらと動かすと、背筋を伸ばして目を閉じた。


「昨日は、起き抜けだけど上手く出来てたしな。忘れないうちに……」


 俺の体の周りに、魔力が集まってきて発光する。そして、俺の身体の中に徐々に吸い込まれていった。うん、出来るじゃないか。後は、もっとスムーズに出来るようにするだけだな。そう思い、俺は魔力を吸収しながら剣を素振りすることにした。


「お早いですね、主人」

「おお、カザネか。おはよう」

「はい、おはようございます」


 剣を振っている俺の横に、カザネがやってきた。カザネは、ニコニコしながら剣を振って発光している俺を見ている。……もしかして、かなり変な感じに見えるんじゃないか、今の俺。剣を振りながら、身体が発光しているんだぞ。どう見てもおかしいだろ。だが、カザネの表情がそういう意味の笑顔ではないと表情で知ると、俺はホッとした。そして、発光するのをやめた。


「どうされました、主人?」

「いや、発光しながら素振りは、何かおかしいと思ってね。見た目的に」

「いえ、主人は格好いいですよ。気になさらなくて大丈夫です。気を使う、剣士のように見えます」

「ああ、なるほどね。それなら、恥ずかしくないかも……」

「勿論ですよ。主人は、格好いいです!!」

「あ、ありがとう……」


 今日は、やけにカザネが褒めてくるなぁ。嬉しいが照れる。格好いいとか、あまり言われないからな。


「……うん?」

「えっ?」

 

 何やら、紙切れのようなものが風に乗って空中をさまよっている。その紙切れが、まるで狙いすましたかのようにカザネの元へとやってきた。それを、カザネは手で掴む。


「これは、記事の一部でしょうか。発行日は、今日みたいですね。昨日の竜巻の爆発のことが書かれています。あんなに静かな夜だったのに、気づいている人は気づいているもんですね」

「いや、あれだけ派手に爆発が起きていれば、いくら国の外周とは言え皆起きるよ」

「ああ~、なるほど。そうですね」


 そう言いながら、カザネは紙を手放す。すると、また紙が風に乗ってまるで帰っていくかのように、来た方向に向かって飛んでいった。なんだ、風に意思でもあるかのようだ。


「しかし、これで2体目の人々の平和を脅かす敵を倒したのか。凄いぞカザネ。もう、立派な正義の味方だな」

「ありがとうございます、主人。でも、今回は私の力だけでは、完全に食い止められなかった敵でした」

「いいんだよ。そういう奴を、仲間と協力して倒すのもヒーローの良いところさ。出来ないこともあるが、曲がらない強さを持っている。ヒーローは、そうじゃないとな」

「……はい!!」

「カザネは、1人じゃない。俺達がついているんだ。神魔級魔物たちに、遅れを取ることなんて無いさ!!」


 その俺の言葉に、カザネは嬉しそうに頷いて微笑んだ。今、カザネは自分の夢を叶えている。己の実力に一喜一憂し、もっと高みを目指そうと羽ばたいている。まさに、それこそ俺が見てきたヒーロー達であり、その姿そのものだ。きっと、カザネももう立派なヒーローなのだろう。いや、ヒロインか。この嬉しそうに微笑んでいるカザネを見ていると、何だか俺も嬉しくなってくる。俺は、嬉しそうに微笑むカザネの頭をそっと撫でてあげた。すると、カザネはどんどんと顔を赤く染めていく。ああ~、可愛いなぁカザネ。可愛いなぁ。


「……あっ、そう言えば」

「うん、どうした?」

「敵が、ウインガルになるだのと。新たな何かになる、とも言っていたような気が……」

「……敵がか?まさか、進化なんてことは……」

「……無いとは思います。ですが、町で最初に戦った敵が、仲間が死んで力を得たと言っていました。連中を倒した後、その体を構成している魔力は、何処かへと消え去っていきます。ですので、もしかしたら……」

「敵を倒すほどに、仲間の力を取り込んで強くなるっていうのか?」

「恐らく」

「それは、今までにない敵だな」


 俺は、遠くの敵の本拠地であるだろう山の方をなんとなく眺めた。


「推測するに、最後に残った魔物がすべての力を引き継ぎ、迷宮の長になるということではないでしょうか。それが、迷宮の名前と同じ……」

「ウインガル」

「そういうことだと思います」

「つまり、ウインガルっていうのは、あの迷宮で一番強いやつの呼び名か」

「そうではないかと」

「つまり、最後のやつは相当強いってわけか」

「ええ。何体目になるかは知りませんが、恐らく一体化しなければならないほどの相手になるでしょう」

「新しい一体化を試すのに、丁度いい相手というわけか」

「……だと、良いのですが」


 後何体いるんだろうなと、俺とカザネは首を傾げた。まぁ、強さと言っても色々と特徴に幅があるからな。強化されても、変な強化だと楽勝で勝てる相手になるかもしれない。だが、最後に残るようなやつだ。そんな期待は出来ないだろう。


「風属性の魔力で、もっとも厄介な特性と言えば……」

「速さです。何者にも、捉えることの出来ない速さ……」

「……勝つぞ、カザネ」

「はい!!」


 そう考えると、最後の相手は恐らくそういう奴になるだろう。つまり、カザネの長所と同じものを長所に持つものが相手ということになる。カザネはその俺の推測を聞いて、決心するように、はいと応えた。


*****


 その日の朝、虚ろな目をして彼女は目覚めた。目が覚めると、何処かの家のベッドで彼女は寝ていた。寝ている間、彼女の頭に声のようなものが響いていた。それは、懐かしい声だった。今はもう、聞くことも出来ないそんな人の声だった。


「……あっ」


 彼女の頬を、涙が伝う。起きて、意識をしっかりと持つと、彼女の目に光が戻り朝だということが認識できた。でも、夢から醒めてなお、その声が自分を呼んでいるようなきがする。そう思えて、彼女には仕方なかった。


「おじいちゃん……」


 ニーナ・シュテルン。彼女は、遠くの故郷に向けて、そう呟いた。




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