緑の閃光
ズッグーロは最初の風魔法を放ち舞い上がると、風魔法をカザネ目掛けて撃ちながら、接近戦を避ける様に後退していく。その風魔法を相殺したり、高速で移動して躱しながらカザネがズッグーロに接近しようとするが、中々距離がつまらない。
「……何故だ、何故死なん。俺の毒風を受けて、微塵も動きが鈍らんなど、ありえるのか。すでに俺の毒は、この周囲全てにばら撒かれている。いくら避けようとしても、避けられるものではないはずだ」
「私には、毒など効かない!!」
そう言って、疑問を浮かべているズッグーロに、カザネは接近する。だが、その言葉を聞いた瞬間、ニヤリとズッグーロが笑った。
「そうか。ならば、純粋な風魔法での勝負になるか。分析するに俺よりも、貴様のほうが風魔法の扱いは得意なようだな。これは、辛い戦いになりそうだ……。クックックッ、本当に、毒が効かないのならな」
そう言いながら、ズッグーロはまたカザネに向かって風魔法を放った。それを相殺しようと、カザネが風魔法を放とうとする。が、何を思ったのかカザネは、寸前でズッグーロの風魔法を回避した。
「……」
「どうした、相殺すればよかっただろ?何故、避けたんだ。毒は効かないんだろ?」
カザネが、今のズッグーロの風魔法が着弾した地面をチラッと見ている。そこには、まるで焼けただれたかのように、地形を変化させていく地面が見えていた。土が溶け、腐食した草木が蒸発し、辺りに煙を漂わせている。それを見てから、カザネはズッグーロを睨みつけた。
「体内に入れば、相手を殺すのだけが毒ではない。このように、真の毒とは触れただけで相手を死に追いやるほどの強力な力を秘めているのだ。さぁ、避けずに受けてみろ黒き戦士よ。貴様が溶けるさまを、このズッグーロが見届けてやる!!」
そう言うと、またズッグーロは風魔法を放ってきた。連続でズッグーロが放って来る風魔法を、カザネは全て避けていく。
「ストームロッド!!」
ストームロッドを手に出現させると、カザネは、ズッグーロ目掛けてロッドを振り抜いた!! ロッドの先端についている丸い輪っかが外れ、高速で回転しながら風魔法を纏って、まるで手裏剣のようにズッグーロ目掛けて飛んでいく。その風の手裏剣に向かって、ズッグーロは毒の風を放った。
「フッ」
まるでカザネの技をあざ笑うかのように、ズッグーロは声を漏らす。風の手裏剣は、毒の風の前に溶けて消え去った。
(……ストームロッドが溶けるということは、私の鎧も、あの毒で溶けるということか)
カザネが、その光景を見たせいか一瞬慎重になり、動きを止める。それを見たズッグーロが、口を開けて笑いだした。
「フハハハハ!!どうした、為す術なしか?ならば死ね!!そして、俺の野望の礎となれ!!」
「どうかな……」
ズッグーロの耳に、背後から何かが近づいてくる音が聞こえてくる。振り向くと、風の手裏剣がもう一つ、ズッグーロ目掛けて飛んできていた。
「チッ!!」
既の所で毒風をズッグーロは、風の手裏剣目掛けて放つ。だが、全て溶けきる前に、風の手裏剣はズッグーロの羽を切り裂いた!!
「がああああぁぁぁぁ!!」
完全に切断されたわけではないが、ズッグーロの片羽の一部に、切り裂かれた傷が出来ている。その傷口から血が溢れ出し、羽をつたって地面に落ちた。血が落下した地面から、ジュワッ、という音とともに煙が上がる。その光景を、ズッグーロは唇を力強く噛み合わせながら見ていた。眉間にシワを寄せて。
「クッ、このクソ野郎がー!!!!よくも、俺の羽に傷を!!」
「……」
カザネは、無言で構える。その光景を見ながら、怒りに身を震わせていたズッグーロは、体全体から魔力を放ち始めた。
「消し去ってやる!!お前の、何もかもを!!!!」
ズッグーロを中心に、毒の風が渦を巻いていく。その風の竜巻は次第に大きくなり、カザネは危険を感じてズッグーロから距離を取るべく移動した。
「フハハハハ!!死ね、何もかも死ね!!この俺の、糧になれー!!!!」
「なんですか、あれは!!」
「ミルク、我々も下がるぞ」
「はいはい!!」
仲間たちが移動したのを見守った後、カザネは目の前の竜巻へと目線を戻す。巨大な毒の竜巻が、地面を溶かし、草木を薙ぎ払い、カザネに迫ってきていた。
「ハハハ、見ろよこの力を!!俺こそが、ウインガルにふさわしい!!俺こそが、新たな……」
強さを増す風の音で、ズッグーロの声さえもかき消されていく。その光景を、カザネは黙って見据えていた。
「カザネー!!勝てるんですかー!!」
「……」
ミルクが、カザネに向かって声を張り上げる。その声に、カザネはゆっくりと振り返ると、軽く頷いた。
「……アクセル」
カザネが、足に風魔法を纏う。風魔法によって、さらに移動速度を増したカザネは、その場から消えた。
「えっ、一体何処に?」
「よく見ろミルク、竜巻の周りを」
「あ、あんな所に!!」
ミルク達の目線の先。そこでカザネは、毒の竜巻の周りを、ぐるぐると周っていた。どんどんカザネは、回転するスピードを上げていく。緑色の風の魔力が、毒の竜巻の周りに、緑の残像のリングを描いた。
「あいつ、何をする気だ?」
ズッグーロは、竜巻の中でその光景を見ている。すると、徐々に緑のリングが狭まって来ているのが見えた。
「まさか、あいつ!!」
「その通り、お前の技は見切った!!」
カザネの声が、竜巻の中に響いてきた。ズッグーロは、必死に目でカザネを追おうとしている。だが、目が追いついていない。カザネは、高速で回転しながら、あるものを見ていた。それは、静止するように空中に浮いている液体の塊だった。それを、カザネは当たらないように避けて、毒の竜巻の内側へと入っていく。カザネは、風魔法によって細かく吹き飛ばされた毒の粒子その全てを、捉え避けていたのだ。
「風魔法事態に、毒を作る効果はない。毒は、お前の個体としての能力。その能力と、風魔法を合わせて毒の風を作っている。つまり、この竜巻全体に、毒風としての効果があるわけではない。そして、この竜巻以上のスピードで周りを回っている私には、この竜巻が止まって見える。そんな中で、風魔法が得意な私が、毒のある部分と、純粋な風魔法のある部分を見切って避けていくなど、造作も無いことだ!!」
「馬鹿な!!奴以外に、こんなスピードを持つものがいるはずが!!」
「ソニックスピンキック!!」
緑の閃光が、高速の回し蹴りとなってズッグーロの脇腹に突き刺さった!! 声を上げることも出来ないまま、一瞬でズッグーロの腹が蹴り飛ばされ消滅する。技を放った後、カザネは高く飛び上がると竜巻から脱出。そのまま、仲間たちがいる地面へと降り立った。そして、竜巻をやや振り向くようにして、パチンと指を鳴らす。
「お前、遅すぎたな……」
「俺が、ウインガルになるはずの、この俺があああああああぁぁぁぁ!!!!」
そのズッグーロの叫びとともに、毒の竜巻が爆発していく。ズッグーロの死とともに、毒の竜巻はその全てを魔力に変えて、何処かへと飛んで行ってしまった。その光景を、カザネ達は無言で見送った。
「うん?これは、主人の魔力……」
カザネ達の周りに、魔力が満ちていく。先程溶けて凹んでいた地面が修復され、草木が復活し、汚染されていた川は綺麗に澄んで自然が回復していった。その光景はとても幻想的で、神秘的な光景にカザネ達は、目を輝かせながらその光景を見ていた。
「お前の全てに死を与える毒の魔力よりも、こういう魔力の使い方のほうが素晴らしいだろ。そうは思わないか、ズッグーロ」
カザネは、夜空を見上げながらそう呟いた。




