奥義・ミルク流交渉術
「(ほう、ほう、ほほう~。なるほど……)」
一触即発の空気だっていうのに、1人だけ先ほどとは違う空気を出している者がいる。ミルクである。
「(えっと?もしかしてなんですけど、その尻尾を見るあたり貴方猿型魔物ですか?)」
「うん?そうだけど、それがどうかした?」
「(いえいえ、ちょっと気になっただけですよ。ふ~ん。しかし悪くないんじゃないですかね。ねぇご主人様、どうですこの人?今までで最悪近い敵な気もしますが、その分いい戦力になると思いませんか。何より、うちにいないタイプの女性です。属性的な意味でもありますが、性的な意味で……)」
ストーーーーップ!! それ以上いけない!!!!
「いやいやいや!!相変わらずお前は、敵の目の前でも容赦無いな!!そんなこと言って相手が気を悪くしたらどうするんだ!!」
「(大丈夫ですよ。私は、魅力があると言っているだけですからね。それに、積極的で押しの強そうな服装です。ご主人様のムラムラもよく貯まることでしょう。そこを、美少女化した私が……。ふふふ……)」
味方にこの状況で黒い欲望をぶつけられるって、どうなの……。 というか、その発言でアリーが何か考え始めちゃったよ。それは名案ね、みたいな顔をしてるよ。後、目の前の赤い彼女も照れるなぁ……。って考えているみたいに頭触ってるし。かなり好意的に今のミルクの発言を受け取っちゃってるよ。
「(どうです?フィー姉さん、レム、ミズキ、アリーさん。今後のご主人様のためにも、良い人材だと思いませんか?)」
「う~ん、マスターのためにはなると思うので、異議なし!!」
「確かに、この強さなら主のお役に立つだろう。いいと思うぞ」
「熱いのは苦手なんですが……。強いのは悪くないことですし殿の役には立つかと」
「いいわね!!この魔力、放たれる圧倒的な強さ!!ベイにふさわしいわ!!」
もう全会一致で方針が決まっている。何だろう、いきなりピンチに陥ったはずなのに皆が急に降ってきたピンチを狩るべき獲物という目で見始めている。でも目の前の彼女は、やたら褒められてると思っているのかさっきより照れていた!! いやいや、今貴方その身体を狙われてるんですよ!!
「(う~ん、と言ってもアレですね。今の私達には、見つけるべき目標がありますから下手に戦うのはいいとは言えませんか……)」
「うん?あんたら何か探してるの?」
「(ええ、フルーツトウガラシと言うんですがね。こう、赤くて身が詰まって若干丸いんですが、瑞瑞しそうな果物です)」
「ふ~ん。……ああ、あれか!!ちょっと待ってて!!」
そう言うと赤い彼女は、またどこかへと飛んでいった。2分後……。
「おっ待たせ~!!はい、これでしょう。フルーツトウガラシってやつ?」
両腕一杯にフルーツトウガラシを抱えて彼女は戻ってきた。間違いなくフルーツトウガラシだ。
「はい、あげる!!」
「えっ、いいのか!!あ、ありがとう……」
なに? この状況。殺し合いしそうだった相手に目当ての物ただでもらうって……。すごい戦いにくくなったんですけど。アリーも何か、腑に落ちない顔をしながらフルーツトウガラシを箱に詰めている。
「(むぅ、わざわざこんなに。ありがとうございます)」
「いいって、いいって!!じゃあ、これで心置きなく戦ってくれるよね?」
「(う~ん、と言っても私達も命をかけて戦うというのは、フルーツトウガラシをもらったくらいではちょっとやりたくないといいますか……)」
「え~~。……分かった。じゃあ、殺し合いじゃなくていいからさ。それでいいでしょ?」
え、いいのかよ!! 滅茶苦茶話の分かる人だな、彼女!!
「(う~ん、でも私達には、戦う理由が今はありませんからねぇ。もし一つお願いを私達が勝ったら聞いていただけるのであれば、その練習試合を受けてもいいんですけども……)」
「お願い?う~ん、何かな言ってみてよ」
「(ええ、貴方のような強い女性魔物を私達は必要としているんです。宜しければ、私達の仲間になっていただきたいのですが?)」
「仲間?」
う~ん、と唸って彼女は考えている。と言うかミルク、その言い方だと俺が女性形魔物しか仲間にしないみたいじゃないか。いや、今まさにそんな感じになってるけど。ムキムキのおっさんよりは、確かに女性のほうがいいけど……。
「う~ん、いいよ仲間になっても!!でも、そうだなぁ……。そこの人があたしに勝てたらね!!」
そう言って彼女は、俺を指差す。……ええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!!! 俺~~!!!!
「(ほう。私達の中で一番強いご主人様を選ぶとは。流石ですね……)」
「へ~、そうなんだ。やっぱり何か違うと思ったんだよね……」
いやいやいや、俺だけで勝つとか無理だから。最悪一体化するしか勝ち筋が無いから!!
「(とは言っても、ご主人様は強すぎますからねぇ。貴方も一発食らうだけで負けるでしょうし)」
「へ~、それは面白そうだね!!まぁ、私ならどんな攻撃でも一発で負けるなんてことはないけどさ!!」
「(ふ~む、じゃあ1回受けて見ますか?ご主人様の最強魔法を……)」
「え?まぁ、別にいいよ。それぐらいいいハンデだよね」
いや、俺そんな魔法持ってたかなぁ……。聖魔級魔物を相手に出来る魔法なんて……。うん? 聖魔級?
「(じゃあご主人様、いっちょやっちゃってくださいよ。彼女に……)」
うわ、なんか嫌な予感がする。嫌な予感がするが、間違いなくアレだろう……。
「(聖魔級回復魔法を……)」
「やっぱりかあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の苦悶の悲鳴が火属性上級迷宮に響き渡った。
「聖魔級回復魔法……」
「聖魔級回復魔法ですって!!!!」
何か赤い彼女よりすごい反応をアリーがしている。そしてそのままこっちに向かって歩いて来た。
「ベイ!!私にかけるのよ!!今すぐ!!」
「(駄目ですよアリーさん!!魔物の我々でも、耐えられない威力なんです!!人間の貴方が、耐えられる保証は無いんですよ!!)」
「いいミルク!!女には、やらなきゃならない時があるのよ!!それが今よ!!」
アリーに肩を掴まれて滅茶苦茶に身体を揺さぶられる。いや、なんでそこでアリーに聖魔級回復魔法をかける話に……。しかもそんな必死に……。
「さぁ!!ベイ!!私に!!私にかけるのよ!!大丈夫!!私は、貴方の全てを受け止めてみせるわ!!!!」
いや、すごい嬉しいセリフなんですけども。この状況で言われるのはなんというか、複雑といいますか。
「あの~、あたしが受けるって話なんですけど……」
このアリーの剣幕で、彼女が訳が分らないって顔をしている。君は正しい。
「女の意地よ!!旦那を受け止めるのよ!!」
「(ストップ!!ストップです、アリーさん!!ほら、今は向こうの彼女を仲間に入れなければなりません。私も、浴びたい気持ちはすっごくすっごく分かるのですが。ここは、目の前の彼女の反応を見てからでも遅くは無いかと……)」
「むっ。そ、そうね。取り乱したわ。ベイ、ごめんなさい」
「いや、いいよアリー。……俺も、アリーの全てを受け止めるよ」
「ベイ!!」
俺とアリーは、熱く抱き合った。……嬉しいけど、やっぱこの状況はおかしい。誰か何か言ってくれよ。名残惜しそうに離れるとアリーは、後ろに戻っていった。
「う~ん?なんか色々と複雑なんだね……」
「いや、待ってくれてありがとう。気を使わせてすまない」
「ああ、いいって、いいって!!でも、興味はでたかな。その魔法、受けて立つよ!!」
そう言うと、彼女は身構えた。仕方ない、フルーツトウガラシを持ってきてくれた彼女に、こんなことをするのは本当に申し訳ないが。確かに俺には、これしか勝ち筋がなさそうだ。俺は、彼女に腕をかざした。