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召喚魔法で異世界踏破  作者: 北都 流
第二章・八部 超英雄
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もう一人の天才

「で、どうですか。私の一押しの子は?」

「シアが押すだけはありますね。あのガーノさんに勝つとは……」

「まぁ、当然の結果と言えるでしょう。誰かは言えませんが、私が一目置く人物に勝ったことがあるらしいので……」

「そうですか」


 シアの隣りにいた女性は双眼鏡を外す。今まで、城から訓練場の上部の小窓を覗き、中を覗き見ていた。その女性は、手すりに体重を預けていたシアに顔を向ける。すると、シアは僅かに抜いていた剣を鞘にしまった。


「でも、ガーノさんが探してくれていますし、彼を頼る必要はないんじゃありませんか?」

「いえいえ、人間何があるかわからないものです。切り札は、多いほうが良いと思いますよ」

「彼にそれだけの価値があると?」

「ええ、勿論です」

「サフュールを持った、貴方よりもですか?」

「……」


 シアは、剣を引き抜く。それは何の変哲もない剣だ。見た目も、他の兵士たちが持っているものと大差はない。だが、シアが強く握るとその剣はわずかに光を放ちだした。そして、その形状を変化させていく。だが、途中でシアはそれをやめると剣を鞘にしまった。


「この国と私達の先祖、英雄の技術の集大成・サフュール。その力は確かにすごい。ですが、私もまだまだ技術が半人前なもので、貴方に買われている程の価値はないでしょうね」

「そうでしょうか?城内ではこう言われていますよ。シア・ゲインハルトは、英雄を超えたのだと」

「それこそ大げさです。それに、英雄はそんな簡単に超えられる壁ではありません。宝剣を持った、この私でもね」

 

 シアは、遠くを見るように上を見上げる。その彼女の表情で、彼女がいかに英雄という言葉を重く受け止めているかが理解できるだろう。憧れと、届かないという僅かな悲しみを抱えた感情が、その表情からは見える気がした。


「そう、英雄を超えるなんて……。いや、彼はそうか」

「え?」

「何でもありません。そうですね、彼なら英雄を超えたと言っても過言ではないかもしれませんよ。私の知人がいいそうな言葉ですと、超英雄と言った感じでしょうか。それが彼です」

「超、英雄?」

「はい」


 その言葉を聞いた女性は、僅かに笑う。


「それは、とても頼もしそうですね」

「ええ、その通りです」

「……考えておきます」

「お早いご決断、お待ちしております」


 シアは、そう言うと部屋の扉に向かって歩き始める。そして、廊下に通じる扉に手をかけた。


「おやすみなさい、姫様」

「ええ、ありがとう、シア・ゲインハルト」


 そう言って、シアは部屋を出ていった。


*****


「は~、アリーちゃんとベイ君、一体今何してるかなぁ?」


 ヒイラ・スペリオは、今入浴中だった。誰も入っていない風呂で存分にリフレッシュする。それしか、今のヒイラのもやもやを払う方法は無かった。ベイと分かれて数日、彼女は何故か落ち着かなさを感じている。実家にいる時は、いつもこんな感じだった。研究をして、穏やかな時間が過ぎていく。だが、最近は周りがとても賑やかで楽しかった。実家でゆっくりするよりも、とても心地の良い時間が流れていた。そのせいで、今のヒイラは何処か寂しさを感じている。


「会いたいなぁ……」


 そう言いながら、ヒイラは親友とその夫の顔を頭に思い描いていた。


「……うん?」


 ガサゴソと脱衣所で音がする。ライアさんかな? ヒイラはそう思った。だが……。


「はーい、ヒイラ。来たわよ!!」

「アリーちゃん!!」


 風呂に入ってきたのは、見覚えのある親友の顔だった。勿論、服を脱いでいる。更に、その後ろには。


「あわわわわ!!」

「ほら、ベイも入りましょ」

「ああ、うん」


 ベイ・アルフェルトの姿があった。


「何慌ててるのよ。もう、色々した後でしょうに」

「いやいやいや、それとこれとは別だよ!!というか、何でアリーちゃんがいるの!!」

「ああ~、ベイと二人っきりが良かったって?」

「いやいや、そんなことは……」

「ふぅ~ん、まぁいいわ。今日はヒイラに、用があってきたのよ」

「私に?」

「はい、これ」


 そう言いながら、アリーはヒイラに本を手渡した。


「ええー!!ここ、お風呂だよ!!それなのに、本!!濡れる!!濡れるから!!」

「大丈夫よ。見た目は本だけど、本じゃないわ。材質はね」

「そ、そう?」


 恐る恐るヒイラは本を受け取る。そして、その本の題名を読んだ。


「研究日誌?何の?誰の?」

「作者、見てみなさいよ」

「著者・ヒイラ・スペリオ」

「貴方の本よ、ヒイラ。未来の貴方のね」

「????」


 訳がわからないと言った感じで、ヒイラは本をめくる。すると、1ページ目で手が止まった。


「……生物創造魔法」

「今、ヒイラなんて言った?」

「人工的に、魔法で生物を作る研究って、この本書いてある」

「……やばくないか?」

「やばいよ。本当に、頭がおかしい。何で、私がそんな研究するの?本当に私なの?」

「まぁ、色々あったからね……」


 アリーは、遠い目をして風呂場の天井を見上げている。そして、ゆっくりと話しだした。


「ベイがいなかった未来の話なんだけど、私達はなんやかんやでシアにそそのかされて、召喚魔法使い討伐に出かけたわけ」

「うん」

「で、その召喚魔法使いの仲間も、召喚魔法使い自体も倒して無事終了。そのはずだった」

「うん」

「でも、あの召喚魔法使いが中途半端に魔法を唱えていたせいでしょうね。そのせいで、不完全ではあるけれど魔法が発動した。そして、あれが出てきた」

「あれ?」

「あれは、何と言ったら良いのかしら。……足の爪、かしらね。鳥の足に近いような鋭い爪と外殻で覆われた巨大な黒い物体が出てきたの。その物体の周りに、いくつも目のような物体が開いた。それは辺りを見回すと、闇魔法をまるで光の線のようにして周りに放ってきたわ」

「最悪だね」

「こういうぶんには、そんな言葉で済むでしょうね。でも、実際に出会った私たちは違ったわ。あれは、人間が出会ってはいけない何かだった。その時の私たちはそう思った。身体が寒くもないのに震えだし、変な汗が身体から止まらなかった。ロデなんて、すぐに気絶していたわ。サラサも、その場で必死に身体の震えを止めようとしていた」


 辛そうに、アリーは顔を曇らせる。俺は、そんなアリーに寄り添った。


「私も、ガチガチとなる歯と体の震えが止まらなくて、あの時……。放たれた光線を避けられなかった。でも、誰かが私の上に覆いかぶさってきた。それで、私は攻撃を避けられた。彼女も、攻撃がかすっただけのはずだった」

「……」

「なのに、消えてしまった。まるでいなかったかのように。私の目の前で……」

「ニーナ……」

「まるで塵。何者でもなかったかのように、一瞬で彼女は消えてしまった。いや、殺されてしまったの。……私は、全てが終わったあと、貴方にこの話をしたわヒイラ。そしたら、貴方なんて言ったと思う?」

「……かすっただけで塵になるような魔法。そんなの、回復魔法でも回復が追いつかない……」

「そう、その時の貴方もそう言った。そして、貴方は対策を考え始めた。回復魔法とは別の、別の回復手段をね」

「じゃあ、それが……」

「そう、生物創造魔法。貴方の魔法よ、ヒイラ」



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