新たなる段階
創世級撃退、神魔級魔物討伐から一日が経った。俺がカザネに神魔級魔物の撃退を頼んだあと、アリーがカザネを回復してくれた。そのお陰で、見事に神魔級魔物を撃退できたらしい。その後、アリーがミルク達を回復させて、俺を連れて実家に戻ってきた。カザネに頼んだあと、俺はすぐに意識を失い、翌日の昼間まで目を覚ますことが出来なかった。そして、今やっと起きたわけだが。身体中の動きが、なにかおかしい。皆に頼んで食事を手伝ってもらい、何とか食べ終えた数分後。唐突にアルティが話があると言って、皆を台所に集めた。
「ええ、お集まり頂きありがとうございます、皆さん」
「ニーナは、まだ目覚めていないのか?」
「ええ。我が家が診療所ということもあり、今は寝かせていますが、いつ目覚めるかは……」
「そうか……」
見回せどニーナが居なかったため、俺はそう聞いた。まぁ、身体が崩壊するような衝撃を受けたんだ。時間も必要になるか。
「ニーナさんの様子は気になりますが、本日の報告したい内容に入らせていただこうと思います」
そう言うと、アルティが魔法で空中に映像を映し出した。
「題しまして、我らがマスター・ベイ・アルフェルトの現状説明と今後の課題となります」
「なるほど……」
アリーが腕組みをしながら、映像を見つめてそう言う。真剣に、皆がアルティの話を聞くべく姿勢を正した気がした。
「まず、先日の戦いを辛いですが振り返ってみましょう。創世級との戦闘時、私たちは頑張って善戦しましたが力及ばず敗退。マスター・ベイ・アルフェルトは死亡。世界消滅、と、なるはずでした」
画面に、簡易的に描かれたような絵で図が説明される。だが、それを皆が歯がなるような力で、奥歯を噛み締めながら見ていた。
「ですが、その時不思議な事が起こりました。活動停止間近であったマスター・ベイ・アルフェルトの脳が再起動。なんと、周りの空間にある魔力を使って、自身の体を再構成・復活させました」
「周りの空間にある魔力?」
「大気中に漂っている魔力です。マスターの死により身体から離れつつあった魔力でもありますが、大体は周りにあった何も処理を施されていない、自然な魔力です」
「それを、ベイが扱ったと?」
「ええ、これがどれほど恐ろしい技術であるか、魔法を使う皆様にはお分かりいただけるでしょう。つまり、マスター・ベイ・アルフェルトは、無尽蔵に周りから魔力を取り込むことが可能ということです」
俺が? 嘘だろ。全然覚えてないぞ。
「更に驚くべきことに、意識がない状態でマスターは戦闘。本能のみで行動し、創世級を撃退。これを、結界の向こうに押し返しました」
「あの力は、何なんだ?」
「そうですね。私達ですら、知り得ない強力な力だったように思えるのですが?」
「では、そちらの解説に移りましょう」
レムとミルクが首を傾げる中、アルティが映像を切り替えた。
「こちらは、今までの一体化になります。そして、こちらが前回行った黄金の一体化です。違いをご説明いたしましょう。本来の一体化ですが、皆さんの力を混ぜ、取り込み驚異的な力を身につける能力となっています。ですが、その段階である程度の魔力調整が行われるため、皆さんの素の実力の100%を完全に発揮した状態で融合した状態にはなっていません。ですが、皆さんの普段の実力以上であることには代わりがありません」
「なるほど」
「そして、黄金の一体化。こちらは凄いです。空気中から奪った魔力で皆さんのポテンシャルを引き上げて、更にその上で一体化しています。簡単に申しますと、皆さんを一時的に進化させながら纏っています。その時に発揮されたパワーは、真・一体化(仮)の20倍以上。あり得ない数値です。あの時の創世級では、手も足も出ないパワーだったでしょう」
「一時的に進化?」
「ええ。各属性の魔力を皆さんに注ぎ込んで強制強化。皆さんの身体の持つ、体内の魔力が増えると身体を自動で強化する力を利用して力を引き上げました。ですが、それは本来の魔力保有量よりも多い魔力量のため、一時的にしか維持ができません。つまり、魔力を注ぎ込まれている間だけ発揮できる力、というわけです」
「なるほど」
「では、次にこちらをご覧ください」
映像が切り替わる。それは、俺の写真と黄金の一体化の映像だった。
「一見、無敵に見えるこの黄金の一体化。相手の魔力を取り込むは、皆さんの力を強化するわで向かうところ敵なしのように思われますが。実は、そうではありません」
「そうなのか?」
「ええ。実は、その強大な力の代償をすでに、マスターが支払っています」
「え?」
「マスターの体の変調。それは、身体が全て魔力化してしまったがゆえの変調です。今、残念ながらマスターの身体は魔力で出来ています。上手く動かせないのは、その為です」
「まじで?」
「まじです」
俺のこの身体が、全身魔力……。アリーとお揃いだと思えば、若干気が楽になるが。
「何故、こうなったのかご説明いたしましょう。実は、創世級の魔力を吸収したためです」
「創世級の、魔力の影響ということか?」
「いえ、違います。単に吸収量の話です。多すぎる魔力を限界まで肉体に吸収してしまったがために、肉体が魔力化しました。これを見て分かるように、吸収量にも限界があります。それは、皆さんの魔力保有量とマスターの魔力保有量を足した値です。それ以上は吸収も、分解もできません。体内に、魔力を受け入れられなくなるからです」
「と、いうことは?」
「前回の戦いで、すでに吸収量をマスターは上回りました。その結果、少しでもより多く吸収するために肉体を魔力化してしまったのです。無意識のうちに」
「……俺自身が、したっていうのか」
「あれを吸収しきらないと、どちらにしろ負けていました。通らなければいけない判断だったでしょう」
「そうか……」
沈黙が、空間を支配する。その中で、アリーが手を上げた。
「さっき、フィー達に保有量を超えた魔力を注ぎ込めると言っていたけれど、それを行いながら無限に強化していけば問題がないんじゃないの?」
「それなのですが、保有量の最大値に変化はありません。つまり、注ぎ込んだ分、皆さんの体が無理やり使おうとして強化されているのを利用しているに過ぎません。ですので、消費はされるのですけど全体的な体内の保有魔力としての違いはなく、無限強化は実質不可能なのです。皆さんそれぞれが、強制的に強化魔法を発動している状態といったほうが良いかもしれません」
「なるほどね。ベイの保有魔力を、皆に流すことしか出来ないわけか」
「そういうことです」
「で、吸収量がその消費量を超えると、何も出来ないと」
「そういうことです。ですので、フルパワーの創世級には、現状でも勝ちようがありません。あの形態だけでは、世界を守ることは困難でしょう」
その発言に、皆がざわめく。
「ちょっと待て!!あの創世級は、本気じゃなかったというのか?」
「そうです。奴は、結界にまだ縛られた状態でした。私達が、真・一体化でもやつを押し戻せたのはその為です。やつの魔力の大半は、召喚魔法で呼ばれようとも、結界を超えることが出来ずに残されていたことでしょう。その状態であれなのです。勝てるわけが、無いでしょう……」
「……あれで、力の一部」
「どうすれば良いんですか、あんなの。勝てるんですか?」
「……実は、その方法の提案があります」
アルティが、皆に向かってそういう。その声に、皆がうつむいていた顔を上げた。
「あるのか!!」
「そんな方法が!!」
「ええ。それは……」
アルティは、映像を切り替える。それは、皆の映像だった。
「皆さんを中心とした、属性特化の一体化を行うことです」
アルティが提案した内容。それは、新たな一体化だった。皆が、その考えに息を呑むのが聞こえた。