3体の神魔級召喚獣
「さて、待たせたかな」
「お、お待ちしてましたよ」
程なくして、ガーノが現れた。特に準備するでもなく、俺の前に立つ。
「さぁ、かかってきなさい」
「準備運動とかは、よろしいので?」
「ああ、構わんよ。早く終わらせよう」
「そうですか。じゃあアリー、開始の合図を頼む」
「分かったわ」
また、俺は特に構えない。ガーノも、特に構えず髭を撫でていた。
「始め!!」
開始の合図を受けたが、お互い特に動かない。あれか、お互いに自分から動く気はないって感じか。はぁ……、俺は完璧にねじ伏せたって勝負にしたいからわざと動かないんだが、相手はまじで余裕だと思ってるんだろうな。仕方ない。俺から歩み寄るか。そう思い、俺はゆっくりとガーノに向かって歩き出した。
「ふむ……」
流石に動きがあるか。ガーノの周りに、クリムゾンランスが現れ始める。だが……。
「?」
それらが、程なくして消え始めた。だが、ガーノは更に槍を空中に出現させようとする。その数、100本。だが、そのどれもが完全に完成せずに、その姿を消した。
「貴様……」
「相殺ぐらい分かりますよね。アリーのお爺さんなんですから」
俺は、依然として歩みを止めずに近づく。もうそろそろ殴れる距離に来そうだ。俺は、止めているローブの前側を開いた。これでいつも通り、動きやすくなったな。さて、やるか。俺は拳を握る。このまま何もなければ、殴って終わりだろう。そう思って近づいた。
「舐めるなよ」
その言葉と共に、電気で出来た檻が俺の周りに出現する。これは、初めて見る魔法だな。
「終わりだ」
何が、だろうか? 俺の動きを、制限しただけじゃないか。と、思ったが。その檻の中央で、巨大な爆発が巻き起こった。こういうことか。
「密閉された空間での爆発。防げるはずもなかろう」
「……」
檻が内側から崩壊する。中に溢れた空気が外に溢れ出し、爆風を逃していった。その中で、俺は特に表情を変えず、まだ歩み寄る。勿論、無傷だ。
「……」
「もうちょっと、狭い檻でやるべきでしたね」
風魔法で容易にしのげた。なんとかなるもんだな。
「さて」
殴れる距離に来た。殴るか。俺は、拳を構えた。
「なるほど、ガンドロスに勝ったと言うからただの体力バカかと思ったが、そうでもないようだな」
「ええ、魔法も多少使えます」
「あれ程のことをして顔色も変えず多少というか。謙虚どころか、大馬鹿だな」
「ありがとうございます」
狙いは腹だ。後は、このまま拳を突き出すだけだな。
「さて、では君に見せよう。人間では超えられぬ、壁というやつをな」
その瞬間、ガーノの周りが召喚魔法の魔力で包まれた。来るか、本命が。
「……」
光を身体にまとわせ、3体の巨大な獣が俺の前に姿を現した。炎纏った鳥、電気を帯電させている虎、そしてエイか、あれは。巨大な上に平たい。そして、何故か飛んでいる。エイって飛べないだろ。まぁ、魔物だし、出来ても不思議ではないか。
「さて、今度こそおわりだ。青年」
「ベイ・アルフェルトです」
「そうか。だがそれも、これで覚える必要がなくなる」
「どうですかね」
雷虎が、咆哮をあげて俺に襲い掛かってきた。風魔法を使って躱す。……流石に速いな。大事を取って、神魔級強化を使っておくか。俺は、神魔級強化を身にまとった。だが、まだ武器は構えない。
「グオオオッ!!」
「うるさい虎だ」
帯電しているせいか、近づくとビリビリするのが鬱陶しい。早めに片付けるか。
「ロック・ロック」
土の檻が雷虎を囲む。そして、その中を土の槍が貫き刺した!! ライアさんに貰った魔法だが、果たして効いているのか。
「……」
身構えること一瞬、土の檻が中からの雷撃によって強引に破られた。雷虎の爪が雷を纏い、より鋭くなっている。駄目だったか。と言っても、無傷ではないようだ。一瞬だが、動きがぎこちなかったな。
「ガオオッ!!」
怒り狂ったのか、雷虎が俺目掛けて突進してきた。仕方ない。俺たち流で行くか。
「寝てろ」
風魔法と火魔法を用いて最大加速をする。そして、腕にミルクのガントレットを出現させた。相手の突っ込んでくる力と、こちらの加速と打撃力。全てを乗せてこの拳を叩き込む!! 俺の土のガントレットが、狂いなく雷虎の頭に命中した!!
「!!」
流石に、これは訓練場の壁をぶち破ってしまうな。そう思った俺は、土の壁を魔法で作り、雷虎をそこで受け止めた。強く体を打ちつけた雷虎は、そこに伸びるようにしてぶつかり、地面に落下する。そして、動かなくなった。
「牛のほうが強かったな……」
俺は、ガントレットを消しながらそう呟いた。
「やるな……」
「どうも」
確かに強い。強いんだが、ライオルさん程でもないし、魔王ほどでもない。今の俺には、そこまで脅威でもないかもな。そう思いながら、俺は残り2体に向き直った。
「ならば、2体同時ではどうかな?」
「どうぞ」
まだ俺は構えない。そして、宣言通りに2体の魔物が同時に俺に向かって飛んで来た。火の鳥は真っ直ぐに、エイは……。地面に潜った? よく分からないが、まるで水に入るかのように地面に潜りやがった。何だそれ、便利だな。
「フロストストーム」
先ずは、氷の魔法で火の鳥の動きを止めるか。一直線に飛んできた鳥を、俺の魔法が捉える。だが、完全に俺に近づく前に凍らせることができなかった。 俺は、そのまま突っ込んでくる火の鳥を躱す。
「ははは、その程度では止められんよ」
ガーノは嬉しそうだな。やはり、こっちも俺達流で対処するしか無いか。さて、エイの方だが。後ろか!!
「ちっ!!」
俺の背後から、水魔法で出来た棘が飛んでくる。しかも、何か色が普通では無い。毒か? とにかく、当たったらヤバそうだ。俺は、風魔法で瞬時に移動して、棘を躱した。
「ストーム」
風魔法を操り、地面内から強大な風魔法の竜巻を発生させる。すると、エイが風魔法に巻き込まれて地上に出てきた。こっちの魔法は使えたな。ありがとう、ライアさん。そして、そのまま風魔法がエイを切り刻んでいく。瞬爪と呼ばれていた魔法の工程に今は近いな。それが、エイの皮膚をぼろぼろになるまで切り刻み、地面に叩き落とした。
「……」
まだ動けるようだ。尻尾を俺に向かって向けようとしている。そこに、カザネの風魔法で近づいて蹴りを放った。
「!!」
頭端を蹴り上げられ、お腹を見せるようにエイが地面に沈む。どうやら、倒せたようだ。
「鳥よりも、動きが遅かったのが敗因だな……」
カザネを思い浮かべながら、俺はそう思った。