建物移動
「さて、俺達も食べてしまうか……」
「そうね」
アリーと2人で食事を続ける。皆を呼んでも良かったのだが、ここは色々な人がいる城の中だ。何か面倒が起きても嫌だし、呼ぶのは控えておこう。そう思い、食事を続けた。
「ふぅ……、美味しかった」
「そうね。……まだ少し時間があるかしら。ちょっと、ゆっくりしていきましょう」
「そうしようか」
この部屋には、ベランダがあるようだ。俺は、近づいていって窓を開ける。すると、涼しい風が部屋に差し込んだ。顔を撫でる風が、とても心地良い。
「綺麗ね」
「ああ、そうだね」
部屋からは、町の明かりが一望できた。こう見ると、確かに綺麗だな。まるで、何処かの物語のワンシーンでも見ているかのような気分だ。しかも、隣には愛する嫁がいる。これ以上無い最高のシチュエーションだな。
「ベイ。今日は、勝手に話を進めてごめんなさい」
「良いさ。俺も、アリーと早く一緒になりたいから」
「ありがとう」
2人して自然と抱き合う。それから、特に何をするでもなく2人で街の風景を見ていた。このまま、時が止まればいいのに。自分のがらではないが、そう思うほど静かで優しい時間が過ぎていった。
「さて、そろそろ行こうか」
「うん」
そのまま、手を繋いで会場まで戻った。パーティも、もう終盤なのか何かの催しをやっている。それが今終わり、閉会の挨拶が始まった。
「おお、ベイ。帰ってきたか」
「父さん」
「……これから訓練場に行くことになるんだが、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ」
「そうか。あのガーノさん相手だが、何故だろうな。お前なら安心してみていられる気がするよ。いや、油断はいけないからな。そして、これだけは言っておく。その手で、お前の愛するアリーちゃんを掴み取ってこい。父さんから言える激励はこのくらいだ。頑張れよ」
「ああ、絶対に勝つ」
そう俺が言うと、剣が一振り俺の腰辺りに転移してきた。
(アルティ)
(必ず勝ちましょう。お供します)
(ああ、ありがとう)
アルティを、サリスを付けている近くに適当に巻き止める。うん、なんだかやる気になってきたぞ。
(マスター、ファイトです!!)
(ご主人様なら、楽勝ですって!!)
(うむ)
(ああ、頑張るよ)
「ノービスさんと、ベイさんですね。こちらにどうぞ」
「お、お迎え付きか。じゃあ行こうか、ベイ」
「分かった」
閉会の挨拶も途中だが、俺達とバルトシュルツ夫妻は、事務のお姉さんに連れられて、会場を後にした。そして、そのまま1階に降りて城を出る。少し離れた場所に大きめの建物があり、そこに入った。
「今、明かりをつけますね」
「おお、広いなぁ……」
そこは、縦に長い訓練場だった。あそこは、魔法を撃つ為のスペースかな?
「まぁ、200人ぐらいが一斉に訓練できる建物だからな」
「俺は、もうちょっと広くてもいいと思うんだがね」
「いや、魔法訓練場を別で建てましょう。そうすれば、あそこらへんが空く」
「そうしたいんだが、そんなお金ありませんと管理が厳しくてね。拡張工事しかなさそうだ」
ノービスとアドミルさんが、仕事モードに入って話をしている。色々あるんだなぁ、お城にも。
「それでは、私はこれで」
「ああ、ありがとう」
事務のお姉さんが帰っていった。後は、ガーノ待ちかな。暇だし、少し身体でも動かしておくか。
「ベイ君」
「はい?」
「俺と戦ってみないか?」
「良いですよ」
「あなた……」
「なに、俺もアリーの父親だ。彼の実力を肌で感じたい。それぐらい、良いじゃないか」
「そうですか……」
「ベイ君、あそこでやろう。この建物の中なら、まず死ぬなんてことはないから安心してくれ」
「ああ、はい」
死ぬことがない? ああ、学校の闘技場と同じ作りなのか。で、普通なら死ぬような攻撃で仕掛けてくると。口調は柔らかいが、敵意はむき出しって感じだろうか。まぁ、親ばかって話だったからな。そんな感じかもな。
「じゃあ、始めようか」
「はい」
建物中央あたりで、俺達は睨み合う。俺は、特に剣も構えず腕組みして相手の出方を待った。
「……何も構えなくて良いのかい?」
「ええ、どうぞ」
「分かった」
アドミルさんの周りに、見たことのある槍2つが出現する。クリムゾンランスか。爆発する炎の槍だな。
「これぐらい、軽く止められるだろ」
「ええ、そうですね」
「では、お手並み拝見!!」
槍が、俺に向かって飛んでこようとする。だが、槍は動かなかった。動こうとはしているが、何かに押さえつけられたかのようにガタガタと震え、その場にとどまっている。
「?」
「水糸……」
細い水の糸が、炎の槍をがんじがらめにして捉えていた。そのまま、糸が縮み槍を真っ二つに引き裂く。
「くっ!!」
アドミルさんの真上付近で、槍が爆発した。風魔法でシールドを張っていたようだし。まぁ、無傷だろう。俺は、適当にアドミルさんの出方をまた伺うことにした。
「……余裕そうだね」
「いえ、ガーノさんと戦う時の参考にしたいので、どんどん撃ってきてもらって対処法を考えたいんです」
「なるほど、俺は踏み台ってわけか」
「ガーノさんを、ねじ伏せないといけないみたいですからね。すいませんが、練習の相手をお願いします」
「君は、……何者なんだ」
「ベイ・アルフェルト。それ以上でも、それ以下でもありません」
「クリムゾンランスが、あんな対処の仕方をされたのは初めてだ。認めよう、君は普通じゃない。うちのアリーが、目をかけるだけのことはある」
「どうも」
「だが、それと結婚を許すのかは別だ」
「……」
「俺に認めて欲しくば、この俺を倒せ!!そう、何時迄も構えもせずに立っているだけじゃなくてな!!」
「……そうか」
瞬間、俺の体がブレる。次の瞬間には、俺はアドミルさんの腹に蹴りを入れていた。
「ガハッ!!」
「……手加減、しときましたよ」
アドミルさんが、その場にうずくまる。普通なら、吹っ飛ぶくらいまで蹴る所だが。生身で、しかもノーガードで受けたんだ。そうとう痛いだろう。これぐらいで良いだろうな。
「な、何が……」
「蹴りを入れたんですよ。それだけです」
「み、見えなか……。それに、距離が」
「俺が速かっただけです。大丈夫ですか?」
「うっ……、かはっ……」
やりすぎたか。だが、アドミルさんは立ち上がる。そして、回復魔法を使った。
「くっ、かはぁ……。まさか、これほどとは」
「続けます?」
「いや、やめておこう。俺では、君の相手にはならないらしい」
「そうですか……」
魔力はかなりあるようだが、戦闘慣れしてないんだろうな、アドミルさんは。確かに、これ以上やるのは無駄だろう。どう頑張っても、俺を捉えられそうもない。俺は、まだガーノが来ないので、1人で柔軟でもすることにした。