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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・九部 決戦のリングルスター
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ベイ・アルフェルト

 アリー達は、遠くで閃光を目にした。黒い光が何かに当たり、それを吹き飛ばしている。遠すぎるため確認はできなかったが、アリーは胸が締め付けられるかのような絶望を感じた。


「あっ、ああ……」

「アリーちゃん……」


 全員が事態を理解していない中で、アリーだけがその答えを知っていた。足から力が抜け、崩れるようにアリーはその場にへたり込む。それを、すかさず駆け寄ってヒイラは支えた。皆が、アリーの様子に動揺する。だが数秒後、アリーは奥歯を噛み締めて、フラフラと立ち上がった。


 もう、流れる血すら無い。彼はそこに横たわっている。それは彼であった亡骸だ。もう、彼は生きていない。だが、それでも彼を信じているものたちがいた。彼女たちは、それぞれが重体であるのにも関わらず、彼の元へと這っていこうとしている。体を引きずり、無理を通してでも彼の元へとたどり着こうとしていた。何度も皆が彼を呼んでいる。だが、彼は目覚めない。何故なら、彼は死んでしまったからだ。穏やかに風が吹きすさび、彼の顔を撫でていく。安らかな死が、彼を包もうとしていた。


「ベイイイイイイイイイイィィィィィィィィイイイイイイイイイイ!!!!」


 誰かが声を張り上げて叫んでいる。遠くの何処かで、彼に聞こえるはずもないのに名前を呼んでいる。だが、それは空気中の魔力を伝わり、自然と彼の耳に届いた。誰も魔法を使っていないのにもかかわらず、彼はそれを死にながらに理解した。そして……。


「マスター」

「主」

「ご主人様……」


 彼の周りに、光の粒子が渦を巻き始める。その光の粒子は、まるで当たり前のように彼の身体に吸い込まれていった。まず、胸に開いた穴に血が走り出す。続いてその上から血管が、心臓が再生されていった。骨が、皮膚が再生され、傷一つなく彼の胸の穴を埋める。そして、彼は右腕をゆっくりと上げた。


「マスター!!」


 彼を呼ぶ声がする。その声を聴くと、彼は右腕を地面へと叩きつけた。大きく地面が凹む。本来の人の力では、ありえないパワーで彼は地面を殴りつけた。そして、ゆっくりと彼は起き上がる。


「殿」

「主様」

「ベイさん……」

「ご主人様」

「主人」

「マイマスター」


 皆が彼を呼んでいる。だが、彼はそれが聞こえていないかのように歩き出した。そして、自分があけた穴を渡りきったところで彼は跳躍する。彼は意識がないまま、風魔法を用いて再び創世級の元へと飛び去った。


「……」


 黒い塊が、怪訝そうに接近してくる彼を見ている。その次の瞬間、彼は大幅に加速した。


「!!」


 黒い塊は、気づいた時には彼の蹴りを受けていた。その腹に深々と彼の蹴りが突き刺さっている。その衝撃で、黒い塊は地面へと叩きつけられた。だが、その一秒後にも満たない時間で黒い塊は元の位置へと戻り彼を殴ろうと攻撃する。それを、彼は素手で受け止めた。黒い塊の拳から、大量の魔力が打ち出される。彼の腕は、そこで砕かれるはずだった。だが、彼の腕は砕けない。かわりに黒い靄のようなものが彼の腕の周りを渦巻いて吸い込まれていった。その瞬間、彼の腕に鎧が出現する。そして、時を同じくして彼の内側にレムとミルクが呼び戻された。


「……ナンダ?」


 残った腕で、黒い塊は殴りかかろうとする。だが、再び彼のはなった蹴りを受けることになり、それは出来なかった。黒い塊は、自身の本体である指へと叩きつけられる。そして、攻撃された部分の腹が、すっぽりと消えてなくなっていることに気づいた。また、彼の足に黒い靄のようなものがまとわりついている。それが彼に吸い込まれると、彼の足に鎧が出現した。同時に、カザネ、ミズキ、カヤが彼のうちに呼び戻される。


「……ムシケラフゼイガ」


 黒い塊は口を大きくあけた。その中から大量の魔力が、彼目掛けて放出される。彼は避けない。彼はその魔力の塊を、その身に受けた。だが、また同じようにして彼の周りに魔力が渦を巻いていく。そして、全てが彼の体を包みこむように吸い込まれていった。彼の全身に鎧が出現する。そして、すべての彼の妻達が彼のうちに呼び戻された。最後に妖精。そして、武器が彼の手元へと呼び戻される。すると、その鎧が金色に輝き始めた。


「……」


 黒い塊は、反応できていない。その金色の鎧を身に纏った彼は、捉えることの出来ないスピードで黒い塊に接近すると、その体を拳で砕いた。まるでフーセンのように、黒い塊は破裂して彼の体に吸い込まれていく。そして、彼は敵の指に接近した。指先に回り込み、彼は指を押し始める。すでに地面に突き刺さり、何らかの魔法陣を展開していた指であったが。彼によってあっさりと引き抜かれた。彼の体に、周りの魔法陣が吸い込まれていく。彼はゆっくりとその指を持ち上げると、召喚魔法陣に向かって指を押し戻し始めた。彼の周りに、何かが次々と吸い込まれていく。指が、彼に抵抗するように彼を押し戻そうとしているが、その力に抗うことが出来ない。そして、ゆっくりと指は召喚魔法陣の外へと押しやられ、最後に彼に召喚魔法陣に使われている魔力が吸い込まれていった。


「……」


 空に光が広がる。街は破壊され、大地は粉々になっていた。その中を1人、金色に輝く彼が浮いている。一瞬静止した後、彼の周りから金色の鎧が消え去った。そして、彼は地上へと落ちていく。受け身などすることもせず、彼は地上へと力ないままに落下していった。


「マスター!!」


 それを、自ら出てきたフィーが受け止める。フィーが地面に着地して彼を見ると、彼はゆっくりと目を開けた。


「俺は、……生きて」

「マスター!!」

「主!!」

「ご主人様ー!!」


 次々と彼女たちは、出てきて彼を泣きながら抱きしめていく。ただ1人、状況を理解出来ていない彼、ベイ・アルフェルトだけが。困ったように、その場で彼女たちを見つめていた。


「ベイー!!」


 遠くから、彼を呼ぶ声が近づいてくる。彼女の声だ。その声に、ベイは嬉しそうに呼び返した。


「アリー!!」


 巨大な血の巨人が、ベイに近づいてくる。全員がその場に着地すると、血の巨人は消えた。そして、アリーがベイに飛びついていく。


「やったのね!!」

「……みたいだ」


 嬉しそうに微笑むアリーを、皆が微笑んでみていた。だが、その後ろでドサッと音がする。見ると、ニーナ・シュテルンがその場に倒れていた。そして、彼女の身体から黒い煙が立ち上っている。まだ、終わってはいない。



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