未踏の入り口
その後、皆を戻してバルトシュルツ家の応接間に戻り、しばらく談笑して食事をして帰ることにした。結局、ガーノは帰ってこなかった。帰る時、しれっとアリーもこっちに付いてきた辺り、もう色々許されたんだなと感じた。式はいつ上げましょうかね、アリーさん?
「まぁ、これで全ての問題が片付きそうね。後はお祖父様とお兄様だけど、お兄様は私の結婚とかには興味なさそうだし、お祖父様は時間が経てば陥落できるでしょう。全て、終わったわね」
「おめでとう、アリーちゃん」
「ありがとうヒイラ。……これで、正式に正妻ね。そして、貴方と皆と正式な仲間になれた。そんな気がするわ」
「大げさだよ、アリーちゃん」
「そうかもね。でもヒイラ、貴方と同じ人を愛せるんだもの。なんだか嬉しいわ」
「そ、そう?」
そう言いながら、アリーが俺の右腕に抱きついてくる。その動きに合わせるように、ヒイラも俺の左腕を優しく握った。両手に花だな。
「うちの子も、成長したなぁ」
「そうね。あの子が生まれてきたことが、つい昨日のことのようなのに……」
「時が経つのは早いな……」
しみじみとそう言いながら、うちの両親は付いてきている。楽しそうに、俺を交えて会話を進める嫁2人を見つめてなんだか嬉しい気分になりながら、俺は家に帰った。
「さて」
「行くの、ベイ?」
「まぁ、思い立ったが吉日とも言うしね。ちょっと、様子だけ見てみるよ」
「気をつけてね」
「頑張って、ベイ君」
「分かった」
「ご主人様が気をつける相手なんて、そうそういないと思いますけどね」
夜。少し神魔級迷宮を気にかけていた俺は、取り敢えず行ってみようと考えた。アリーとヒイラを家に残し、まだ空が完全に暗くなっていない今のうちに行くことする。今の俺達なら、すぐに帰ってこれるだろう。転移で少し移動し、一体化をして目標の地点まで移動を開始した。予想通り、ものの数分でその場所にたどり着く。まぁ、場所自体が近いというのもあるが。
「さて、ここか」
サイフェルムに、ほど近い山の頂上。まるで、何かでくり抜かれたかのように頂上が抉れているその付近に、俺達は着地した。
「……確かに、普通では無いな」
「ええ、風の魔力がここだけ多い。当たりで、間違いはないでしょう」
「しかし、何もないが」
「……地下、とかでしょうか」
「うーん、探っているが何もなさそうだ。何処にあるんだ?」
ジャリ、っと音がする。見ると、山の頂上端に布切れを纏った何かが座り、こっちを見ていた。……何時からいたんだ。
「……少し大きな魔力がしたから来てみれば、面白そうなやつがいるもんだな」
「誰だ?」
そいつは喋っている。だが、纏っている布切れから見えている足と腕は人間のそれではない。そう、例えるなら鳥だ。人間のような大きさの鳥の腕と足だ。
「申し遅れた、ウインガル四翼の一羽、円眼のホロウズという。そして、会ってすぐで悪いのだが、死んでもらえないだろうか」
「フクロウ?」
そう言いながら、そいつは顔を見せてきた。何処と無くフクロウに似た顔付きをしている。だが、その鋭い目つきは愛らしいフクロウのものではない。闇夜の中で、不気味に光り輝いていた。訝しげに、俺はホロウズと名乗った奴を観察する。すると、ホロウズの目から、まばゆい光が放たれた!!
「うわっ!!」
「ふっ!!」
眼を腕で隠し、光を遮る。そうしているうちに、ホロウズが接近し突きを放ってきた。だが、戦闘慣れした俺達にその程度の攻撃は通らない。もう一方の腕でホロウズの腕を掴み、その突きを止めた。
「なんという幸運!!こいつ、神魔級魔物ですよ!!」
「ちっ!!」
俺達の腕を振り払い、ホロウズは飛び退く。……俺達の掴みから逃げた。それだけで、普通以上の強さをしていることがわかった。油断は出来ない相手らしい。
「外は平和ボケしていると思っていたが、そうでもないらしいな」
「アルティ」
「お任せ下さい」
アルティに解析を任せ、俺達は構える。ホロウズに合わせて、素手で迎撃態勢を取った。
「やはり、内にいただけでは知れない強さもあるか。面白い。せいぜい楽しませてくれ」
そうつぶやくと、俺達の目の前からホロウズの姿が消えた。
「なっ!!」
「遅いぞ」
背中を蹴られる。まともに攻撃を受けた。一体化している俺達がだ。……何だこいつ。強いぞ。
「くっ!!」
「かなり硬いようだが、いつまで耐えられるかな!!」
ホロウズが動く度、蹴りを放つ度、周囲の大気が揺さぶられ振動する。明らかに、今まで戦ってきた奴らとは格が違う強さだ。これが、本当の神魔級クラス。その攻撃を、神魔級強化をかけ、カザネの高速移動魔法でなんとかさばいていく。マジかよ。俺達が、ついていくのがやっとのスピードを持つ魔物がいるだなんて。
「面白い相手ですね」
カザネが、ホロウズを見てそう言った。そして、蹴りを放ちホロウズを後ろに下がらせる。
「何故、いきなり交戦してくるんだ」
「……声が変わる。おかしなやつだ。何故だと、それはな、この地に殺した者の魔力をなじませるためだ」
「ほぅ」
「お前みたいなやつは特に良い。その魔力がこの地に吸い上げられ、やがて俺達の力となる。その巨大な魔力がだ。隠しても無駄だ。俺には分かる。お前の実力が、魔力の大きさが。この目でな!!」
「伊達ではないらしいな」
「モードチェンジ・カザネ!!」
アルティが、俺達の足につき脚力を強化する。足に全体重を乗せ、俺達はホロウズを睨みつけた。
「解析を完了しました。何時でもどうぞ」
「分かった」
「1人じゃないのか?まぁいい。次で殺す」
ホロウズも、こちらを見て体重を足に乗せている。来るか!!
「……はぁああああ!!!!」
「でやぁあああああ!!!!」
お互いに風属性の魔力を纏い、全力の蹴りを放ちあった!! 山の中央付近で、風と風が激突する!!
空気の壁がぶつかり合い、大きな衝撃波を周りに撒き散らした!!
「この!!」
「終わりだ!!」
「馬鹿な!!」
徐々に激突の均衡が破られ、俺達が押し始める。そして、超高速の蹴りで、ホロウズを真っ二つに蹴り抜いた!!
「……お前、遅すぎたな」
「俺が、馬鹿な……」
カザネが、決め台詞でも言うかのようにそう呟く。俺達が着地した後ろで、ホロウズの残った身体が爆発した。巨大な風の魔力を周りに撒き散らしながら、その体を消滅させていく。その光景を、俺達は風魔法でガードしながら見ていた。