バルトシュルツ家
暫くして、ライアさんと皆でご飯を食べた後、新しいヒイラの魔法が気になったので教えてもらうことにした。勿論、アリーにも魔法を教えてもらおうとしたのだが、ヒイラの魔法を覚えるのだけでお昼になってしまったので、午後の家への挨拶を済ませてから教えて貰うことになった。
「さて、行くか」
「また、いつでも来てね。ベイ君」
「はい、ライアさん」
お昼ごはんも食べて、転移して家に帰る。召喚石に皆を戻し、家の近く辺りから歩いて家に向かった。
「……なんか、静かだなぁ」
「今日は休診にします、ってなってるわね」
「何かあったのかな?」
怪しげな雰囲気を感じながら、俺は家へと入っていく。キョロキョロと家の中を見回したが、誰もいる気配がなかった。
「……ただいまぁ」
そうは言ってみるが、誰からも返事がない。どうしたんだろう、出かけてるのかな?
「ん~?」
取り敢えず、目をつむって感覚を研ぎ澄ませる。何かおかしなところがないか、家中を魔力探索した。その結果、テーブルに何か紙のようなものが置いてあるのが分かった。俺は、迷わずにテーブルに向かい、紙を手に取る。
「……ベイへ、バルトシュルツさんのお宅に行って来ます。これを見たのなら、貴方も来て下さい。母より」
「うちに?」
「家庭間の、衝突問題とかじゃないよね?」
「……あり得る。ともかく、行ってみましょう」
「ああ」
こうして俺達は、アリーの家に行くことになった。
「前に来たことはあるけど、入るのは初めてだな」
「ベイが、やっと入れる時が来たのね。長かったわ……」
「私は、何度かあるけどね」
「よし、行こう」
先頭に立って俺は歩く。鉄格子で出来たドアを開け、アリーの家へと踏み入った。
「やっぱ、でかいなぁ」
「そうかしら?ヒイラの家よりは、小さいでしょう?」
「いや、五階建ての家とか早々ないよ、アリーちゃん。庭も広いし」
確かに、このあたりでこんな広い敷地の家ここしか無いもんな。それに、庭もちょっとした広さだ。五階建ての建物の横にも、また別の建物がある。二世帯って感じじゃないな。あっちは、魔法訓練用の建物かな?
「それじゃあ、行きましょうか」
「ああ」
アリーの案内で、五階建ての家へと入っていく。扉を開けてすぐまっすぐに進んでいくと、アリーは一つの扉の前で止まった。
「まぁ、お客さんが来てるとしたら、いつもここよね」
「へー」
コンコンとノックして、アリーはドアを開ける。そこには、ノービスとカエラ、バルトシュルツ夫妻が座っていた。
「おお、ベイ。アリーちゃん、来てくれたか」
「うん」
「ヒイラちゃん?」
「何故、スペリオ家の君がここに?」
「私の親友だからよ、お父様」
「そうか。いや、確かご実家にいたはずでは?まぁ、ライアさんなら距離も関係ないか」
どうやら、ライアさんが連れてきたと思っているらしい。まぁ、それでいいや。
「で、何のお話をしているの?」
「何ってアリー、そりゃあお前のことだよ」
「そうね。ベイ君に、バルトシュルツを継いでもらえないかって話も出てきてて、そこら辺を色々とね」
「「はぁ?」」
俺とアリーから、同じ疑問の言葉が漏れた。何故そうなるんだ。
「アリーの決意を見て、お祖父様ももうこれはどうしようもないと思ったらしいわ。でも、家の魔法の外部流出は避けたいみたいなの。だから、ベイくんを家の子に正式にしてしまえば、そこは防げると思っているらしいわ」
「なるほど。バルトシュルツ家の規律で、ベイを縛ろうってことね」
「まぁ、そうなるな。勿論、その際にはベイ君にうちの魔法も継がせよう。ただし、うちの魔法を外部に漏らさないように、いくつか決まりを守ってもらうことになるが」
アリーは、その言葉を聞いて目を閉じる。そして、どこかで聞いたような口調を真似てこう言った。
「絶対にNO!!絶対にNO!!(ミルクの口調を真似ながら)」
「え、何でだいアリー?いい考えじゃないか。何処に、そんな嫌がる要素が……」
「お父様は、何も分ってないんですね。私が、何で家を出ると言ったのかわかりますか?魔法の外部流出を避けるためにある規律、家族に結婚相手を見せ、相応しいか選定させ無くてはならない。これが、駄目なんです!!ベイには邪魔です!!」
「ベイ君は、アリーと結婚するのだし、もうそれは関係ないだろう?」
「……はぁ。大アリです、お父様。いちいちお祖父様達に、皆を紹介してまわってたらきりがありません。そんなの願い下げです。それに、彼女達を選定するなど、おこがましいにも程がある」
「……母さん、アリーは何と言っているんだ?」
「ベイくんには、他にも結婚相手がいるんですって。しかも、アリーが認めるような女の子たちが」
「し、信じられん……」
アドミルは、驚愕の目でアリーを見ている。それは重婚を許しているからなのか、アリーが他人の実力をを認めたからなのかは定かではない。
「よって、私がアルフェルトになります!!ここは譲れません!!」
「……なるほど。ちなみに、誰が他に彼と結婚するんだ?流石に、誰も言えないなんてことはないよな、アリー」
「疑ってらっしゃるんですね?いいでしょう。このヒイラ・スペリオも、紛れもなくベイの妻です。他にお父様達が知っているところではサラサ・エジェリン、レラ・サルバノ、ニーナ・シュテルン、ロザリオ・フェイン。……あと、おまけでロデ・マルシアもいますね」
「その家名は……」
「フェインは、フェイン商会の方かしら?あれ、でもあそこの子は、息子さんしかいなかったような?」
「ベイ、お前いつの間に……」
「うちの子はモテるわね。貴方」
静かなリアクションを取っているが、内心めっちゃ驚いてるんだろうなぁ、ノービスとカエラは。ちょっと動かなくなってるし、多分そうだろう。
「本当なのかい、ヒイラちゃん?」
「は、はい!!」
「アリーに合わせて、嘘を言っているんじゃないか?本当のことを、話してくれないか?」
「い、いえ!!私は、ベイ君がいいんです!!彼と結婚したいです!!アリーちゃん達と、ベイ君を幸せにしたいです!!」
「ヒイラ、あんた良く言った!!」
(ヒイラさん!!)
(ああ、最高!!妻仲間バンザイ!!)
(素晴らしい)
皆が、ヒイラに惜しみない拍手を送っている。というか、俺が幸せにされる側なのか。でも、皆がそばに居てくれたら俺、幸せになるな。確かに、されるわ。何も間違ってないな。そう思い、俺は1人で頷いていた。