負担
(他に聞きたいことはないか?)
「ありがとう、もういいわ」
(あまり役には、たてなかったかもしれないな。すまない)
「いいのよ、結構有益なことも聞けたし、来てよかったわ」
(ならばよかった)
「さて、じゃあ戻りましょうか」
来たときと同じ空間を抜けるようにしてアリーは歩いて行く、するとふいに姿が消えた。戻ったのだろうか。
「あ、アリーさん、待って下さい!!」
皆が、アリーを追いかけるようにして出ていく。俺は、なにもないだろうが二頭を皆が出ていくまで見ていた。そして、軽くお辞儀をして最後に部屋を出ていこうとする。
(まて、魔の力を取り込む者よ)
すると、呼び止められた。俺は、足を止めて振り返る。そして、二頭に再度近づいた。
(お前がバルトシュルツにとって、敵ではないことはわかった。むしろ、有益な協力者であるらしい。あそこまでアリーに好意を向けられているのだ。そうだろう)
「ああ」
(ならばこそ、忠告してやろう。お前、このままだと死ぬぞ)
「……それは、神魔級迷宮に行くからか?」
(いや、違う。お前が、魔物をうちに宿しているからだ)
「どういうことだ?」
(……よく、今まで生きてこれたものだ。あれほどの、魔力あるもの達をうちに入れて)
(すでに死んでいてもおかしくはない。だが、お前は生きている。本来ならば、うちに入れた魔力の大きさにより、お前自信が張り裂けていてもおかしくはない)
「……」
俺は、なんとなく自分の胸元を確認してみた。うん、正常だ。なんともない。
「そうなのか?」
(自分自身が内包した魔力ならばともかく、別の生物である魔物を内に入れるなど、身体を内から壊してくれと言っているようなものだ。だが、驚くことにお前の身体はその環境に適応している。異物を、まるで自分の一部であるかのように扱っている。だが、それがいつまで続くか)
(もし、お前が許容できないほどにお前の仲間たちが強くなった時、お前は内から張り裂けるだろう。跡形もなくな)
……ええ。嘘だろ。初耳なんだけど。
「根拠はあるのか?」
(魔力とて、身体に収めておくには限界にあたる量がある。成長する人間であるお前たちが、一番良く知っているはずだが?)
「……なるほど。増やせはするが、天井が無いわけではないんだな」
(ああ、かならず人にも、魔物にも限界がある。それを越えてまで、魔力をうちに入れておくことは出来ない。吐き出すか、破裂するかだ)
(お前の身体は、すでに体の一部が魔力に置き換わるほど限界を迎えているらしい。しかも、お前の身体に仲間たちをしまっておかなくとも、お前の身体は、彼女たちから魔力を受け取っている。あの仲間たちと契約している限り、身体の無理な魔力内包による負担は避けられんだろう。このまま行けば、やがてすべての体が魔力で構成され、身体が負荷の限界を迎える。そうなる前に忠告しておく。人間には出来ないことがあるのだ。それを、受け止めろ)
「……」
(先程聞いた進化という言葉。お前の仲間が強くなるという解釈でいいのだろう?死んでからでは遅いぞ、ベイ・アルフェルト)
「俺に、どうしろと?」
(進化をさせるな。仲間たちをこれ以上、強くするのを諦めろ。そうすれば、契約をしていてもまだ保つだろう)
(人の身には、最早重すぎる魔力だ。それが、懸命だ)
俺の頭のなかに、幾つかの場面がよみがえる。俺に付き合って強くなろうとしてくれる妻達、そして、俺に世界を救って欲しいと言ったアリー。俺は、静かに目を瞑る。そして、入口に向かって身体を向けた。
「それは出来ない」
(自ら、早い死を選ぶというのか)
「違う。俺は、俺を信じてくれている妻達を信じている。妻達の為にも、俺のためにも、自分が死ぬかもしれない可能性があるからもうやめようとは言えない。そして、妻達が進化して俺に応えてくれようとしてるんだ。ならば、俺も応えなければいけない。忠告は感謝する。だが、俺はそんな限界に縛られない。それすらも超えて、俺は生き残る」
(言うだけならば、容易いが……)
「いや、出来るさ。それに、出来なければ困る。俺は、彼女達を、アリーを救う自分にならないといけないのだから」
(……死ぬなよ、ベイ・アルフェルト)
「ああ」
二頭に見送られ、俺は部屋を出て行く。すると、皆が俺を待っていてくれた。
「さて、戻りましょうかベイ」
「うん」
人の身には限界がある。ならば、魔力で身体を構成し終わってしまった後、俺は果たして人といえるのだろうか。もしも、俺の身体が全て魔力に置き換わってしまった時。もしかしたら、俺は重荷に耐えきれず破れる袋のようになるのではなく……。
「どうしましたご主人様、真剣な顔をなされて?」
「いや、何でもない」
「そうですか。何かあったら言ってくださいね!!どーんと、私が癒やしますから!!この胸で!!」
「ああ、ありがとう」
「マスター、私も!!」
「私も!!」
皆が揃って詰め寄ってくる。ああ、やっぱり立ち止まってなんていられない。守れるようにならないと。この、愛する皆を。