変わった石
「さて……」
「アリーさん、私が先頭に立ちます」
「そうね。普通ならそうでしょうけど、サラサの出番はまだ後」
そう言いながら、アリーは建物に向かって杖の先を向ける。俺が、アリーの隣に風魔法を使って着地すると、建物の天井から、複数人の人間が天井を突き破り、飛び出してきた。
「何だ、あれは?」
「上に落ちてるのよ、あいつら」
「上に、落ちている?」
「そう、空に落ちる魔法。重力を逆向きに発生させているの。まぁ、あれでしばらくは何も出来ないでしょう」
「上空の障壁に引っかかっていますが、もしあれがないと彼等は……」
「星になるわね。さて、行きましょうか」
「……なんとえげつない」
「アリーさん、凄いです」
サラサは驚愕しながら、ニーナは驚き半分尊敬半分でアリーを見ながら、アリーを先頭にして建物の中へと入っていく。俺は、建物の外観をざっと見渡した。ここはホテルか。しばらく眺めた後、アリーを追って中に入っていく。アリーは、何処に何があるか知っているかのように、迷いなく建物の中を進んでいった。
「大抵、こういうのは発生源の中心に何かがあるって相場が決まってるのよ。魔法理論的に。体験してない事象だとしても、手に取るように分かるわ」
「この障壁、円形ですもんね」
「発生源を中心にして広がっていると、考えるのが普通だな」
「そうなんですか。ところで、もう敵はいないんでしょうか?」
「ええ、ざっと魔力で探ったから、あいつらで全部のはずよ。こんな時にホテルに居るやつで、一般人なんてことはないでしょう。対象の情報をわざわざ入力して転移から外された敵の仲間だと考えるのが妥当。まぁ、私達を敵に回したのが運の尽きね」
「確かに、アリーさんを敵に回したのがいけませんでしたね」
サラサは、そう言いながら深く頷いている。
「あの障壁って、触れて大丈夫なんでしょうか?」
「高濃度の魔力で出来た障壁よ。人間が触って平気なわけがないでしょう。どの属性にあの障壁が傾いているかにもよるけども、焼けるか、感電するか……。まぁ、痛いでしょうね。しかも高濃度。天井を突き破った時点で死んでないと、ちょっと辛いかもね」
「それ、ちょっとじゃ無いんじゃあ」
「周りの人間、全部巻き込んで殺そうとしているバカどもだもの。これぐらいしないと駄目よ」
「そ、そうでしょうか……」
ニーナは、ビクつきながらアリーを見ている。まぁ、でもお互いに命のやり取りをしているんだし、スパッと倒すのが当たり前だよな。まして、今は素早く事態を収めなきゃいけない段階だ。あんなのでも、仕方ないんだろう。
「さて、あれかしら」
アリーが、ホテルの中心部の扉が壊されている部屋の前に立った。その部屋の中央に魔法陣があり、その中央に見慣れない石が置いてある。いや、置いてあるというか、正確には浮遊しているのだが。
「あれは……」
「アリー、知ってるのか?」
「まさか、こんな使い方をしてくるとわね」
アリーの腕を中心に、魔力が障壁を作り始めた。そのままアリーは腕を伸ばし、魔法陣の周りにできている障壁を突き破って石を握る。
「……」
そのまま、アリーは腕を引き抜いた。石が魔法陣から外れると同時に、周りの障壁が消えた。上空に供給されていた魔力もなくなっている。
「アリー、それは?」
俺は、アリーが握っている赤く輝いている石を見た。火属性の魔石ではないな? どちらかと言うと、転移する時の魔力に近い魔石の気がする。
「これは、ある場所から魔力を持ってくるための魔石ね。まさか量産してくるなんて。やはり、記憶どおりにはいかないものだわ」
「ある場所?」
「それは、また今度話しましょう。長くなるから。さて、次に行きましょうか」
アリーが転移魔法を唱える。俺達は、次の目的地へと転移した。
*****
「さて、それじゃあ行こうか」
「この結界、どうするの?」
「ロデさん、心配いりません。姉さん」
「はいはい」
シアが、剣を障壁目掛けて差し込んだ。すると、まるで入り口を作るかのように剣の光が枠の形に広がっていく。剣の枠が広がり、人が通り抜け出来るような入り口が障壁の中に出来た。
「さぁ、行こうか」
「すごい便利ですね、それ」
「ふふっ、でも、この剣はトップシークレットだから、誰かに喋ったら駄目だからね」
「ああ、そんな気はしてました。その剣、魔法を無効化してますよね。そりゃあ、秘密にしますよね」
「正確には違うけど、まぁ、そんな感じかな」
全員が障壁をくぐり、中に入る。それを確認すると、シアが剣を引き抜いた。すると、瞬く間に障壁が閉じて元に戻る。その光景を、ロデは厄介そうに見ていた。
「姉さん、先頭をお願いします」
「OK」
「では、行きましょう」
「レラさん」
「ああ、ヒイラちゃんの護衛は任せてよ」
「さて、ヒイラさんのお手並み拝見と行きますか」
ロデのその言葉に、ヒイラは照れたように笑う。だが、そんな目の前のヒイラとは裏腹に、赤い何かがシアたちよりも早く、建物内部に侵入した。
「ここは賭博場かぁ」
床に散らばったコインを眺めながらロデは進む。眺めるだけで、特に拾ったりはしない。ちょっと拾いたい衝動に彼女は惹かれるが、目の前にいる騎士は国のお偉いさんだ。怪しまれる真似はやめよう。そう思いながら、ロデはシアの後を武器を構えながら付いていった。
「広い建物だね」
「遮蔽物も、多く存在しています。何処に敵がいるのか、見当がつきませんね」
「うわああああああああああああ!!!!」
「!!!!」
奥の通路から悲鳴が聞こえた。シア達は、その声の方向に慎重に足を進めていく。その声がした現場に到着すると、大きな血溜まりがそこには存在していた。
「一体、これは……」
「な、なんだろうね?」
ヒイラがわざとらしくそういう。ロデと、レラはその正体を知っていた。歩きながらも、ヒイラは魔力を操っていたのだ。すでに、この賭博場は敵にとって、地獄の処刑場とかしている。そう、このヒイラ・スペリオによって。