宿泊宿での食事
俺は、剣を再度腰に装備し直す。俺の膝を枕にしながら寝転んでいたアリーが、その前にむくりと起きた。サラサも、磨いていた剣を鞘に収める。ヒイラも読んどいる本を閉じて、杖を持った。
「そろそろ、夕食かしらね」
「行こうか」
「うん」
「そうだな」
食事に行くのにも、俺達は武器を装備して移動する。なんだ落ち着かないが、まぁ仕方ない。この街に、遊びに来たわけではないのだし。隣の部屋の扉を叩いて、レラ達も誘って食事に行く。集団行動は大事だ。何が起こるか、分からない街だからな。今のここは。何があっても、対応できるようにしておかないといけない。アリーの記憶どおりに物事が進むとは、限らないからな。
「こっちか」
「左側の、奥を指してたわね」
「お腹減った~」
「ちょっと、いい匂いがしますね」
俺達は、シア達の部屋を一応ノックしてみたが返事がない。先に食堂に行ったのだろうか? そう思い、再度移動を開始する。そして予想通り、シアとシュアは、並んでテーブルに座っていた。部屋には何個かの小さなテーブルが置いてあり、配膳用と思われる大きなテーブルが1つ出されている。俺達もテーブルに適当に座っていくことにした。
「おなか減ったねぇ……」
「はしたないですよ、姉さん」
「朝からドタバタしてたからね。シュアちゃんは、お腹空かないの?」
「私、朝も昼もしっかり食べる方ですから」
「そっか~」
そう言いながら、シアはテーブルに顔を伏せるようにつける。よほど力が入らないのだろうか、そこにはキリッとした騎士姿の女性はいなかった。ズボラなお姉ちゃんと言った感じの女性しかいなかった。
「おまたせしました~」
「お、来たね!!」
タイミング良くというか、俺達が席に座ってすぐに店員さんが食事を運んできてくれた。その声を聞いて、シアの目が輝きを取り戻す。
「おお、基本的な料理ばかりですな!!お肉に野菜。美味しそう!!」
「はい、姉さん」
「取り分けてくれるなんて、シュアちゃんは出来た妹だなぁ~」
「……」
ささっと、シュアがサラダを皿に盛り付けてシアに渡す。見事な盛り付けだ。バランスよく、1つのサラダに入っている野菜を取っている。やるな、シュア。そして、一通り皆に料理が行き渡ると、シュアはシアの肩らへんを指でつついた。
「おっと、私?まぁ、それはそうか」
そう言って、シアが立ち上がる。
「え~、皆、こんな危険な任務に付き合ってくれてありがとう。何時戦いが始まるかもわからないけど、今はこの食事を楽しみましょう!!じゃあ、いただきます!!」
そう言い切ると、シアは我先にと料理を食べ始めた。うまそうに食べるな。
「いただきます」
シュアも、続いて食べ始める。それに続く形で、俺達も食べ始めた。……しかし、何というか無難な料理だ。パンにスープに野菜サラダ。肉に、魚。飲み物、果物。真っ当なコース料理といった感じだな。最近のうちのメニューは、毎回サラサがこれぞ肉だ!! みたいな料理を一品は作るので、どうしてもこの料理達を見た光景を俺は味気なく感じてしまっていた。まぁ、アリーやヒイラが作る料理とは比べても仕方ないよな。これはこれで美味いのだけど、それでもなにか物足りない気がする。そう思いながら、俺は食事を進めた。
「あ~、食べた食べた」
数分後、明らかに誰よりも早いペースでシアは食事をたいらげていた。しかも、おかわりもしている。すでに、大きなテーブルに置かれたおかわり用の料理はかなり少ない量に減っていた。サラサより食べるんだな、この人。
「シュアちゃんも食べ終えた?」
「はい」
二人共早いな。もっとも、シュアの食べた量は普通の量だったが。先に食べ終えた2人は、そこから移動するでもなく、飲み物を飲みながら何かの打ち合わせをし始めた。警備の巡回時間だの、誰が報告に来るだの。そう言う会話が、自然と耳に入ってきた。
「ふぅ~」
俺も食べ終えた。サラサは、果物を美味しそうにまだ食べている。他の皆はもうちょっと掛かりそうだ。……早くフィー達にも何か食べさせてあげないとな。このホテルの向かい側の店は果物屋さんだったか。そこで、何か買ってきてもいいな。
「ベイ・アルフェルト」
「えっ?」
「何ですか、その返事は」
「いや、何んでもないよ。何か用かな?」
いきなり俺は、シュアに話しかけられた。完全に思考が別の方向を向いていたのでえっ? とか言ってしまった。それはそうと、何か用なんだろうか?
「貴方は、何処まで可能なのですか?」
「……何が?」
「戦力として、です」
「……何処まで」
「シュアちゃん、それは聞き方が曖昧すぎるんじゃないかな?」
「……そうですね。では、どんな魔法が使えるのですか?」
「一通りの属性の攻撃魔法かな。後は、強化魔法。空を飛んだりも、出来るかな」
「なるほど、死地に送りやすいと」
「……」
シュアの言葉から棘を感じる。まぁ、今は流すか。
「闘技大会を見ていました。剣術もかなりの腕のようですね。そこはどうなんです、サラサさん?」
「ああ、ベイの剣術は大したものだ。並の使い手であれば、触れることすら出来ないだろう」
「なるほど。前衛向き、と考えるべきでしょうか」
「だと思うよ」
俺が、前衛か後衛かで迷ってたんだろうか。その話を聞くとシュアが何かをメモし始める。そして席を立ち、俺達にそのメモを見せてきた。
「戦闘が始まった際のことですが、一応基本事項を述べさせていただきます。まず、単独行動は基本しないで下さい。はぐれそうになったなら、声を掛け合って連携して下さい。間違っても、1人で先行しすぎるということがないようにお願いします。もう一つ、基本的には2チームで立ち回るという提案をしたいと思います。片方は、シア姉さん、私、ロデさん、レラさんヒイラさんで行きましょう。そしてもう片方は残りの皆様でお願い致します」
そう言い終えると、シュアはメモをおろし地図を代わりに取り出した。
「2チームに分ける理由ですが、この街が広いことがまず一つの理由です。この地図上に示された四隅の赤丸。これが、魔法陣が発見されたエリアになります。戦闘が起こったさい、我々は近い魔法陣を2チームに別れ迅速に潰す。大雑把に作戦を説明するとこうなります。4つあるのだから、4チームに分ければ良いのではないかと思われるかもしれませんが、敵の戦力が未知数である以上、ある程度の戦力がこちらも揃っている状態で動くのが無難でしょう。ですので2チームとさせていただきました」
「良いのか、2個を先に潰すだけで?」
「ええ。魔法陣の解析結果ですが、1つでも効果を発揮します。ですが、4つ揃っている状態でないと本来の出力は出ません。2つ潰せば、魔法の発動威力も半減。それで召喚が可能とは思えないと、王国の学者たちが言っていました」
「なるほど」
「まぁ、そうならの話だけど……」
アリーが、ぼそっと呟く。
「次に、今回の戦闘で相手に手心を加える必要はございません。全員、倒してしまって結構です。それは、国が保証します」
「保証します!!」
シアが復唱してそういう。世界を破壊する悪党どもには、情け無用ということか。
「時間があるかは分かりませんが、明日はこの街を見て歩きましょう。地形を知っていたほうが、よりよく戦えます。何か、質問はありませんか?」
「……そっち頼んだわよ、ヒイラ」
「えっ、う、うん」
「無いようですね。では皆さん、頑張りましょう」
そう言うと、シアとシュアは飲み物を持って部屋に戻っていった。




