食事と決意と
ああでもない、こうでもないと、カザネは頭を働かせながら考えている。そのカザネを見て、ベイはやれやれと軽く笑うと、カザネを肩に座らせて持ち上げた。
「わわっ」
「カザネ、皆が待ってるぞ」
「は、はい、主人!!」
ベイは、カザネを担いだまま家へと歩いていく。その肩で、カザネはベイを見ていた。
(私が困っていると、そっと寄り添ってくれる。主人といると、心がこんなにも穏やかになる。この気持ち……)
これこそが幸せなのだろうと、カザネはそう思いながら。そっと、ベイに寄り添った。
*****
晩御飯の支度を終えたベイ達は、賑やかに食卓を囲んでいる。何故かと言うと……。
「あ、お義父さん、新居もここらへんの土地がいいですか?それとも、都市中央に土地を買ってこう、ズバーっと!! 大きいの建てちゃったほうがいいですか?」
「い、いや、ロデちゃん。私達は、ここらへんでのんびり暮らせれたらいいかなと……」
「なるほど。それでは、予算を土地代より建築費にまわして……」
「お母様、私の作った料理はいかがですか?」
「うん、美味しいわね!!ロザリオちゃんは、料理が上手ね!!」
「はい、ありがとうございます!!」
このように、ベイの両親へのアピールをそれぞれがしだしたからである。その様子を、ベイは若干苦笑いを浮かべながら、アリーは、特に気にする様子もなく見ていた。
「なぁ、アリー。ニーナは、本当に大丈夫なんだろうか?」
「大丈夫よ。私も見たけれど、肉体に傷はなし。あとは、精神的にってところかしら……」
「精神的にか……」
「そんな顔しなくても大丈夫。ベイの魔法を受けたんだもの。きっと、もうすぐ起き上がってくるわ」
「だといいんだけど……」
そんな2人をよそに、女性陣のアピール合戦は続いている。サラサが、インパクトの有る肉料理で攻めれば、そこに上品な薄味の料理でヒイラが対抗をし始める。その間に割って入って、レラがドリンクを差し入れたり、レノンとサラが、空いたお皿を下げたりして細やかな気配りを見せていた。
「なぁ、母さん。うちの子は、本当にモテるな……」
「そうね。それも皆、美人でいい子ばかり……」
「凄いな」
「凄いわね」
「ベイ」
「うん、どうしたの父さん?」
「早死するなよ」
「え、まぁ、長生きはすると思うけど?」
「そうね、ベイは鍛えてて体力があるし、この人数でも大丈夫よね?」
「……」
この2人は、何を言っているんだ。そう言う顔を、ベイはしていた。何故か女性陣が顔を赤らめてベイを見ている中、ロデが話題を変えるべく喋りだす。
「ところで、お二人は謎の黒い戦士に助けられたということですが、実際、どんな人物でした?」
「どうって、凄い強いとしか分からなかったなぁ」
「誰なのかしらね。あの親切な人は」
「先程の取材で、喋られていない事実とか無いでしょうか?実は、私の家の商会では、情報誌も出しておりまして」
「いや~、ないない。全部話しちゃったよな」
「そうね、あの剣幕で言われたらね」
事情を知っている皆は、ちらっとカザネを見る。カザネは、特に気にすることもなく、黙々と料理を食べていた。
「そうですか。うちで他誌に無い情報を扱えれば、大々的に取り上げて人気を押し上げ、グッズを作り商品化。売上で、大儲けと行こうと思ったのですが」
「あんた、それってどうなの?」
「アリーさん、本人が名乗り出ないからと言って、この人気を捨て置く必要がありますか?商売とは、人気の波に乗ることが重要。どんなチャンスでも、変えられるのならお金に変える!!それが、商人と言うものです!!……勿論、節度は必要ですけどね。今回の件なら、特に問題はないでしょう。噂のブラックアクセルさんを傷つけるわけではないのですし。むしろ、応援になりますよ」
ロデは、そう言いながら人気に乗った商売がどれほど有用かを語り始める。ベイ達は、まぁ、本人は目の前にいるんだけどな。という顔で、カザネを見ていた。とうのカザネは、嬉しそうに肉料理を新たに皿に取り分けて食べている。
「……ガンドロスさんが、神魔級魔物を討伐し、素材を売り込んできた日には。それはもう、大剣の注文が殺到しまして」
「しかしあれだな。しばらく、ここを離れるべきなのかもしれない……」
「え?」
「愛する故郷ではあるが、今は神魔級魔物に襲撃されている町だ。何処かに、安全になるまで移動していたほうがいいかもしれんな」
「大丈夫ですよ、お義父さん。この国には、結界があるじゃないですか」
アリーは、神魔級魔物の襲撃によって、街全体を覆うように張られている結界を見るように、窓の外へと目を向けた。
「とはいってもだな、アリーちゃん。やはり、不安は拭えんのだよ。あと一歩、あの黒い戦士が遅れていたら、私達は……。次も、都合よく助けが入るとは限らん。そう思うと、皆で移住するのも有りなんじゃないかと思ってな」
真剣な顔で、ノービスはそう語る。その言葉に、カザネはギュッと拳を握りしめた。
「私が、もう少し早かったら。すいません……」
「うん?いや、カザネちゃんが、悪いわけじゃ……」
「いえ、私がもっと早く。お二人が、ピンチになる前に駆けつけていれば……」
「え?」
「約束します。私がこの街を、人々を守ると。だから、そんな顔をしなくて大丈夫ですお義父さん。必ず、私が倒しましょう。あの悪鳥達を……」
「カザネちゃん、君は……」
凛とした顔で、カザネはそう答える。それ以上何も語らず、カザネは料理を再び食べ始めた。
サイフェルム王国、結界の外で、何かが上空から王国を見つめている。
「ふん……、小賢しい。だが、キージス、ホロウズをやった奴がいるとすればあそこだろうな。他を出し抜く意味でも、やはり、あそこを攻めるべきか」
その何かは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「あのような小細工など、俺には無意味だ。ついでに、あの街にいる他の雑魚も全て俺がたいらげるとしよう。そして、俺こそがウインガルになるのだ!!」
その何かは、沈みゆく夕日を見つめている。そして、その場から物凄い速さで移動し消えた。新たな戦いの時は、すぐそこに迫りつつあった。