進化する超天才
ああ、俺は勝利した。何にって? ガーノにでもない。勿論アドミルにでもない。人生に勝利したのだ!! もう勝利が決まっている告白。そしてアリーの答えも分かっている。勝った、完全に勝った。俺は困難ばかりの人生に今、勝利宣言を出したのだ。これでもまだ駄目だとか言うつもりなら、駆け落ちすればいい。それだけだ。もう、俺たち2人を阻む障害は何もない。アリーも喜んで答えてくれるだろう。ああ、俺には見える、アリーが満面の笑顔で答えてくれる姿が……。
「うっ……」
「?」
「うわあああああああああぁぁぁぁぁあああああ~~~~ん!!!!」
「!!」
……ガチ泣き!! まさかのアリーさんガチ泣きですよ。マジか、予想していなかった。ど、どうしよう。アリーは顔を真っ赤に染めて、あふれる涙を手で拭っている。そうしながらも俺に近づき、俺を抱きしめた。俺は、そんなアリーを抱きとめて頭を撫でる。今の俺には、これぐらいしか出来そうにないな。
「お前、アリーを泣かせるとは!!」
「しっ!!お祖父様は黙ってて下さい。貴方も!!」
「えっ!!」
俺たちに近づいてこようとしたガーノとアドミルを、マリーさんが止める。ノービスは、どうしたらいいのか分からずあたふたしているが、何かをしようとしてくれている気遣いが感じとれたので出来た父親だなと思った。
「ベ……、ベイ」
「うん、アリー」
「愛じてる」
「ああ、俺もだよ」
まだ涙が収まらないのか、アリーの言葉は噛み噛みだ。それでも、その顔からは悲しみは伝わってこない。泣いているのに、とても幸せそうに今のアリーはしていた。
「……」
「?」
空気がなにかおかしい。俺は、辺りを見回す。マリーさん達を見ると、皆まるで時が進んでいないかのように、その場に静止したまま固まっていた。ノービスも、わたわたした表情のまま器用に固まっている。……なんだ、何が起こっている?
「やっぱり、ベイは最高ね。貴方だから、私はここまでこれた。貴方がいたから、私はここまでに成れた」
「アリー?」
アリーは涙が止まったらしく、今は凛々しい顔をして俺の前にいる。でも、その顔はキスしそうなくらい近い。
「思い出した、っていうのも違うわね。共有したが正しいかしら」
「アリー、何の話を」
「ベイ。貴方に告白されたから、私は、もう一人の私と一時的にではあるけれど完全に魔力の状態が重なった状態に成れた。多少の誤差はあるけれど、両方私だからでしょうね。分かったのよ、この先の記憶、貴方のいない人生、そして私の未来の研究成果」
「それって……」
「本来はあり得なかったことでしょうね。でも、魔力は感覚で操作することが出来る。無意識に心の心情が重なれば、同じ魔力は惹かれ合い、1つのものとして重なっていく。そして、もう一人の私は、今は完全な魔力体。その記憶までもが魔力で保持されている。だから共有できた。そして、今もしている。まるで私が2人いる感覚。頭も、身体も、心も2つ。ふふっ、最高ね。実質人の2倍の頭脳と能力を持っているのに等しいわ」
嬉しそうにアリーは俺から離れて、踊るようにはしゃいでいる。えっと、大丈夫なんだろうか? 大丈夫だよな。
「アリー、じゃあこれは?」
「私の魔法の研究成果。時を止める。と言っても、一定の狭い空間じゃないと無理だし、その魔法をかけた物質には完全に手出しをできない状態になる、使えない魔法だけどね」
「いや、凄いよ。流石、超天才」
「それね」
アリーは、くるっと回って俺の方を見る。
「確かに、私は時間すら超えた超天才だけど、今やそれが2人で1人なの。ということは、それの2倍はすごくないとおかしくない?」
「というと?」
「まぁ、魔力はいるけれど、私は最早時間を自由に操れるに等しいわけ。まさに神に近い。そうは思わない?」
「神に近い才能……」
「そう。神才ってところかしらね。今の私、いえ、私達はそう呼ばれるても言い過ぎとは言わないと思うわ」
アリーの周りに、魔法で出来た花が咲き乱れる。それは、アリーを彩るように彼女の周りに咲き誇った。アリーは、それを何処か懐かしそうに見つめている。
「私の親友のつけた異名も、今の私になら有効でしょう。今の私は一度創生級による世界崩壊からこの星を守った超天才。超英雄、神才アリー・バルトシュルツ。……いえ、アリー・アルフェルトね」
「アリー」
「ベイ、貴方が大好き。初めてあなたを見た時、心臓が早鐘を打った。どう話しかけていいか分からなくて、取り敢えず身体の動くまま虚勢だけを張って貴方に話しかけたのを今でも覚えているわ。確かに、あの時の私は変だったわよね。初めて感じた感情に、どうして良いか解らなかったの。でも、あなたに話しかけてよかった。ベイ、貴方こそ私の人生の光よ。どんな魔法よりも、どんな奇蹟よりもあなたと出会えたことのほうが素晴らしい。だからベイ」
「ああ」
「私と共に、人生を歩んで下さい」
「勿論だ」
ゆっくりとお互いに歩み寄り、誓のキスをする。甘い、とても甘いキスだった。名残惜しそうに2人して唇を離したが、我慢出来ずにまたお互いに顔を近づけて求め合う。何回しただろうか。すでにお互いの顔は真っ赤になっている。俺もアリーも、そうとう潤んだ目をしていることだろう。ああ、幸せだ。今が永遠だったら良いのに。
「さて、もうそろそろ止めておけるのも限界ね」
「そうか」
流石に、実親の前でのキスはまだ恥ずかしいらしい。アリーは、そっと俺から顔を離した。
「アリーから離れ……。?」
ノービス達が動き出す。だが、アリーはもう俺から離れているし、泣いてもいなかった。何処か不思議そうにガーノは俺達を見ている。まぁそうだろう。光景がつながっていないんだからな。
「お祖父様」
「ああ、アリー。やっぱり、彼はやめておいたほうが」
「私、家を出ます」
「?」
「今日から私は、アリー・アルフェルト。そういうことです」
「!!」
「まぁ」
「アリー、何を言って!!」
マリーさんだけ、めっちゃ嬉しそうな顔だ。祝福してくれる人がいるって良いね。ノービスも、腕組みして何故か泣いている。
「私は、この人の妻になる!!そのためなら、家を出ます!!じゃなければベイにも、妻仲間にも、私の親友にも顔向けできない!!」
「な、何を!!妻仲間?」
「私はアリー・アルフェルト!!愛する夫を支える正妻!!そして神に近い才を持つ魔法使い!!……やっと、フィー達に顔向けできる実力には成れたかしらね」
(アリーさん!!)
(凄すぎますよ!!)
(素晴らしい、まさに正妻!!)
皆がアリーを褒めている。そんな中で、アリーは俺の手を引き、入り口に向かって歩き始めた。
「ではお祖父様、お父様、お母様。お兄様によろしく。そして、失礼します。私の親友に、渡すものがありますので」
「あ、アリー」
「お祖父様、後ほど答えを聞かせてください。もっとも、私はもうアリー・アルフェルトですけどね」
そう言って俺達は建物を出て行く。すると、アリーが魔力で杖を作り地面を叩いた。地面に、転移魔法陣が刻み込まれる。
「さぁ、行きましょうかベイ」
「行くって何処に?」
「もう一人の超英雄の復活をしによ。そう、鮮血のヒイラ・スペリオ。その再誕にね」
「鮮血のヒイラ?」
魔力の光が俺とアリーを包み込む。俺達は、その場から消えてヒイラの実家に転移した。